NTTグループは2023年2月10日(金)、渋谷のBunkamura オーチャードホールにてコンサート「Innovation × Imagination 距離をこえて響きあう 未来の音楽会II」を開催した。このコンサートは世界で初めて4ヶ所の会場を繋いで実施された。東京(渋谷)、大阪(堂島)、神奈川(横須賀)、千葉(我孫子)を光通信で接続し、NTTが開発しているIOWN構想に基づく技術が導入され、時間のタイムラグがわずか1000分の20秒の中で、別々の場所でオーケストラの演奏、ピアノ・デュオ演奏、ピアノ・デュオとバンドネオン演奏などが実施された。
コンサートは「未来の音楽会」として公開され、コンサートホールとして人気がある会場、Bunkamura オーチャードホールに詰めかけたほぼ満員の観客は、距離を超えたオーケストラ演奏や合奏をたっぷりと楽しんだ。
株式会社NTT ArtTechnologyと東日本電信電話株式会社(NTT東日本)は、株式会社東急文化村、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)と連携し、IOWN構想の柱であるオールフォトニクス・ネットワーク関連技術(IOWN APN関連技術)で東京-大阪-神奈川-千葉をつないで、多地点間協奏の実現可能性を検証するリアルタイム・リモートコンサートを実施した。
400kmの距離を超越した合奏を実現
コロナ禍によって、音楽コンサートのオンライン配信やリモートレッスンなど、音楽シーンにも新技術の導入が求められている。演奏者が別の場所でひとつの楽曲を合奏するのもそのひとつ。
一方で、従来からリモートによる会議や通信では、通信や音声・映像の遅延が発生することが知られていて、合奏を成立させるにはとうてい困難という課題があった。これはテレビ放送でも遅延は発生するため、同様の状況で複数箇所からのリアルタイムでの同時演奏はできなかった。
これらの課題に対し、IOWN APN関連技術である低遅延伝送技術と低遅延映像処理技術を組み合わせることで解決することに挑戦、今回で4回目となるコンサートを成功させた。
大阪会場(演奏者・観客): 堂島リバーフォーラム
神奈川会場(演奏者): NTT横須賀研究開発センタ
千葉会場(観客): NEC我孫子事業場
未来的なコンサートの概要
今回のコンサートは、東京-大阪-神奈川-千葉の1都1府2県をつなぎ、リアルタイムのリモート環境でコンサートを行なった。東京と大阪の距離は約400km。ピアノデュオ「アン・セット・シス」山中惇史さんと高橋優介さんが、それぞれ東京と大阪の会場からピアノ演奏を行い、J.ウィリアムズ作曲の「ヘドウィグのテーマ」(映画「ハリーポッターと賢者の石」より)と、「ネバーランドへの飛行」(映画「フック」より)の2曲を、見事に息の合ったデュオで披露した。
なお、観客は東京と大阪、千葉会場で演奏を楽しんだ。
ピアノとバンドネオンの3拠点演奏
休憩を挟んで、東京と大阪にわかれたピアノデュオ「アン・セット・シス」に、横須賀からバンドネオンの三浦一馬さんが加わった。東京と大阪でピアノ、横須賀でバンドネオンと、3拠点で「フーガと神秘」などを合奏。観客はその音色に酔いしれた。
東京から指揮、オーケストラ演奏は大阪
大阪会場では、大阪芸術大学ウィンド・オーケストラが登場。東京の三ツ橋 敬子さんが指揮し、ウィンド・オーケストラが演奏するという快挙を成し遂げた(東京・大阪それぞれに双方が写ったモニタが設置され、音と共に指揮や奏者の映像はそのモニタで同期した)。
これは指揮者が遠隔からリモート環境でレッスンを行うことの実現性も示唆している。
東京と大阪でオーケストラ演奏
そして、クライマックスは東京と大阪でのオーケストラ演奏。東京の東京フィルハーモニー交響楽団のオーケストラ演奏に、大阪から大阪芸術大学ウィンド・オーケストラの吹奏楽が参加して、アイーダより「凱旋行進曲」を三ツ橋 敬子さんの指揮で演奏した。2ヶ所での合奏に違和感は全く感じず、未来に向けた新たな体験を共有した。
NTTグループは「IOWN APN関連技術を活用した4地点間での双方向性のある音楽体験を提供するコンサートです。このコンサートでは、技術的な検証を行うとともに、演奏者と観客の双方にとって価値のある音楽体験を提供できるかを検証します」とコメントした。
奏者からは「1000分の20秒というのは舞台上のオーケストラ間でも発生しうる、ごく小さい時間差。会場や舞台によって、私達はそのわずかな時間差に対応しながら演奏している。それが東京と大阪でもこれほど少ない時間差で実現できるのだから、本当に未来の技術だと感じる」と感想があった。
IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)関連技術の特長
この技術はどのようにして実現しているのか。通信には従来の光ケーブル(有線)を使っているが、パケットではなく波長で飛ばして専有する技術が使われた。通信の遅延を短縮することで、プロの演奏家でもリモートで違和感なく演奏可能であることを確認した。
前回の実証実験では東京オペラシティと調布で約10km、今回は東京・大阪間の約400kmと飛躍的に距離を伸ばした。実績から言うと、日本国内であれば近い将来、どこでもこの環境が実現できそうだ。一方、日本と欧米とを繋いでの協奏コンサートも期待したくなるが、光信号の速度を鑑みると、1000分の20秒の低遅延通信を実現するのは6000km程度が限界とも考えられるという(東京とパリ間で約9700km)。
低遅延伝送技術
電気処理を主体とする通信装置(ルータ、レイヤ2スイッチなど)を使用せず、非IP方式のレイヤ1通信パスをエンド-エンドに設定することで、物理的極限に迫る低遅延化を実現。このような特徴を持つオールフォトニクス・ネットワーク「APN端末装置」をユーザ拠点に設置することで、ユーザの手元への100Gbps超の通信を提供することを可能にしている。
低遅延映像処理技術
各拠点からの映像を縮小し、1つのモニタの画面を分割して表示する処理について、伝送される映像を入力された順に画面配置を制御しながら表示することで、処理装置への映像入力から出力までの処理遅延を10ミリ秒程度以下で実現した。
今回のコンサートでは、将来的なIOWN APN技術の社会実装を視野に入れ、マルチベンダ構成でのネットワーク構成の実現性を検証。具体的には、構築するネットワークについて、富士通株式会社製機器および日本電気株式会社製機器を混在した機器構成にて各地点をつなぎ、オープン規格に則った機器の相互接続によるマルチベンダ構成でのネットワーク構成の実現性を検証した。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。