プラント、ビル、空中で複数ロボットを連携させる「ハブ」を目指すブルーイノベーション
ドローンを運用・管理するプラットフォームを手がけるブルーイノベーション株式会社が、地上を走行するAGVを含めたソリューションを展開し始めている。インフラ点検やビル管理において、同社が開発している「Blue Earth Platform(BEP)」を活用し、ロボットやドローン、IoTセンサーなどを組み合わせたソリューションを点検や清掃、搬送などへの展開を目指す。どんな戦略なのか、同社広報の執行役員 CMOの山田宏一氏と、同 マネージャー 熊田明日香氏に伺った。
デバイス統合プラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」
ブルーイノベーション株式会社は1999年、海岸防災事業を手掛ける有限会社アイコムネットとして創業。当時は飛行ロボットを使った海岸モニタリングシステムを手掛けていた。そのときに開発したドローンの安全飛行管理システムが同社のドローン運用システムのベースになっている。
その後、2013年に社名をブルーイノベーションに変更し、ドローンを使ったソリューションを手掛け始めた。2018年には複数のドローンやロボット、IoTセンサーを統合管理するプラットフォームとして前述の「Blue Earth Platform(BEP、ベップ)」を発表。「ドローン・インテグレーター」として屋内や狭小空間を飛行するドローンを使って点検するビジネスを手掛けている。現在の社員数は約80名。
BEPには3つの機能がある。「動かす」、「集める」、「管理する」だ。移動ログを取りながら、目視外でも自律移動できるように計画し、搭載したカメラなどを遠隔制御しながら、動画や画像をクラウドにあげてAIで解析する。そしてその結果をフィードバックしたり、分析・解析ツールと連携する。
複数ロボットによる自動巡回点検
ブルーイノベーションではBEPを中核として「教育」「点検」「物流」「オフィス」の4つのソリューションに展開している。一つずつご紹介する。
まず「点検」では電力施設や上下水道などのインフラや工場、高所や狭所などハイリスクの場所をドローンやロボットで巡回点検する。人が従事している目視点検の自動化ソリューションを提供する。複数のロボットやドローンを使うことで定点カメラではカバーできないエリアの目視点検を実現する。近年では施設や設備の3Dモデル化や撮影画像を元にしたオルソ化のニーズが高いそうだ。
もともとブルーイノベーションではドローンを扱っていたが、発電所や、狭所でも人がもともと点検して回るようになっていたところではAGVを活用したほうが安価に済むということで、ロボットもBEPにつないで提供するようになった。
点検用の台車に使っているロボットは、本連載でもおなじみ(こちらなど参照)の移動ロボットを販売するDoog社の「サウザーミニ」だ。ブルーイノベーションとDoogは2021年6月に「移動ロボットの自動制御・連携による法人向けソリューションを共同開発」という業務提携を発表した。2022年2月にはサウザーミニとトッパンフォームズのIoTソリューションとを組み合わせたソリューションも発表している。ロボットが自動巡回し、アナログメーターなどを撮影して画像解析、レポートを作成する。
2022年4月からは「BEPサーベイランス」として本格的にサービスを開始している。電力会社や製造工場で導入されているという。
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煙突や石油タンクの予備点検やプラントだけでなく、送電線のドローンでの自動点検なども行なっている。活用するドローンには、送電線のたわみを予測検知して追従することができる独自開発センサーを搭載している。
ブルーイノベーションは基本的にハードウェア開発はしないが、こちらのセンサーモジュールは内製したものだという。
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2022年3月には、 東京都立産業技術研究センターによる「中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業 公募型共同研究」の一環として、ローカル5G基地局と360度カメラを使った自動撮影を組み合わせて「360°実写VRマップ自動生成・更新システム」を開発した。メーターなど特定の箇所だけではなく「設備全体の汚れ具合や全体を見たい」といった現場ニーズに応えるものだという。定期巡回する「BEPサーベイランス」のオプションとして提供される。詳細は都産技研のサイトに掲載されている)。
ドローンポートの物流ハブ化を目指す
「物流」は将来的な話だ。今後、地上0mから150mまでの空間を有効活用する時代を見据え、「レベル4」と呼ばれる「有人地帯での目視外飛行」が実現した時代でのドローンが離発着するドローンポートや「空飛ぶ車」の離発着ポートの開発などを目指す。ブルーイノベーションでは、BEPと連携したポートを将来の交通インフラのハブとしたいと考えており、自動で稼働するポートと自動運転車との連携の実証実験を、IHIと進めている。ドローンポートの運行管理システムについてはISOの標準化の取組も始めている。
オフィスビルの建物OSと連携、複数ロボットが自動清掃、搬送も
「オフィス」ソリューションは、スマートシティや、スマートビルディングでのロボットや設備の連携である。ビル管理のシステムと連携し、まずは清掃のソリューションをキーとして事業を進めている。具体的にはiRobotのルンバ、CYBERDYNE(サイバーダイン)と日本信号の掃除ロボット「CL02」、オムロンの複合型サービスロボット「Toritoss(詳細は本連載バックナンバー参照)」など、様々なメーカーのロボットを、BEPとつなぎ、一つのインターフェースで統合管理する。
ユーザーはカーペットやハードコートなど異なる床材に応じて適した機種を適切配置できるいっぽう、オペレーターは一つのインターフェースで、複数のロボットの作業状況や結果レポートを受け取って管理できる。
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こちらはセキュリティドアや空調、エレベータなどを管理する清水建設の建物OS「DX-Core」とBEPを介したロボット連携基盤の実証運用として2022年4月から「メブスク豊洲」で実施されている。
5月にはこの仕組みを使って、スーパーシティに指定されている加賀市の医療センターで複数ロボットが搬送や清掃などを行う実験を加賀市、清水建設、オムロンソーシアルソリューションズ、ブルーイノベーションの4者で実証実験を行っている。コンビニで品物を受け取って、患者のもとまで商品を届け、その様子をカメラでリアルタイムで送信できたという。
操縦士や管理者の養成も
「教育」分野ではドローン操縦士や安全運行管理者の養成などを進めている。ブルーイノベーションでは会員数2万人を超える一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の設立に関わるなどパイロットの育成だけでなく、補助金申請、子供向けプログラミング教室などにも力を入れている。
BEPの導入時にはまず客先の施設でPoCを進め、要件定義を進め、適切なソリューションを提案する。実証実験までにおよそ一ヶ月、導入までのリードタイムは平均半年程度。
ドローン・ロボットの運用者については顧客が直接行う場合のほか、パイロットを派遣してほしいと言われる場合などがあり、それぞれに必要に応じて運用や教育しているとのこと。
点検結果や清掃結果のレポートについても客先によってそれぞれで、客先の既存システムに生データを出す場合もあれば、簡易レポートをブルーイノベーション側で出すこともある。現在、サードパーティが開発している自動レポートサービスとBEPをAPI経由で繋げるための準備を進めている段階だそうだ。BIM/CIM連携についてはまだ準備中とのこと。
強みは「デバイスフリー」であること。BEPのAPIに対応するものであれば、どこのメーカーのデバイスであろうと繋げられる。
同社ではBEPを中心とした技術、ソリューションもまとめて提供していくこと、それができる人を一緒に育てていくこと、そして運用基準や国際標準化の部分に注力している。法規制などについてももともと官公庁のプロジェクトを一緒になって進めることが多く、官民一体となって業界ルールづくりに努めているとのこと。
様々なロボットを運用するためのハブへ
ドローンポートにせよ、AGVと建物OSとの連携にせよ、BEPは「ハブ」として機能している。今後、多くのロボットが使われる時代が加速するに従って、異なる複数メーカーのロボット同士の連携が、どの現場においても必ず必要になる。スムースな運用のためのルール作りも、様々なレイヤーで必要だ。
すでに様々な現場でロボット活用が進みつつある昨今、結果的にデファクトスタンダードができあがる可能性も高い。ブルーイノベーションもプラットフォーマーとなることを狙いつつ、自らも様々な具体的ソリューションを提案して事業を進めている段階だ。
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ブルーイノベーション株式会社
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!