ソニーが嗅覚の測定装置を発表 独自のにおい制御技術「テンソルバルブ」を搭載、認知症やパーキンソン病などの早期発見へ

ソニー株式会社は、独自のにおい制御技術「Tensor Valve」(テンソルバルブ)テクノロジーを開発した。また、その技術を搭載した医療分野等での学術研究向け、におい提示装置『NOS-DX1000』を来春発売することを2022年10月5日に発表、都内で報道関係者向けに発表会を開催した。

ソニー におい提示装置『NOS-DX1000』。推定の市場価格は230万円前後になる予定



におい制御技術とは、嗅覚が正常かどうかを確かめるために、匂いを出したり即座に消したりする技術のこと。嗅覚異常の発見が、認知症やアルツハイマー病などの早期発見に繋がる可能性がある、と期待されている。
既に普及している視力検査装置と同様に、嗅覚検査も手軽に行えるようにできる社会を目指す。


タブレット上での操作して提供するにおいを選択。被験者は嗅いだ匂いをどのように感じたかをタブレットで回答する

嗅覚検査が病院やクリニック等で簡単に受けられる社会を目指す

■Sony | NOS-DX1000 – Tensor Valve™ Technology


現在の嗅覚検査は主に手作業

報道説明会では、『NOS-DX1000』のような嗅覚検査装置の普及に期待する有識者によるトークショーが行われた。


現在、視力検査装置は病院などで手軽に広く利用されているものの、嗅覚の検査は主に手作業で紙の検査用紙で行われているという。手間と時間がかかり、一度拡散した匂いを消すのにも面倒な作業が伴うため、手軽な検査とはいえないという。『NOS-DX1000』はそれを機械化し、DXする画期的な機器となり、嗅覚検査が視力検査並みに普及させる可能性がある。

薬剤や綿棒を使った手作業による嗅覚検査を実演する金沢医科大学 耳鼻咽喉科学 三輪 高喜 教授

金沢医科大学の三輪高喜教授は「コロナ感染症や好酸球性副鼻腔炎に伴う嗅覚障害など、耳鼻咽喉科分野での嗅覚測定の需要が高まる一方で、嗅覚測定を行える医療機関は限られています。本機では手間なく、においもれなく、場所や時間を気にせず嗅覚閾値の測定が行えます。測定者の測定手法のバラつきも少なく抑えられることが期待され、結果の比較がしやすく、被験者の負担も従来よりも軽減すると期待しています」と語った。


重病の早期診断・発見に期待

また名古屋大学の 勝野雅央教授は「神経変性疾患(パーキンソン病、レビー小体型認知症、アルツハイマー型認知症)において、嗅覚低下がリスク評価や早期診断に寄与しうることが数多く報告されています。神経変性疾患においては、手軽な評価手段が少ないため、嗅覚測定は患者や医療従事者に負担の少ないスクリーニング手法として期待は大きく、また今後、嗅覚低下と神経変性疾患の関係について研究が進むことで、これらの疾患の原因究明、治療判断、予防などに貢献する可能性にも大きく期待しています」と語った。

東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科 神経内科学 勝野 雅央 教授

『NOS-DX1000』は現時点では、医療機器としての承認はないため、治療や診断などの医療を目的とした機器ではなく、研究用途として販売する。また、承認については機会自体ではなく、第一薬品産業株式会社から発売される『NOS-DX1000』専用カートリッジに対して承認申請が行われる予定という。

第一薬品産業株式会社から発売される『NOS-DX1000』専用カートリッジ

そのため本機は、治療や診断などの医療を目的とした機器ではなく、当面は研究用途として販売や提供することとなる。
対象は医療機関をはじめ、研究機関、自治体等等、嗅覚測定や嗅覚トレーニング、またにおいサンプルの確認や検証など、においにまつわる研究や測定の用途に展開する。


独自のにおい制御技術「Tensor Valve」

なお、独自のにおい制御技術「Tensor Valve」の特徴は、様々な匂いを簡単に提示し、その匂いを一瞬で消すことができること。

リニアアクチュエータバルブのイメージ

『NOS-DX1000』はこの技術で”様々な匂いの出し消し”を自在に制御し、被験者は何の匂いをどのくらいの強さで感じたかなどをタブレットで回答することで、研究者や医師が評価することができる。(『NOS-DX1000』は匂いセンシングなどの技術を提供するものではない)

アクチュエータ駆動でバルブが開き、流路を通過してにおいが届く

同社は「ソニーグループのPurpose(存在意義)は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」。人の感動体験のベースとなる五感の中で、ソニーがこれまで主に取り組んできたのは「視覚」「聴覚」の領域でした。また、「触覚」と連動した体験価値の提案も進めています。今回、「嗅覚」に関する技術開発テーマを加えることで、新たな価値創出をめざします」と語った。


嗅覚検査の普及に向けて

コロナ感染症の症状の一つとして、嗅覚の異常がクローズアップされたため、一般の人にとって嗅覚に関する関心が高まった。それ以前から嗅覚異常がさまざまな神経系をはじめとした疾病の早期発見に有効であることはうたわれてきた。報道関係者向け発表会には多くの報道時が詰めかけ、「Tensor Valve」と『NOS-DX1000』を体験する姿が見られ、関心の高さを伺わせた。




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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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