アマノとPreferred Robotics、自律移動小型床洗浄ロボット「HAPiiBOT」を発売 クラウド管理も可能に

アマノ株式会社と株式会社Preferred Robotics(PFRobotics)は共同開発した自律移動可能な小型床洗浄ロボット「HAPiiBOT(ハピボット)」を、2022年10月26-28日に東京ビッグサイトで開催された「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2022」(主催:公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会、一般社団法人日本能率協会)のアマノブースで公開し、デモンストレーションを行った。

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壁際15cm、90cm幅を走行可能な小型床洗浄ロボット「HAPiiBOT」

「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2022」アマノブース

「HAPiiBOT」は、自己位置認識や画像セグメンテーション等のAI技術を搭載した、本体横幅56cm(20インチ)サイズの床面洗浄ロボット。事前に登録したマップ・ルートを元に、人や障害物を認識して床清掃を行うことができる。環境側に位置マーカーなどを設置する必要はない。

清掃幅は508mm。壁際15cmまで寄れ、90cmの狭い通路を走行できる。本体の重さは190kg。駆動輪は中央の二つで、バックもできる。乗り越え可能な段差は「自動運転ではおそらく数mm程度」という。

90cmあれば走行可能で壁際15cmまで寄れる

エレベーター連携によるフロア間移動はできない。このロボットが対象とするハードフロアは、スーパーにしろオフィスビルにしろ低層階が多く、それならば人手で動かしたほうがいいと考えて、開発優先順位を下げているという。

連続稼働時間は約2時間。導入により深夜早朝の清掃作業の省人化が可能になるとしている。価格は320万円(税別)+年間の保守メンテナンス代。月額定額 99,000円で利用できる「レンタルパック」も提供される。売上目標は2022年度(23年3月期)に200台、2023年度に600台。


各種物体を認識、適した自律行動で自動清掃

正面にはToF、RGBカメラなどを搭載

正面には人・物体を認識するRGBカメラと、距離を認識するToFセンサー、超音波センサー、段差検知センサー、LiDARを搭載。前述のとおり横幅90cmあれば食品スーパーのレジとレジの間など狭い通路でも清掃できるほか、防犯ネット、足の細いショッピングカート、床に敷かれたマットなど従来の技術では難しい物体も認識して回避することで自動で清掃作業を行う。そのため従来は小型手押し洗浄機しか使えなかった施設にも導入できるとしている。

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なお、単なる物体に対しては回避走行を行うが、人間を認識した場合には一時停止し、人が移動したあとに再度、移動開始する。人同士でもあることだが、人とロボットが同時に回避しようとすると、同じ方向に回避してしまうことがある。そのため人の場合は一時停止するようにし、いなくなったあとに走行を再開するようにした。

従来のロボット掃除機ではできなかった物体認識で適切な対応をとる

ルート設定方式は2種類。手押しの床洗浄機を操作するようにロボットを押して教え込む方式と、まず清掃対象エリア外周を一周して登録し、そのあと、中を塗りつぶすように走行可能ルートを自動生成させるマッピング方式がある。

ルート設定方式は手押しによるティーチングと、外周だけティーチングで中は自動生成のマッピングの2種類


掃除ロボットを遠隔運用できるクラウドロボット管理システム「AMANO Robot Cloud」

「AMANO Robot Cloud(アマノ・ロボット・クラウド)」

アマノは今回、ロボットの遠隔操作を行うためのクラウドサービス「AMANO Robot Cloud(アマノ・ロボット・クラウド)」も同時リリースした。遠隔で複数台のロボット稼働状況をリアルタイムに監視し、クラウド上でロボット単独では回避が難しい障害物に対する清掃ルートの臨機応変な変更等が可能になった。これにより、現場に赴かなくても対応できることが増え、現場管理者の工数を削減できる。

遠隔でロボットルートの修正などが可能に

アマノ株式会社 クリーン・ロボットソリューション事業部 ロボットソリューション推進部長 兼 クリーンシステム営業部長の石塚豪氏によれば「これまでは夜中に止まったりすると、現場責任者やサービスマンが駆けつけていた。それを遠隔で解除ボタンを押したりバックさせたりできる」という。ちなみに、バックできる洗浄機は非常に珍しいとのこと。

アマノ株式会社 クリーン・ロボットソリューション事業部 ロボットソリューション推進部長 兼 クリーンシステム営業部長 石塚豪氏

管理者がマップの修正や稼働時間のチェックをすることもできる。適切ではないルートの修正や、壁際部分までギリギリまで寄せたり、念入りに掃除させたい部分の往復回数を増やすといったことも可能だ。

将来は、アマノ以外のロボットの管理機能も視野に入れる。


残水がない自動床洗浄が可能なアマノの技術

デザイン等は既存のEGシリーズを踏襲

アマノは2014年に国内では初めて本格的な業務用ロボット清掃機の事業展開を開始。清掃作業員の人手不足対策や清掃作業効率化によるコスト削減を支援してきた。今回の「HAPiiBOT」のベースになっているのは2018年に発売した大型施設向け自律走行式 ロボット床面洗浄機「EGrobo」だ。

「HAPiiBOT」は人にも動きがわかりやすいように、左右に曲がるときはウインカーと音声で案内しながら走行する。最高時速は4km。

スキージーで残水がないように床洗浄が可能。後ろのチューブで水を吸いながら走る

水と洗剤を用いる床面洗浄方式だが、後ろにスキージーがついていて、残水がないように掃除することができる。前述のようにスーパーのレジとレジの間でも走行可能で、スキージーを引っ掛けずに走行できる。90cmの通路幅が掃除できれば、ほぼ様々な場所を掃除できることになるという。


アマノの洗浄技術とPFRoboticsの頭脳の融合

株式会社Preferred Robotics 代表取締役 CEO 礒部達氏

PFRoboticsは、ディープラーニングなどAI技術に強みを持つ株式会社Preferred Networks(PFN)の子会社として2021年11月に設立された企業。自律移動ロボット開発に特化しており、今回の「HAPiiBOT」が初めての製品となる。なおPFRoboticsは会社設立と同時にアマノ、2022年3月には旭化成ホームズ株式会社、株式会社三井住友銀行との資本業務提携を発表しており、現在、家庭向け自律移動ロボットの開発を進めていることを明らかにしている(2022年10月現在で公開されている詳細については本連載過去記事を参照)。

「HAPiiBOT」の開発期間は一年弱とのこと。アマノは以前から掃除ロボットを開発している(参考:2018年の「EGrobo」発売時のリリース)。では「HAPiiBOT」の開発にあたりPFRoboticsが貢献したのはどの部分なのか。

株式会社Preferred Robotics 代表取締役 CEOの礒部達氏は「一言でいうと自律移動」だと語る。自己位置認識、自律移動のためのナビゲーションシステムなどだ。SLAMでは画像とLIDARを両方使って安定化させている。「スーパーは催しもの等でレイアウトが頻繁に変わる。それにも対応できる」という。

「HAPiiBOT」搭載の各種センサー情報を組み合わせて物体認識、自己位置推定を行う

PFNの技術とスパコンを使って訓練した画像セグメンテーションと物体認識、具体的には従来のセンサーでは見えなかった床面マットを認識したり、人間を認識して一時停止したりといった動作の実行など深層学習に関する部分もPFRoboticsが貢献した部分だ。

また、低消費電力のエッジCPUボードなどもPFRoboticsが貢献した部分だ。「コストを下げながら機能を上げていくためにはハードウェア技術やコンピューティングにおいても様々な技術が必要で、それを評価して頂いた」(PFRobotics 礒部氏)。

これらPFRoboticsの技術と、アマノが従来から持っていた洗浄機のハードウェア技術を統合することで、高い洗浄力、節水性能、使いやすさ、そして安全な自律移動を兼ね備えた自動清掃ロボットを実現できたという。

特に壁際ギリギリまで寄れたり、幅90cmの通路にまで入れるところは「かなり力を入れて開発した」とのこと。本体幅自体は60cm弱だが、後部のスキージーは幅80cmあるので、90cm幅といっても左右合わせて余裕は10cm程度しかない。片側だけなら5cmくらいなので、ほぼギリギリである。

後部スキージーの幅は80cmあり、90cm幅通路では、ほぼギリギリ

アマノの石塚氏は「従来機種は1200mm以上ないと入れなかった。自分達の技術だけでは物体認識に限界があり、狭いところには入れなかった。より小型のロボットで高度な自律走行をさせたいという思いがずっとあった」と語る。そして「PFRoboticsの頭脳を載せることで900mmまでいけた。この幅が通れればほとんどの通路を通れる。全ての床洗浄がロボットに置き換わっていく第一歩だと考えている」という。


違和感なく市場に導入、数年かけてリプレースを狙う

売上目標は2022年度(23年3月期)に200台、2023年度に600台

アマノの洗浄機のマーケットは年間2000台。従来機種のEGシリーズと似た形状とした理由は、そうすることで「違和感なく市場に入っていけるのではないか」と考えたため。今後、従来機種から5-7年くらいかけてリプレースしていくことを狙う。

「HAPiiBOT」の清掃能力、1時間あたりの清掃可能面積も、従来機種とほぼ同等。従来の手押し方式の機材を使っている人がロボットを使えるようになることで、人手不足解消を狙う。

アマノではロボットを使うことで明確に「一人減る」とは言っていない。現場ごとにロケーションが異なるからだ。「従来の汎用機を使っている時間は1日だいたい2時間くらい。ビル清掃は床だけでなく壁も拭くし、トイレ掃除もする。合計掃除時間は4−5時間くらい。そのうち2時間分をロボットが掃除できるようになるぶん、省人化できると思う」という。

なおインターフェースはアマノが担当し、高齢者が多い現場の人にとっても使いやすいものとしているとのこと。基本的には現場ユーザーは「スタート位置までロボットを持っていって、ボタンを押すだけ」で使える。地図の修正や稼働時間のチェックなどはあくまで管理者向けと位置付けている。

大きな画面に大きな文字でわかりやすいインターフェースに

開発過程では実際のスーパーマーケットでも実証実験を行い、かなりのテストを行ったという。PFRoboticsの礒部氏によれば「障害物の種類や、それぞれを認識するために、どういうアルゴリズムを使わないといけないかを検討し、それぞれ学習させた」とのこと。スーパーならではの環境としては、床面がツルツルピカピカしていて、その照り返しによるフォールスネガティブ(偽陰性)などはあったとのこと。


「このサイズがもっとも市場がある」

PFRobotics 礒部氏(左)とアマノ 石塚氏(右)

市場には吸塵式なら、もっと小型の業務用掃除ロボットもある。たとえばソフトバンクロボティクスは「Whiz」シリーズが既に「累計出荷台数2万台を超えた」と発表している。

水を出して床を洗浄するタイプの「HAPiiBOT」は小型といっても、やや中途半端なサイズにも思える。だが石塚氏は「この大きさが市場ではもっともニーズがある」と語る。「(アマノの)EGシリーズはボディサイズは全部同じで、先端のブラシの大きさで清掃面積を変えている。1000平米のスーパーマーケットでもこれだし、2000平米以上の面積でもヘッドを変えることで違和感なく作業者が操作できる。洗浄技術は難しいので、そこのロボット化が完全にできるようになればニーズは広がっていく」という。

ライバル企業のハードウェアは中国製ロボットが多い。だが、アマノ「HAPiiBOT」は国内開発、国内製造だ。同社の掃除ロボットはこれまでにも工場などにも導入されており、それらの現場では、データ流出リスクを考えて国産機を選ぶユーザーが多く、「HAPiiBOT」はそこにもアピールできるという。

業務用掃除ロボット普及のカギはどこにあるのだろうか。石塚氏は「どれだけ人に近づけた清掃ができるか」にあると語る。「まだ人にはかなわない。ぜんぶ置き換えるにはまだ能力が足りないので、ロボットと人の両方が必要。他社さん含めて、壁際と狭い通路をどうするのかが大きな課題で、ロボットで全部置き換えられるようになれば、市場は大きい」(アマノ・石塚氏)

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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