【世界初】東芝が量子インスパイアード計算機「シミュレーテッド分岐マシン」で2次離散最適化に基づく高度な株式取引戦略を実証

東芝は、株式市場において多数の銘柄の価格の複雑な関係性を量子インスパイアード最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン(SBM)」を用いて高速に分析し新たな取引機会を検出することを特長とする、高速リアルタイム取引システム2例と、資産運用システム1例を開発し、その執行能力や有効性を実証したと発表した。


高速リアルタイム取引システムと資産運用システム

金融取引・資産運用戦略において多数の銘柄の関係性もしくは集合的構造を高精度に分析しようとすると、多くの場合計算困難問題に分類される2次離散最適化に定式化されるが、従来の計算機では高速に解くことは困難だった。


高速リアルタイム取引システム

第1と第2の高速リアルタイム取引システムは、従来は不可能だった2次離散最適化に基づく高度な発注判断の後、注文を発行し、それが高速に価格の変化する株式市場において意図した数量・価格で約定されうることを、東京証券取引所において実証。2次離散最適化に基づく発注が、高速に変化する実株式市場で約定し得ることを実証したのは、世界初となる(東芝調べ)。


資産運用システム

第3の例(資産運用システム)では、2次離散最適化に基づき銘柄を選定する資産運用戦略を、SBMの高速求解能力により、これまでになく大規模な銘柄群(約2000銘柄)を対象に長期間(10年)に渡って評価したところ、その戦略が長期的に優れた運用成績を示すことを実証した。

SBMは高速な求解性能のみならず、リアルタイム、エッジ、もしくはミッションクリティカルと形容されるシステムに組込むことが可能という特徴を有しており、今般の実証事例は、今後、異なる定義のリスク・リターン指標を取り入れた多様な派生のシステムの開発への適用が期待される。

多数の金融商品間の相関に基づく取引機会の検出・執行は、従来流動性に乏しかった銘柄群への流動性の移転プロセスとして、金融取引市場の適正な価格形成機能および流動性の向上に貢献するとしている。


開発の背景

多数の銘柄の価格の関係性を分析する問題(二次離散最適化問題)の説明図

金融取引市場において、適正な価格形成を確保することは、投資家の市場に対する不安感を払拭し、市場の適正な運営を図る上で重要な要素に位置付けられていますが、一時的な需給の不均衡や、市場参加者の心理的なバイアスや集団的な行動によって資産価格が歪められる、いわゆる「非合理な価格」が生じることがある。

株式市場において多数の銘柄の価格の関係性もしくはその集団的ダイナミクスを分析することで、適正価格およびそれを基準にした非合理な価格の発生を推定することが考えられており、相関のある多数の銘柄を分析する問題は、現実的な制約として最小取引単位やその他の離散性を考慮する場合、しばしば2次離散最適化問題に定式化される。2次離散最適化問題は計算機理論において計算困難問題に分類され、大規模な問題を高速に解くことは従来困難だった。

東芝が量子計算機理論に基づき独自に開発したSBMは、この2次離散最適化問題を高速に解くことを可能とする専用計算機。

このSBMを用いて2次離散最適化問題を緩和(線形問題への緩和もしくは連続変数問題への緩和)することなく解く、新しい金融システムが構想されますが、それらは実際の金融市場において、もしくは実際の金融市場データを用いて、実証される必要があった。

技術の特徴

2次離散最適化に基づく取引戦略を実行するSBM搭載リアルタイム取引システムの執行能力の説明図

第1と第2の例は、金融分野の代表的な2次離散最適化問題である市場グラフ分析と離散ポートフォリオ最適化に基づく取引戦略を実行するSBM搭載の高速リアルタイム取引システム。

2次離散最適化問題に基づく高度な発注判断の後、注文を発行し、それが高速に価格の変化する株式市場において意図した数量・価格で約定可能な執行能力を有することを実取引により実証したシステムはこれまで無かったが、第1と第2のシステムは、東京証券取引所におけるリアルタイム実取引の実績によりその執行能力を、世界で初めて実証した。
第1と第2のシステムのシステム応答遅延(SBMによる二次離散最適化問題の求解時間のみならず、通信やその他のシステムコンポーネントの遅延をすべて含む)は、33マイクロ秒と164マイクロ秒(その主要な成分は、二次離散最適化問題の求解時間)であり、このような短い遅延性能は、『1:SBMの革新的な高速求解能力』、『2:特定の取引戦略に向けたSBMアルゴリズムとその計算機実装のカスタマイズ(さらなる高速化)』『3:SBMおよび他のシステムコンポーネントのインテグレーション』(3)の3点によって達成された。

第1と第2のシステムは、取引対象銘柄の最良気配値の更新を通知するパケットを受信する度にSBMを1回以上実行。実証実験期間において、第1と第2のシステムは典型的には、それぞれ1日あたり100万回以上、500万回以上のSBMによる求解処理を伴う発注判断を実施した。その期間において、誤動作もしくはそれに基づく誤発注は一度も生じなかった。


最大独立集合(MIS)問題に基づくポートフォリオ運用戦略の評価システムの説明図

第3の例は、これもまた代表的な2次離散最適化問題である最大独立集合(MIS)問題に基づいて銘柄を選定するポートフォリオ運用戦略の評価システム。

MIS問題の求解に基づく無相関ポートフォリオが従来提案されていましたが、MIS問題の求解の困難さのためにそのようなポートフォリオ運用戦略の評価は限定的だった。

第3の例のシステムは、SBMのMIS問題の高速求解能力より、これまでになく大規模な銘柄群(約2000銘柄)を対象とした長期間(10年)の運用成績の評価を可能とした。このシステムと東京証券取引所のヒストリカルデータを用い、大規模なMISポートフォリオ戦略が長期的に優れた運用成績を示すことを初めて実証した。

今後の展望

第1、2、3の例はいずれも、金融分野の代表的な2次離散最適化問題を扱う基本的かつ先駆的な実施事例であり、これらを基にした様々な派生のシステムの開発に繋がると期待されている。

例えば、銘柄間の相関係数などのリスク・リターン指標の定義を変えることでまた別の特徴を持つ取引・運用戦略を構築することや、本実証で対象とした東京証券取引所の上場株式のみならず、国内外の多種の市場の金融商品、もしくはそれらを横断的に対象とするシステムを考案することも考えることができるとしており、東芝は今後もこのような研究開発を進め、金融市場の安定と健全な発展に貢献していくとしている。

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ロボスタ編集部

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