大阪芸術大学 アンドロイドと音楽を科学するラボラトリー「AMSL」を開設 最先端アンドロイド「オルタ4」との記念コンサートを実施

大阪芸術大学は2017年に日本唯一となるアートサイエンス学科を設置し、アンドロイドをはじめ、AI・IoT・5Gなど社会が求める先端テクノロジーを用いて、世の中をアップグレードするモノやコトを生み出せるアートの知見を養う環境を整備している。同大学は2022年6月15日、『アンドロイド』と『音楽』が融合する新たなアートサイエンスを生み出していく施設として、大阪芸術大学アートサイエンス学科棟に「Android and Music Science Laboratory (AMSL)」を開設したことを発表した。


最先端アンドロイド「オルタ4」×渋谷慶一郎客員教授の記念コンサート

完成を記念した開所式ではアートサイエンス学科の石黒浩客員教授・渋谷慶一郎客員教授、今井慎太郎客員教授らを迎えたパネルディスカッション、最先端アンドロイドオルタ4×渋谷慶一郎客員教授による記念コンサートが行われた。

「Alter4」は2022年のドバイ万博にも登場したAlter3の進化版であり、表情筋の可動域が増え、舌の動作が強化されたことにより豊かな表情を生み出すことが可能となった。また、全身の強度が増し関節数は43から53に増えたことによって、よりダイナミックな表現で音楽作品を表現する。

最新アンドロイド「Alter4」(Alter4の台座はAMSLと同様に妹島和世客員教授が設計)

アートサイエンス学科 渋谷慶一郎客員教授はアンドロイドと音楽が織りなすアートサイエンスの面白さについて、「アンドロイドと音楽を掛け合わせることでどのような作品を生み出せるか、ここ数年取り組んできましたが未だに開拓すべき大きな可能性があると感じています。このラボは立体音響の開発システムも導入したので、音像の移動や生成とアンドロイドの象徴性や発する言葉などとの関係を考えることで、人間だけでは作れない作品を作れたらアートサイエンスと呼ぶにふさわしいと思います。」とコメント。

そして、「事前にプログラムすることなく、私が演奏する音楽に合わせて、即興でアンドロイド自らが考えて歌うことのみでやってみようと思うので是非そこにも着目してもらえれば。」と演奏会の見どころを説明した。

演奏会では渋谷慶一郎客員教授による楽曲、ピアノ演奏と電子音と、Alter4による歌唱・自律的に生成された歌詞とが織りなす作品はまさに圧巻で、鑑賞している多くの学生や来賓の心を揺さぶった

新生アンドロイド Alter4の制作を担当したアートサイエンス学科 石黒浩客員教授は「これまでの研究課程において、人間を模倣していたアンドロイドがその殻を脱ぎ捨てることでより人間らしくなるのではというアイディアがAlterの原点です。その後開発を重ねていくうちにアンドロイドが自立し、人間の殻を脱ぎ捨て、アンドロイドとして発達するフェーズまで到達しています。」とアンドロイドの進化について説明。

「芸術の中に科学を見出し、そして科学の中に芸術を見出すことが本プロジェクトの意義だと思っています。アートやクリエイティブを用いて、非科学技術の再現性を追い求めたい。」とプロジェクトにかける想いを語った。

最新アンドロイド Alter4

プログラミングを担当したアートサイエンス学科 今井慎太郎客員教授は、「コンピュータ音楽家である自分が本プロジェクトに参加することで、これまで表現することができなかったアートを表現できるようになったことを発信する機会になりました。」と活動を振り返った。また、参加する学生に対して、「Alterは制作の中で成長していきます。創作のプロセスを開示し、学生にもその過程を見てもらう。学生にとって中長期的にプロセスを見ることができることこそが、本プロジェクトならではの学びになるのではないか。」とした。

完成したラボラトリーについて、建築学科 妹島和世客員教授は「このラボの構成要素はアンドロイドをはじめ一つひとつのものが濃厚で存在感があり美しいものだったので、いかに全体のトーンを描きながら設計していくか、を意識しました」とコメント。「まさしくこのラボから、アートサイエンスが始まっていく予感がします。このラボが、2025年の大阪・関西万博に向けての一つの出発点になり得るのではないか」と、ラボラトリーの今後に期待を寄せた。

式典(挨拶、テープカット)の様子

最後にアートサイエンス学科 学科長の萩田紀博教授より、「今回各界のスペシャリストにお集まりいただき、今まででは表現できなかったアートが生まれていく場所として、本ラボは始動しました。新しいアートサイエンスの表現するものとして、今までにない空間・表現作りの場として大阪芸術大学が起点となれば」との挨拶があった。




登壇者プロフィール

■アートサイエンス学科 渋谷慶一郎客員教授
音楽家。1973年、東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』(2018)など。2020年には映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021年8月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ『MIRROR』を発表。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を、作品を通して問いかけている。



■大阪芸術大学 アートサイエンス学科 石黒浩客員教授
ロボット工学者。1963年、滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻(栄誉教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年、大阪文化賞受賞。2015年、文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年、立石賞受賞。



■アートサイエンス学科 今井慎太郎客員教授
コンピュータ音楽家。国立音楽大学およびパリのIRCAMで学び、文化庁派遣芸術家在外研修員として2002年から2003年までドイツのZKMにて研究活動を、また翌年にDAADベルリン客員芸術家としてベルリン工科大学を拠点に創作活動を行う。2008年よりバウハウス・デッサウ財団にてバウハウス舞台の音楽監督を度々務める。2015年に作品集『動きの形象』を発表。ブールジュ国際電子音楽コンクールにてレジデンス賞、ムジカ・ノヴァ国際電子音楽コンクール第1位、ZKM国際電子音楽コンクール第1位などを受賞。現在、国立音楽大学准教授および東京大学非常勤講師。



■建築学科 妹島和世客員教授
建築家。1987年妹島和世建築設計事務所設立。1995年西沢立衛とともにSANAAを設立。2010年第12回ベネチアビエンナーレ国際建築展の総合ディレクターを務める。日本建築学会賞*、ベネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞*、プリツカー賞*、芸術文化勲章オフィシエ、紫綬褒章などを受賞。主な建築作品として、金沢21世紀美術館*(金沢市)、Rolexラーニングセンター*(ローザンヌ・スイス)、ルーヴル・ランス*(ランス・フランス)などがある。*はSANAAとして。



■アートサイエンス学科 学科長 萩田紀博教授
大阪芸術大学 芸術学部 アートサイエンス学科長ロボティクス研究者、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)萩田紀博特別研究所長。慶應義塾大学大学院工学研究科修士修了。工学博士。ロボットとアートの融合をめざす。2009年 志田林三郎賞、2015年 環境大臣賞、各受賞。




「Android and Music Science Laboratory」関係者クレジット(敬称略)
設計家具・内装 妹島和世建築設計事務所(担当 / 妹島和世、棚瀬純孝、降矢宜幸、原田直哉、松永理紗)
音響アドバイザー 清水寧
施工・建築 大成建設(担当/山浦恵介、松久峻也)
什器 空想舎、hhstyle.com (担当:渡邊淳)
カーテン クリエーションバウマン(担当 / 中島昌史)
照明協力 ミネベアミツミ株式会社
アンドロイド製作 株式会社エーラボ
音響システム 久保二朗(株式会社アコースティックフィールド)
プロジェクトマネジメント 松本七都美
プロデューサー 内藤久幹
協力 株式会社ヤマハミュージックジャパン、ヤマハ株式会社、NATIVE INSTRUMENTS、ATAK

ABOUT THE AUTHOR / 

山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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