千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)は、東京大学 先端科学技術研究センターらが「JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト」で開発した「触覚提示実験装置」を搭載した軽量型の展示用椅子デバイス「Chainy」(チェイニー)を発表した。
タブレットの操作や映像とシンクロして、お尻や背中の触覚を刺激する装置が付いた椅子で、千葉工大の東京スカイツリータウンキャンパス(スカイツリータウンの8F)展示スペースにて、10月22日から12月18日の土日祝日に「Chainy」を一般公開して体験展示を行う。
■PV動画 Chainy – 感覚を生み出す椅子
要素技術となる触覚提示実験装置は、東京大学 先端科学技術研究センター堀江新(あらた)特任助教らがJST ERATO 稲見自在化身体プロジェクトにおいて開発した。一般公開がはじまる前日の10月21日に、同東京スカイツリータウンキャンパス内で報道関係者向け発表会と体験会が実施された。
豪快な花火を映像と音、「触覚」で体感する
「Chainy」は、千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパス(東京スカイツリーのそらまちにある)にて、10月22日から12月18日の土日祝日に限って一般公開する予定。誰でも体感できる。この展示フロアには、既に自分で好きな花火を選んで、組み合わせ、15mの巨大スクリーンに打ちあげることができる「打ち上げ花火をデザインする」が設置されている。「Chainy」は、これと連動し、花火を見ながら触覚で体験できる椅子として、一般来場者が鑑賞できるようにした。
展示用の3つのモード「マニュアル」「オート」「花火」
展示用に3つのモードが用意されている。ひとつはタブレットでユーザーが自由に触覚を提示する場所を指定できる「マニュアルモード」インタラクション性を体感できる。
2つめは「オートモード」タブレット画面上で上下・左右に移動するするバーに応じて、触覚提示が移動する。脚から背中へと広がる触覚が体感できる。
そして3つめが「花火モード」。目の前の巨大スクリーンに打ちあがる花火に応じて触覚が提示される。「視覚」x「聴覚」x「触覚」が体感できる。なお、打ち上げ花火のフォルムの変容によって変化する「Chainy」の刺激は、fuRo研究員らが開発した独自のプログラミングによってインタラクティブに連動する。
筆者を含めて、報道関係者も体験した。触覚提示装置はマッサージ機のようにツボを押すようなものではなく、弱めで回転する刺激が新しく感じた。テーマパークのようなアトラクションのようにドンッと驚かすような動きでもない。それでいて、上下左右に移動する刺激は明確に感じ取れる。体験者の感性によるところが大きいだろうが、花火との連動は筆者にはあまりピンと来なかったので、機会があればぜひ、自身で体験して頂きたい。
なお、今回の東京大学 先端科学技術研究センターとのコラボレーションは、2021年の春に、稲見昌彦同大教授と古田貴之fuRo所長との対話から始まった。椅子型触覚提示装置「Chainy」は、その第一弾の成果であり、これを皮切りに、両者は今後も連携を深め研究を進めていく予定としている。
■報道関係者向けデモの様子
「触覚提示実験装置」とは
技術的なポイントは「触覚提示実験装置」。背もたれや座面に複数の回転接触子(モーター)が埋め込まれていて、これらが回転することで触覚を刺激する。初期型として「TorsionCrowds」(トーションクラウズ)と呼ばれる椅子が開発されたが、その発展型として、コンパクト・軽量・コストなど実用性でブラッシュアップしたのが「Chainy」だ。
複数の接触子が皮膚表面に同時かつ広範囲に捻りを加えることで、力の二次元的な分布を提示する。また、前述のようにタブレットのアプリを操作することで、右から左、上から下のように刺激が移動していく制御を手動で行ったり、自動で移動するシステム制御もできる。
また、回転接触子群の回転角度や回転方向を制御すれば、体表面に生じる刺激の強度分布をダイナミックに再現可能な触覚ディスプレイになるとしている。
堀江氏は、「アバターによるメタバースでのインタラクション、身体を拡張するロボット、テレプレゼンス(遠隔操作)、遠隔コミュニケーション、筋電義手等の普及に合わせて、身体と情報層との境界を ”身体の感覚” によって有機的に繋ぐインターフェイスが必要」とし、触覚提示の重要性を解説した。
ヒトの身体運動や、物体との接触時に生じる皮膚のひずみの分布に着目し、接触子が回転することで皮膚をせん断変形させ,その周囲のひずみエネルギーを制御するしくみを研究、複数の接触子を並べ、協調的に動作させることで任意に設計した刺激強度の分布を形成するシステムを開発した。
トーションクラウズの社会実装に向けて「Chainy」を開発
今回開発した「Chainy」は、「TorsionCrowds」の基盤となる設計指針をもとに、社会実装に向けた装置として、展示用に実現された。実験機では2軸のジンバル機構に支えられていた回転接触子を、「Chainy」では金属の輪で連結して「鎖化する」という発想の転換がなされ、回転接触子群が鎖の面として体重の圧を柔軟に支え、かつその力を面的に分散させることができる。軽量化と低コスト化を同時に実現し、既存のオフィスチェアなどに埋め込むこともできるとしている。
fuRoは「映像体験や、メタバース体験、遠隔体験への需要がますます高まるなか、今回の展示用装置「Chainy」は、身体拡張体験の一つとして様々な未来の椅子のありようを来場者に投げかけることでしょう。知覚や身体活動の一部に障がいのある方への触覚による身体体験の支援など、想像が広がりそうです」とコメントしている。
■TorsionCrowds: Multi-Points Twist Stimulation Display for Large Part of the Body
・「Chainy」紹介ページ https://www.furo.org/chainy
・15m巨大スクリーン展示「打ち上げ花火をデザインする」 https://cit-skytree.jp/exhibitions/打ちあげ花火をデザインする/
・千葉工業大学 東京スカイツリータウン キャンパス https://cit-skytree.jp
・千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo) https://www.furo.org
・東京大学 先端科学技術研究センター 稲見・門内研究室 https://star.rcast.u-tokyo.ac.jp
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。