15体の人間そっくりのAIアンドロイドが「人類を破滅するべきかどうか」という究極のディベートを繰り広げるバトルロイヤル・デスゲームを描いた異色の映画『SINGULA』(シンギュラ)がいよいよ劇場で公開されます。
監督は『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『TRICK』や『SPEC』シリーズなど、日本を代表する監督のひとり、奇才・堤幸彦氏。主演キャストはたった1人、spi氏が全編英語(日本語字幕付き)で15体15役のAIキャラクターを演じ分けています。そして、主題歌は「r-906 feat. 初音ミク」が歌う「イフ」。
その内容はまさに劇薬エンターテイメントと呼ぶに相応しい異色作に仕上がっています。
2024年5月10日(金)から、「新宿バルト9」「T・ジョイ梅田」など、東京・神奈川・愛知・大阪・福岡の一部の映画館で期間限定公開されます。最後にAIたちが出した結論は如何に?
マドリード国際映画祭で「主演男優賞」を受賞
映画『SINGULA』は、2023年9月、マドリード国際映画祭で監督賞、主演男優賞、脚本賞、サウンドデザイン賞、の4つのコンペティション部門にノミネートされ「外国語映画最優秀主演男優賞」を受賞しました。
更に、3月にはニューヨーク ブルックリンで劇場公開され、高い評価と注目を集めました。
この作品、日本では「多くの応援してくれる人に届けられるように」という思いから、通常の映画配給ではなくクラウドファンディングを募って公開されました。そのため、日本での一般劇場では満を持しての公開となります。AIアンドロイド15体による「人類を破滅するべきかどうか」という究極のディベート、興味ある!」という人はこのチャンスを見逃してはいけませんよ。
『SINGULA』のストーリー
ロボスタも、この興味深いテーマの『SINGULA』にクラウドファンディング募集時から注目。速報、報道関係者向け試写会、堤監督のインタビューと3回に渡り、記事で詳報をお伝えしてきました。今回、映画館で公開されるということで、再度この劇薬ストーリーを簡単に説明しておきましょう。
薄暗い部屋に集められたのは「先生」と呼ばれる人間が作り出した15体のAIアンドロイドたち。同じ顔、同じスタイルの15体。しかし、それぞれに埋め込まれたチップには、それぞれ異なる過去の記憶や性格が記録されていた。互いの素性を知らないAIたち。「先生」によって与えられた「人類を破滅するべきか、否か」というテーマで、ディベートバトルロイヤルが始まった。果たしてどんな展開が幕を開けるのか。生き残るのは誰なのか。AIたちが出した結論は?
■予告編
堤幸彦監督インタビュー「作品の見どころと読者へのメッセージ」
ロボスタでは、堤幸彦監督に2回目のインタビューを敢行しました。また、今回の記事とは別に、『SINGULA』にちなんで、生成AI(ChatGPT)から監督にインタビュー編も掲載しますので併せてご覧ください。(関連記事「AIが聞く!人類の存亡をAIが議論する映画『SINGULA』堤幸彦監督インタビュー AI「人類の未来に向けてメッセージを」」)
編集部
まずは、マドリード国際映画祭での4部門ノミネートと主演男優賞の受賞、おめでとうございます。前回のインタビューの際、監督は「海外の観客の目線ではこの作品がどう受け止められるのか、それは気になる」とお話されていました。今回のノミネートと受賞は、『SINGULA』が海外でも高く評価された結果だと思います。
★堤監督
ほかの仕事があって、残念ながらマドリードには行けなかったのですが、『SINGULA』のようなシュールな、というか変わった作品がヨーロッパの一角で評価されたっていうのは本当に喜ばしいことだと感じています。北欧なら伝わるのかなと思っていたんですが、スペインで受け容れられたのは少しびっくりしました。
実は、コロナ禍を経験して、私自身、映画作りに対して大きく反省をしました。
「コロナ禍で今までの映画作りを反省した」
編集部
反省ですか? 具体的にはどのようなことでしょうか?
★堤監督
それまでの私の映画作りは原作に頼っていたり、テレビドラマでヒットした作品を映画化したり(編集部注:『ケイゾク』『TRICK』や『SPEC』シリーズなど、堤監督は時代的にはその手法の先駆者)、その成果に寄りかかっていたりとか。もちろん、その中でもオリジナル作品を80年代からずっと作ってきてはいたんですけど、心の中ではどこか「どうせ当たらないだろう」と感じる一方で、「チャレンジはしなければ」と考えて、心のバランスを取っていたところがあります。その結果、制作委員会システムによるメジャーな配給作品が一番で、自分が企画したインディーズ作品はその次、といったランク付けを自身でしてきてしまっていました。しかし、その考えは間違っていたと、コロナ禍で思い知らされました。
着手していたメジャーな作品は配給会社が次々に手を引き、すべて中止になってしまいました。仕事は途中で止められ「手間暇かけて作品を作り始めていたのに薄情だな(笑)、そういうものなのか」という思いと同時に、ランク付けをしてきた自分の映画作りに対する姿勢を反省しました。
そんな状況下でも起ち上がったのがインディーズ映画で活動する女優たちで、『truth ~姦しき弔いの果て~』(堤監督)というインディーズ作品を作ったり、ダンサー達でダンス映画『Trinity』を作って世界に向けて発信したところ、海外で受賞したり、高い評価を頂いたりしました。最近、NFTトークンで資金を集めて、2年かけてSUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)という活動に取り組み、映画「キラー・ゴールドフィッシュ」という作品が完成しました。
そうして「これからの映画作りはアウトプットは日本の劇場だけと考えることはないんじゃないかな」という思いが今は強くあります。動画や映画の「配信」は時代を大きく変えましたが、私にとっては配信も劇場公開も、テレビ放送もあまり差はありません。私ももう今年69歳になるので、賞味期限もあと10年あるかどうかですから「自分が中途半端に感じる状態の作品は世に出せない」「全力で一本一本、作りきっていく」という思いの中で、この『SINGULA』はその狼煙(のろし)であり、そうとう変わった(笑)作品になった、と感じています。
編集部
メジャー映画の作品づくりがコロナ禍で一斉に中止になってしまったことへの反発もあって『SINGULA』はクラウドファンディングという手法を選んだのですね
★堤監督
はい。『SINGULA』については、とても理解してくれる協力者がいたことが大きかった。ドワンゴ(DWANGO)さんです。作品作りだけでなく、ドワンゴさんが主催する「ニコニコ超会議2024」(2024年4月27~28日)において、クリエイタークロスというエリアで「堤幸彦ブース」を作って応援してくれました。
編集部
『SINGULA』は日本より一足早く米国で公開されました。好評だったようですね
★堤監督
小さい劇場ですがニューヨークで公開されました。アメリカのマニアックな人々からすればこの映画は「(作り手は)なんてアホなんだろう」って感じるだろうなという印象でしたけれど(笑)、そう思われていないのなら嬉しいですよね。
実はこの映画館、ファンキーと言ってはなんですが、サブスク定額で上映される映画が見放題という変わった方法で運営されています。そういうある種マニアックな人たちが集う映画館のラインアップに入るということは、マニアックな作品だというお墨付きをもらったと判断できるのかな、そういう方向に狙って球を投げている(映画作りをしている)ので、気づいてくれたのかと嬉しく感じました。
「・・・やがて人類の文明は死に近づく」
編集部
映画『SINGULA』の見どころを教えてください。
★堤監督
まず「この作品は大変珍しい、ほかでは観られない作品」です。よく「珍しいと語っておきながら、実際にはあんまり珍しくない作品」が多い中(笑)、この作品は”本当に”珍しい作品です。
1人が15体のアンドロイドを演じていることもそうですし、極端な超高度情報化社会の中で「人間の容姿だけれど人間ではないもの達が人間の是非を決定すること」はアリなのかナシなのか、ということも含めて。
実は「人間型のロボットが社会に出てきたら、人間とどう向き合うのか」ということ自体は戦後すぐにいろいろなところで議論されてきたことではあるんですね。『SINGULA』もその議論のほぼ延長線にはあると思っています。ただ、今の時代は本当に人間を超えていく技術的な波が見えてきたけれど、まだまだ人間の勝利は揺るぎない。ここで面白がって人類が思考を停止し、機械のなすがままになっていくと、やがて人類の文明は死に近づく、という強い警鐘を促す気持ちはあります。
観客の皆さんも思考を停止することなく、『SINGULA』を通じて今一度、人類の未来を考えてもらえたら嬉しい、と思っています。
インタビューは「AIが聞く!人類の存亡をAIが議論する映画『SINGULA』堤幸彦監督インタビュー AI「人類の未来に向けてメッセージを」」につづく。
監督 : 堤幸彦
出演 : spi
脚本・原案 : 「SINGULA」⼀ノ瀬京介
主題歌 : 「イフ」r-906 feat. 初⾳ミク
配給 : ティ・ジョイ
公式サイト : singula-movie.com
©「SINGULA」film partners 2023
2024年5月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
公開劇場 :
【東京】 新宿バルト9
【神奈川】横浜ブルク13
【大阪】T・ジョイ梅田
【福岡】T・ジョイ博多
【愛知】ミッドランドスクエアシネマ
AIが聞く!人類の存亡をAIが議論する映画『SINGULA』堤幸彦監督インタビュー AI「人類の未来に向けてメッセージを」
https://robotstart.info/2024/05/02/singula-movie-theatre02.html
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。