大阪大/理研/NTT/産総研/富士通 超伝導量子コンピュータ国産3号機のクラウドサービス開始

大阪大学・理化学研究所・NTT・産業技術総合研究所・富士通などからなる共同研究グループは、国産部品のテストベッドとして開発を進めてきた、大阪大学内に設置されている超伝導量子コンピュータ国産3号機のクラウドサービスを2023年12月22日から開始すると発表した。

共同研究グループのメンバーが開発してきた「トランスパイラ」、「クラウドソフトウェア」、「制御システムソフトウェア」、「アプリケーションソフトウェア」などの開発・改良・運用を進めていき、42機関が参画する「量子ソフトウェアコンソーシアム」におけるグループワークでの使用を開始し、量子コンピュータのユースケース探索を始め、ユーザのニーズや意見を反映しながらシステムを発展させていくとしている。


国産3号機となる超伝導量子コンピュータ

大阪大学、理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所(産総研)、情報通信研究機構(NICT)、アマゾン ウェブ サービス ジャパン、イーツリーズ・ジャパン、富士通、NTT、キュエル、QunaSys、セックの共同研究グループは、2023年12月22日より国産3号機となる超伝導量子コンピュータのクラウドサービスを開始した。

量子コンピュータでは多くの問題を従来のコンピュータよりも大幅に短い時間で解けることが分かっており、今回、大阪大学を中心とする共同研究グループは量子コンピュータを超伝導量子ビットにより構築し、クラウド経由で利用できるサービスとして公開。これにより、研究者が遠隔地から量子アルゴリズムを実行したり、ソフトウェアの改良・動作確認をしたり、ユースケースを探索したりすることができる環境を実現した。


64量子ビットチップをインストール

今回の超伝導量子コンピュータ国産3号機では、理研から提供された64量子ビットチップを用いている。これは2023年3月27日にクラウド公開された理研の超伝導量子コンピュータ初号機のチップと同じ設計で製造された。当初、3号機には理研から提供された16量子ビットチップが装着されていたが、2023年11月3日に64量子ビットチップのインストールを行い、その作業状況を一般公開した。
また、3号機は、初号機で海外製の部品が使われていた箇所をできるだけ国産部品に置き換えており、「テストベッド」としての役割も果たしており、冷凍機以外の多くの部品を置き換えても十分高い量子ビット性能を引き出せることが確認された。


制御装置やシステムも大きく改善

また、3号機では量子コンピュータの活用性を高めるため、制御装置やシステムを大きく改善。量子ビットを制御するためには、マイクロ波信号を送受信する「制御装置」の設計・開発は、大阪大学とイーツリーズ・ジャパンが行なった。
理研に設置されている初号機にも同設計の装置が用いられている。ユーザが作成したプログラムを実際の量子コンピュータで実行するには、量子ビットチップの制約などを考慮した変換処理を行って(トランスパイラ)から、計算を実行する必要がある。また、量子コンピュータをクラウドサービスとして公開し利用できるようにするには、ユーザ認証やジョブスケジューリング、実行結果を確認するインタフェースなども必要であり、共同研究グループは、量子コンピュータに必要な様々なレイヤのソフトウェアを開発し、量子コンピュータを研究室内部で利用する実験装置ではなく、システムとして外部へ提供できるようにした。

今回のように、国産部品やソフトウェアを検証し、量子コンピュータの活用性を高めるために改善環境を構築したことは、今後の日本の量子コンピュータ開発の加速に大きく貢献すると期待されている。

11月3日に量子ビットチップのインストールを一般公開した時の様子


量子ビット数の競争が激化

近年、超伝導回路を量子ビットとして採用した量子コンピュータの実験が進展しており、量子ビット数の競争が激しく行われている。

世界ではGoogle、IBM、中国科学技術大学、浙江大学、そしてアメリカのスタートアップであるRigettiが50量子ビット以上の制御を実現。その他、世界中の名だたる大学や研究機関が同規模の量子ビットの制御を目指しているが、2023年12月現在で成功報告がほとんど増えていない。

日本では、2023年3月に理研、富士通、大阪大学、NICT、NTT、産総研の共同開発チームが50量子ビット以上の制御を達成。理研、富士通、NICT、産総研らによって開発されたチップは、「2次元集積回路」と「垂直配線パッケージ」を用いており、容易に量子ビット数を増やすことを可能にする高い拡張性を備えたチップになっている。

理研に設置された初号機では一部、海外製の部品が用いられているが、今後さらに日本製部品のプレゼンスを高めるうえで、より多くの国産部品が組み込まれても計算性能が落ちないかを調べる「テストベッド」が必要とされていた。

また、量子コンピュータをインターネット経由で実行するサービスが、IBMやアマゾン ウェブ サービス(AWS)により展開されており、実際の量子コンピュータで計算できるサービスは産業界・学術界から要望されており、このようなサービスの実現によって量子コンピュータ研究の加速が期待される。

量子コンピュータをサービスとして提供するためには、量子ビットチップの制約などを考慮した変換処理を行うトランスパイラや、ユーザや量子計算ジョブを管理するソフトウェアが必要になる。また、量子コンピュータシステムの運用に関する研究は黎明期であり、サービスとして量子コンピュータを実際に運用し、その過程で得られる知見を蓄積し公開することは、量子コンピュータを実用化する上で不可欠となっている。


研究の内容

今回の共同研究では量子コンピュータを超伝導量子ビットにより構築し、クラウド・ネットワーク・サービスに接続、研究者が遠隔地から量子アルゴリズムを実行したり、ソフトウェアを改良・動作確認をしたり、ユースケースを探索したりできる環境を提供することを実現した。

初号機では海外製の部品で構成されていた低雑音電源、低温増幅器、磁気シールドなどをできるだけ国産部品に置き換えるテストベッドとしての役割を3号機は果たしており、冷凍機以外の多くの部品を置き換えても十分高い量子ビット性能をひきだすことができた。具体的には、16量子ビットのテストチップにおいて、80マイクロ秒のコヒーレンス時間、99.9%の1量子ビットゲート忠実度、98%の2量子ビットゲート忠実度、85%のドイッチュ・ジョサアルゴリズム正解率を達成している。

量子ビットの性能

量子ビットを制御するためのマイクロ波信号を送受信する制御装置(コードネーム:QuBe)は大阪大学とイーツリーズ・ジャパンが設計・開発を行っており、理研に設置されている初号機にも同設計の装置が用いられている。本技術は阪大発スタートアップであるキュエルへと技術移転をしており、このような大規模な量子ビットチップの制御を実現した大量製造・購入が可能な装置は世界で唯一となっている。

大阪大学量子計算クラウドの全体図

本クラウドサービスは、大きく分けて「ユーザのコンピュータでプログラミングを行うフロントエンド層」、「ユーザ認証を行い、ユーザから量子計算ジョブを受け付けてジョブ管理などを行うクラウド層」「量子コンピュータやその制御を行うサーバ群からなるバックエンド層」の3つの層で構成されている。

クラウド層はAWSが管理するサーバ上で動作し、バックエンド層は大阪大学内に設置されたハードウェア上で動作する。

ユーザは、アプリケーションソフトウェアの一部であるQURI Partsというライブラリを利用して、量子コンピュータで実行する量子回路をプログラミングする。プログラミングには、データサイエンスの分野で利用されることが多いPython言語を利用する。

QURI Partsによるプログラミング例

ユーザがプログラムを実行すると、OpenQASMという形式に変換され、量子計算ジョブをAWS上にある「クラウドサーバ」にアップロードし、クラウドサーバは量子計算ジョブを、データベースに保存する。


OpenQASM形式のプログラム

バックエンド層の「エッジサーバ」はクラウドサーバから量子計算ジョブを取得し、適切なタイミングで実行するようスケジューリングを行う。エッジサーバは柔軟なインタフェース設計により、トランスパイラやスケジューラを適宜切り替えることが可能となっている。

トランスパイラソフトウェアである「ouqu-tp」は量子ビットの物理的な接続性や利用可能なゲートを考慮し、量子回路を実際の超伝導量子コンピュータ実機の様々な制約下で実行できるプログラムに変換。エッジサーバは制御システムソフトウェアの一部である「measurement tool」に変換後のプログラムを送信する。

measurement toolは通信機能を持たないソフトウェアライブラリであるため、「qmt server」を用いてアプリケーション化している。qmt serverはエッジサーバからプログラムを受信し、measurement toolが処理できる形式に変換。また、qmt serverは、ouqu-tp(トランスパイラ)で必要となる量子ビットチップの制約などの情報を保持している。

measurement toolは、まず事前に量子ビットを制御するパルス波形を最適化するキャリブレーションを行う。そして、クラウドサービスの運用中は量子回路のプログラムをマイクロ波信号を表現する独自の形式に変換し、制御装置に送信します。制御装置は量子チップに対してマイクロ波信号を送信し、量子計算を実行する。制御装置はマイクロ波信号を送受信して実行結果を読み出し、読み出した結果は、量子計算ジョブの実行と逆向きの経路でクラウドサーバに保存される。

本機で利用されている制御装置であるQuBEとの低レイヤでのやりとりには、ソフトウェア「e7awg_sw」が利用されている。また、QuBEの独自機能を活用したより発展的なキャリブレーションを可能にするため、ソフトウェア「qube-calib」の開発も進めており、本件の評価に活用されている。尚、qube-calibについてはソフトウェアがオープンソースとして公開されている(参考:https://github.com/qiqb-osaka/qube-calib)。

量子計算ジョブの実行結果は、ブラウザから確認することができ、ジョブのIDやステータス、OpenQASMの内容なども確認できる。また、QURI Partsのプログラムでも実行結果を確認することができる。



量子計算ジョブの実行結果

本量子コンピュータシステムは、現在42機関が参画する「量子ソフトウェアコンソーシアム」のグループワークに参加する受講者を対象に、2023年12月22日よりサービスを開始。

本コンソーシアムは科学技術振興機構共創の場形成支援プログラム「量子ソフトウェア研究拠点」の支援で創成されたもので、量子コンピュータのユースケース探索をはじめ、ユーザのニーズや意見を反映しながらシステムの開発・改良を続けていく予定。まずは17~42マイクロ秒のコヒーレンス時間を持つ相互接続した8量子ビット分を使い、小規模な既存アルゴリズムの試験などから始め、当面の間は、量子ソフトウェアコンソーシアム内での利用提供に限定するが、順次、大規模かつ新規性を有する様々な産学連携プロジェクトの実験的研究へと進めていきたいとしている。


本研究成果が社会に与える影響

超伝導量子コンピュータ国産3号機を稼働し、インターネットを介したヘビーユースを始め、ソフトウェアなどのシステムの改良を進めていくことで、新素材、新薬の発見、最適化問題など、環境負荷の低減に貢献でき、機械学習など、生活に役立つ量子アルゴリズムも提案されているが、そのユースケース探索を活性化できると期待されている。

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ロボスタ編集部

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