NVIDIAは「医療の新時代を支えるNVIDIAのAIとデジタルツイン」と題して、日本の報道関係者向けブリーフィングを11月1日に開催した。ブリーフィングでは、NVIDIAの山田氏が登壇した。
現在、医療やヘルスケア、創薬分野で生成されているデータは膨大となり、世界の総データ量の約30%が医療分野で生成されていると語られた。また、山田氏は、ヘルスケアとライフサイエンスに関して「医療分野は世界最大のデータ産業であり、2025年までのCAGR(年平均成長率)が36%」であることを紹介し、AI活用、デジタルツイン、手術支援ロボット、大規模言語モデルと創薬など、医療分野でのAIとICT最先端技術を活用した最新状況が紹介された。
NVIDIAは、世界中の企業や機関がこれらビッグデータを効率的に活用し、臨床現場で活用するためのAIコンピューティング プラットフォーム「NVIDIA Clara」(クララ)を提供、ブラッシュアップと新機能の開発を行っている。
今回のブリーフィングは、その最新情報を報道関係者に紹介するための説明会として開催した。新しい発表ではなく、主に「GTC 2022 秋」で紹介のあった既存情報を中心に、その詳細を解説した。
「医療分野は世界最大のデータ産業」
NVIDIAの山田氏はヘルスケアとライフサイエンスに関して「医療分野は世界最大のデータ産業であり、2025年までのCAGR(年平均成長率)が36%」だと語り、「医療機器の開発にはAIコンピューティングのプラットフォームが必要不可欠になっている」ことを強調した。
もちろんビッグデータの解析にはAIが重要で、GPUの導入もますます加速しているという。
ここでいう医療分野とは、医療機器、イメージング、創薬、ゲノミクス等を指している。NVIDIAのサービスとしては「NVIDIA Clara」、アプリケーション・フレームワークとして「HOLOSCAN」「MONAI」「FLARE」「PARABRICKS」「BIONEMO」などを提供している。
既に医療分野でGPUやAIが活用されている具体的な例をあげると、X線を使った「CT」検査がある。CTは既に画像診断では普及している装置で、脳や心臓、肺など、人体の内部を、いわゆる輪切りした画像を多数撮影して、現状を確認したり、病床をみつけるのに役立つ機器だが、最近では輪切りの画像から3Dデータを生成し、脳や臓器を立体モデルとして画面上に可視化する機能へと拡張されている。リアルな3Dデータの生成には膨大な演算能力が必要になり、活用されているのがGPUであり、AIモデルということになる。
他にも、NVIDIAのソフトウェア技術とAIコンピュータ技術は、ロボット支援手術での制御、内視鏡検査での認識、超音波検査の誘導、画像診断(可搬)、放射線治療の適応型制御、顕微鏡検査での発見などに寄与しているという。
山田氏は「Clara Holoscan」でシステムを開発するために同社が提供しているソフトウェア(SDK)、開発者向けキット、NVIDIA IGXを紹介した。
山田氏は「医療機器では処理の遅延が課題になっていて、低遅延で作業するための高性能な処理演算能力が求められる。また、NVIDIAは内視鏡とか超音波装置に向けて医療機器を意識したサンプルのアプリケーションなどの提供も行なっている。そのため、医療機器メーカーはそのサンプルアプリケーションでまずすぐに評価できて、自身が開発されているAIに組み替えることで、アプリケーションを手軽に改変するなど、開発を展示館で進めることができる」と語った。
更にIC60601というソフトウェアの安全規格がありますが、これをクリアするための細かいドキュメントも用意している。更に、もう1つ大切なこととして、10年間のソフトウェアサポートを契約に基づいて提供している」と続けた。
医療現場や医療機器メーカーが抱える課題を「HOLOSCAN」で解決でき、セキュリティなどの面でも充実していることをアピールした。
既にロボットにも「NVIDIA IGX」や「HOLOSCAN」が搭載されている。各社のプラットフォームに低遅延のリアルタイム性を実現している。
主要な目的として以下が挙げられる。
・セグメンテーションによる臓器や組織の配置認識
・配置認識に基づくアクション(切除等)や注意喚起のナビゲーション
・手術ロボットの場合は動作計画の生成
・支援ロボットの場合はシーン分類、シーン把握による先回り準備
など。
医療分野での「デジタルツイン」
「HOLOSCAN」の解説のあと、医療分野での「デジタルツイン」と「創薬」についての現況を解説した。
内視鏡や手術支援ロボットなどにAIを搭載し、ソフトウェアのアップデートによって機能が更新され続ける医療機器では、「デジタルツイン」でのシミュレーションが鍵となる。医療機器メーカーがこのような機器を量産に向けて開発するためにはリアルタイムで安全なデータ処理を可能にし、さまざまな規制要件を満たし、長期間にわたってサポートし続けるなど多くの課題があるという。このような課題を解決し、医療機器メーカーがSaaS型のビジネスモデルを実現するためのソリューションとしてデジタルツインが活用されている。
世界中のさまざまな産業が現場の効率化や事故抑止のため、仮想空間でのシミュレーションを重視し、そこで充分な検証を重ねる、という動きが高まっている。医療分野においても同様で、デジタルツインの技術は、物理的に正確なシミュレーションがワークフローの理解を促進し、患者の転帰の向上に貢献できるかを、手術室を事例として紹介された。
山田氏は、PyTorchベースのヘルスケア画像分野におけるディープラーニングのオープンソース・フレームワーク「MONAI」(MEDICAL OPEN NETWORK FOR AI)も紹介した。
「創薬」分野で大規模言語モデルの活用
「Transformer」を始めとする大規模言語モデルが注目されている。実はこれら大規模言語モデルを、タンパク質構造や生体分子特性の予測に活用する動きが活発だという。これによって創薬のプロセスを大幅に加速させることが期待され、世界中の製薬企業を中心に注目が高まっている。
ただ、大規模言語モデルの学習と展開は、技術的に決して簡単ではない。そのため、NVIDIAは、研究者が大規模言語モデルのトレーニングをより簡単に行うための、生物学および化学領域に特化したフレームワーク「NVIDIA BioNemo」を9月に発表。説明会では、このフレームワークの機能の詳細およびサービスが解説され、世界中の製薬関連企業による大規模言語モデルの活用事例の一部が紹介された。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。