NTT東日本の新規事業と新技術を一挙公開「NTTe-City Labo」見学ツアー・レポート ローカル5G/自動運転/ドローン/無人店舗/eスポーツetc

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)は、「NTTe-City Labo」を2022年5月に東京都調布市グランドオープンした。「NTTe-City Labo」は、NTT東日本グループが「地域課題の解決」や「地域循環型社会の実現」に向け取り組んでいる、「スマート農業」「ドローン」「eスポーツ」「デジタルアート」「自動運転」「ヘルスケア」「ローカル5G」など、様々な分野の最新技術やソリューションを実証・体感できる施設となっている。「NTTe-City」とは、新しい街や社会をイメージできることから命名、身近な課題と身近な未来が体験できる施設となっている。

女性が軽々と持ち運べる農薬散布に対応した大型ドローン

5Gやローカル5Gを活用して共同開発中の自動運転車

高所作業をネットワークカメラとAI解析で監視し、より高度な安全を確保するしくみを開発

ロボスタ編集部は、この「NTTe-City Labo」見学ツアーを体験したのでレポートしよう。


「NTTe-City Labo」は、ひとつの街と見立てて、NTTの新規事業を中心に展示・体験する施設となっている。見学ツアーは学校から企業まで幅広く受け入れており、研修センターを改装したためツアー施設も広く充実している


NTT東日本グループが取組む新事業や新技術が体感できる施設「NTTe-City Labo」

NTT東日本は、ご存じの通り通信とインフラサービスを中心に提供するビジネスが知られているが、グループとして新しい取り組みや新会社の設立も積極的に展開している。新しい街と社会づくりをイメージし、その活動や新規事業を紹介するために設立し、公開している施設が「NTTe-City Labo」だ。


場所は東京都調布市、NTT中央研修センター内にある。元々は社員研修などに活用されてきたNTT中央研修センターだが、社員研修がコロナ禍でテレワークやオンラインへと以降し、研修センターの利用頻度も激減した。そのため、この施設を有用活用するために、広い敷地の一部を「NTTe-City Labo」として活用している。

取材した時は、NTT中央研修センターの施設内は紅葉(黄葉)が真っ盛り

施設内には「ローカル5G オープンラボ」や無人スマートストアの体験施設もある

「NTTe-City Labo」は、5月に設立したばかりで、まだまだ発展途上。しかし、300組以上が既に体験している。

■NTT東日本「NTTe-City Labo 紹介映像」 PV

【NTTe-City Labo 見学ツアー 主な体験内容】
1.次世代農業:〔先進テクノロジー活用による最先端農業の実装〕4Kカメラ、スマートグラス、遠隔操縦走行型ロボット等を用いた次世代施設園芸の実証フィールドの見学
2.陸上養殖:〔水産資源の持続的確保に向け陸上養殖ビジネス化へ挑戦〕福島市で行っているベニザケ養殖実証プラントの遠隔モニタリング
3.ローカル5G:〔ローカル5Gの社会実装に向けたユースケースの共創〕「ギガらく5G」環境をはじめ、複数メーカ基地局を備えた国内有数のローカル5G検証環境
4.スマートストア:〔働き手不足解消と売上向上を両立する次世代型店舗〕無人運営店舗(Grab and Go型ストア)の購買体験
5.自動運転:自動運転バス(レベル4相当)のご紹介
6.セキュリティ:〔AIを活用した安心・安全な暮らしを守る電話ソリューション〕AIを活用した特殊詐欺対策サービスのデモ体験、オートコール技術を用いた地域住民への一斉通知デモ体験
7.スポーツテック:〔ICTを活用した地域のアマチュアスポーツ振興〕部活動や地域のスポーツ活動を専門家が遠隔で指導する双方向コミュニケーション体験
8.再生可能エネルギー:〔食品リサイクルを通じた都市型循環エコシステム構築〕食品残渣を利用してメタン発酵により再生エネルギーや液肥を創出するコンテナ型バイオガスプラントの見学
9.ドローン:農薬散布用の国産ドローン、公共インフラ点検における小型ドローンのご紹介
10.eスポーツ:〔ICT×eスポーツによる新たな体験やつながりの創出〕eスポーツ体験、小規模イベントの開催
11.文化芸術:〔デジタル化を通じた文化財保護と鑑賞機会の拡大〕高精細デジタル化技術を用いたデジタル絵画の鑑賞体験
※展示内容・公開時期については変更が生じる場合がある。また一部の施設・デモについては、天候により見学できない場合がある。


Digital×文化芸術 リマスターアート


「富嶽三十六景」リマスターアート

まずは葛飾北斎の作品「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」など、絵画が並ぶスペースに案内された。


「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」は、本物の作品に360度周囲から光を当てる特殊なスキャン技術を使い、20億画素の高精細なデータでデジタル化されたもの。サイズ感こそ違えど、和紙の繊維一本一本、凹凸感に至るまで、本物そっくりの質感や細部の状態までリアルに再現されている。

「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のリマスターアート(高精細記録再現技術)。迫力が伝わってくる


山梨県立博物館により、原画と比較校正によって正確に再現されていることの認定も受けている。”ほぼ本物”と認定されている

首里城が火災によって消失してしまったが、これら”建物のデジタルデータのバックアップがあれば再建も正確に行えただろう”という意見もあり、自治体や美術館・博物館などから「文化芸術のバックアップをとっておきたい」という依頼が寄せられているという。
北斎画のような画作品の場合、劣化をさけるために展示期間を短く制限したり、光を避けた暗い部屋で展示されるケースが多いが、このようなデジタル複製作品によって多くの人がいつでも気軽に作品が鑑賞できるというメリットがある。また、デジタル複製画をきっかけにして、「本物が見てみたくなった」という人が美術館に足を運んで鑑賞する、といった、デジタル画と本物の文化作品を繋ぐ効果も期待できる。


ArtTechView

こちらは「ArtTechView」。パリ・オルセー美術館所蔵のモネ、ゴッホ、ルノアール、セザンヌなどの巨匠が描いた作品を、絵の具の盛り上がりや筆さばきなども含めて高精細に「ディスプレイ」で再現したもの。最初はディスプレイとは気づかず、自動的に作品の表示が切り替わって驚いた。

20億画素でスキャン技術でデジタル化されたもの

自動的に作品の表示が切り替わってビックリ。ディスプレイで表現されていたものだったとは・・

このシステムは病院など、美術館に足を運ぶことができない人たち向け等に実用化されている。


フローティングギガビューワー

非接触で作品を選択できる立体のホログラム風の3Dインタフェースも展示。写真では解りづらいが、画面が飛び出した立体視で見えている。技術的にはアスカネットが開発した鏡とセンサーを活用したデバイス。ロボスタでもマンションの入口で「空中タッチインターホン」として活用されているユースケースを紹介したことがある。

空中に浮き出て見える未来的な立体視画面が特徴。見学者にも評判が良いとのこと

■動画 立体画面のフローティングギガビューワー 操作デモ動画


eスポーツの概要および施設やイベント等の取組み

次の施設は「eスポーツ」。世界的に熱を帯びていて、市場としても右肩上がりだ。NTTでは、「eスポーツ」を年齢や性別、国籍、地域、身体的障がい等を超えて、誰でも参加して楽しむことができるスポーツと捉え、認知症予防などにも役立てられないか、研究を進めている。

NTTは「eスポーツ」の市場育成に積極的で、専門の会社も設立して取り組んでいる

市場は着実に膨らんでいて、2025年には600~700億円市場に拡大すると見込んでいる

秋葉原に、法人を対象とした専用のeスポーツ施設を設けて運営も行っている。
一方で、日本では一般にはまだ認知が進んでいるとは言いがたい部分がある。ゲーム機の市場ではリードしているものの、PC向けゲーム市場などでは日本は世界的には遅れをとっている側面がある。今後の盛り上がりに期待したい。




特殊詐欺対策及び災害時自動AI音声発報に関するソリューション

次は「詐欺対策・防災」ソリューションの展示。



特殊詐欺対策ソリューション

いわゆる電話を使った「オレオレ詐欺」が社会問題化して久しいが、未だに被害者は後を絶たない。NTTは電話を主力とした企業であることもあり、この問題にも積極的な取り組んでいる。特殊詐欺対策ソリューションは、専用のアダプタをユーザーの希望で自宅に設置し、電話の通話内容をすべてクラウドに転送してリアルタイムで解析するしくみだ。会話内容は音声認識エンジンでテキスト化してAIが解析、「振り込み」などの特定の詐欺関連ワードを検知するなど、特殊詐欺と判断した場合は本人や予め登録している家族に通知することで、未然に被害を防ぐしくみとなっている。

電話に設置するアダプタ。巧妙化する詐欺の手口に対応するためにクラウドやAIも定期的にアップデートしている


品川区で実証実験した結果、特殊詐欺の犯人を逮捕され、多くのメディアで取り上げられた。現在は警視庁との連携もしているという。ナンバーディスプレイの契約をしているユーザーなら工事費のみ設置時にかかるが、このシステムを月額無料で利用できる。

■NTT東日本 特殊詐欺対策ソリューション デモ動画


防災ソリューション

自治体向けに開発した「オートコールシステム」を開発した。ここ数年、自然災害が多発する傾向にあり、避難要請や避難指示、重要な防災情報などが自治体より発せられることが多くなっているが、その情報を確実に素早く住民に届けるため、予め登録した多数のユーザー(住民)に対して数百人規模に対して一斉に電話で即時発信することができる。


電話に応答したかどうか、避難を始めるかどうかなど、応答の有無が一覧で表示されるため、自治体側は、どれだけ情報が住民に伝わっているか、その反応はどうだったか等を容易に確認することができる。タブレットで簡単に操作できることも特徴のひとつだ。


防災だけでなく、コロナワクチンの接種など、住民を対象にした自動応答式の一斉連絡やアンケートなどにも応用できるという。NTT東日本の社員がひとりで開発した

陸前高田市での実際の取り組みを紹介。自治体や自主防災組織から一斉に避難を呼びかけ、避難を始めるかどうかを「はい/いいえ」の音声を認識して一覧リスト化して、状況を把握できる

■防災ソリューション「オートコールシステム」デモ




農業漁業支援、ドローン活用、AIやカメラを使った安全の高度化

その他、紅鮭の陸上養殖プラントによる漁業支援、DX人材育成、ネットワークカメラとAIを活用した安全の高度化、スポーツテック、農業用などドローン活用ビジネス、スマートストア(無人店舗)、ローカル5G、バイオガスプラントによる再生可能エネルギー開発、次世代スマート農業、体調管理やスリープテックなど、正直に言うと「こんなことまで手がけているのか」という分野の事業を多数、見学することができる。


■ドローンとカメラによる農業やインフラ点検業務支援

■地域のスポーツ活動を専門家が遠隔で指導する「スポーツテック」

■紅鮭の陸上養殖プラント

紅鮭の陸上養殖プラントによる漁業支援。ICTと水処理技術を用いて紅鮭の陸上スマート養殖事業。岡山理科大学、いちいと協力して福島県で行われている

■安全の高度化 ネットワークカメラとAIを活用

高所作業をネットワークカメラとAI解析で監視し、より高度な安全を確保するしくみを開発(再掲)

■無人のスマートストア

レジなしの無人スマートストアも体験できる

■食品の残渣等を活用したエネルギー開発

再生可能エネルギー開発事業。食品の残渣等を活用したバイオガスプラント設備もある

■ローカル5Gと自動運転

5Gやローカル5Gを活用した自動運転車も共同開発し、実証実験中(再掲)

■ローカル5G、ロボット、スマートグラス等を活用した最先端農業ハウス

ローカル5Gや4Kカメラ、スマートグラス、高解像度映像データ、遠隔操作ロボットを活用、遠隔の農業専門家とリアルタイムに情報共有できる「最先端農業ハウス」も見学できる

農業ハウスの中は高解像度の高精細映像データによって遠隔から確認できる。これはハウス内にいる自動移動ロボットのカメラによる映像

スマートグラスとの連携も可能

■鮮度保持・熟成×ICT

電圧を利用して、凍らせずに生のままで氷点下で保存する技術

■体調のスマート管理やスリープテック

スリープテックの展示コーナー

ボタンのようなデバイスを装着するだけで、睡眠状況を見える化できる

NTTの新規事業や未来の街に興味がある人、企業、学校関係者等は、見学ツアーの問合わせをしてみるといいだろう(完全予約制)。

関連サイト
「NTTe-City Labo」

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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