NVIDIAは「GTC 2022」の基調講演で、メディアル・エッジAI・ユースケースを紹介した。「NVIDIA IGX」AIプラットフォームを発表し、高度なセキュリティと安全性を医療現場で実現する。「NVIDIA IGX」や「Clara Holoscan」は外科手術支援ロボットへの採用も決まっていて、基調講演ではベンチャー企業3社が紹介された。
「NVIDIA Clara」と言えば、NVIDIAが以前より医療向けの開発に取り組んでいることは知られている。そこに今回は「IGX」を活用し、安全で低遅延のAI推論を提供するハードウェアおよびソフトウェア・プラットフォームを紹介、ロボット支援手術や患者モニタリングなどの医療アプリケーション向けに、さまざまなデバイスやセンサーから得たデータを迅速に反映する医療現場のニーズに応える、と発表した。
IGXプラットフォームは、医療機器開発者がエッジ、オンプレミス・データセンター、クラウド・サービスで「NVIDIA Clara Holoscan」も提供する。この統合により、最新のAIアプリケーションを手術室に直接導入する新しいソフトウェア・デファインド・デバイスを迅速に開発することが可能になるという。
医療機器のスタートアップ3社が外科用ロボットに採用へ
医療機器のスタートアップ、3社 (Activ Surgical、Moon Surgical、Proximie) は、IGX プラットフォーム上で動作する「NVIDIA Clara Holoscan」を採用、外科用ロボット・システムを強化する考えだ。3社はいずれも、テクノロジースタートアップ企業のより迅速な進化を支援するグローバル・プログラム「NVIDIA Inception」のメンバーだ。
彼らは、すでに「Clara Holoscan」を使用して、AIアプリケーションを臨床現場に展開する取り組みを進めている70超の医療機器会社、医療センター、新興企業のうちの1つ。
ロボット手術のベンチャー企業が市場投入までの時間を短縮
Activ Surgical
Activ Surgicalは、リアルタイムの手術ガイダンスのためのAIおよび拡張現実ソリューションの開発を加速するために「NVIDIA Clara Holoscan」を選択したという。ボストンに本拠を置く同社のActivSightテクノロジーにより、外科医は肉眼では見ることができない血流などの重要な生理学的構造や機能をシステムを使って見ることができる。
この情報を手術画像システムに統合することで、同社は手術合併症の発生率を減らし、患者のケアと安全性を向上させることを目指す。
Activ Surgical の最高技術責任者である Tom Calef 氏は、次のようにコメントを寄せている。
「Clara Holoscan と NVIDIA IGX を使用することで、当社の手術向けのAIソリューションをデータドリブンの手術体験として変革し、高度な手術を支援できるようにすることを目指しています」
Moon Surgical
パリを拠点とするロボット手術会社 Moon Surgical は、手術室に既に設置されている機器やワークフローと連携する、低コストで柔軟な手術補助ロボットシステム「Maestro」をデザインしている。
Moon Surgical のCEOのAnne Osdoit氏は、次のように述べている。
「Clara Holoscan を使って、医療機器の開発サイクルで通常多くの時間を費やしている作業について心配する必要がなくなりました」
その代わりに同社は、エンジニアリング・リソースをAIアルゴリズムやその他の独自機能に集中させることができたという。チームは、Clara Holoscanを採用することで、パイプラインの開発時間を少なくとも6か月は短縮できたと推定している。
Moon Surgical は設立から2年足らずで、2023年前半にソリューションのプロトタイプを構築し、2023年末までにフル生産に移行する予定だとする。
Proximie
ロンドンを拠点とする Proximie は、テレプレゼンス・プラットフォームを構築して、リアルタイムの遠隔外科医コラボレーションを可能にしているが、Clara Holoscanがローカル・ビデオ処理を提供している。データのプライバシーを維持し、クラウド・コンピューティングのコストを削減しながら、ユーザーのパフォーマンスを向上させるとしている。
Proximie の創設者、兼 CEOのNadine Hachach-Haram博士は、次のように述べる。
「このコラボレーションのおかげで、私たちは可能な限り没入型の体験を提供し、世界中の手術室のデバイスが相互に通信して重要な視界を得ることができる弾力性のあるデジタル・ソリューションを提供することができます」
Proximie はすでに世界中の500を超える手術室に配備されており、これまでに数万件の外科手術を記録しているという。
エッジAI における医療コンプライアンス
「NVIDIA IGX」プラットフォームは、医療機器向けとして強力でコンパクト、エネルギー効率の高い AIスーパーコンピュータ「NVIDIA IGX Orin」を搭載している。「IGX Orin 開発者キット」は、2023年初めに利用可能になる予定だ。
IGX は、医療認証用に設計された産業用グレードのコンポーネントを備え、医療機器を臨床試験から実践での展開へと、容易に移行できるとしている。
組込コンピューティング・メーカーの ADLINK、Advantech、Dedicated Computing、Kontron、Leadtek、MBX、Onyx、Portwell、Prodrive Technologies、および YUAN は、医療機器業界向けの「NVIDIA IGX」ベースの製品を構築する最初の企業の1つになるという。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。