大阪・関西万博会場では現金は使用不可、キャッシュレス決済のみ 入場と決済にNEC顔認証システムを導入

来年、2025年4月13日(日)~10月13日(月)に開催予定の2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、会場内での買い物には、原則として現金が使用できないことがわかった。支払いは全面的にキャッシュレス、電子決済が前提となる。入場ゲートや支払いレジではNECの顔認証システムが導入され、利用者の利便性向上がはかられる。顔認証としては国内最大級となる見込み。万博の期間は184日間連続、想定来場者数は2820万人の巨大規模のイベントでの運用はこれまで前例がない。

顔認証を活用した店舗決済イメージ

2025年日本国際博覧会協会は5月23日、東京都内で報道関係者向け説明会を開催した。会場では、顔認証システムによって手軽に決済できるシーンの実演デモも公開された。

万博会場のレジを想定した顔認証決済のデモ。商品をレジの担当者に渡す

レジの担当者が購入する商品を指定し、顧客は専用端末のカメラで顔認証を受ける

決済が完了。スマホもカードも必要ない


入場時は「QRコード」+「顔認証」

万博会場の入場ゲートでは、スマホなどで「QRコード」を提示するとともに顔認証での認証が原則として必要となる。入場チケットには一定期間使用が可能な「通期パス」や「夏パス」等があり、貸与などによる不正入場(なりすまし入場)を防ぐため、顔認証が導入される。

チケットに記載のQRコードをゲートにかざしたうえで更に、ゲートに設置するカメラを用いた顔認証の追加確認を行う(追加認証)

入場ゲートは51ヶ所配置される予定で、従来のように人によるチケットの確認作業では混雑が予測されるため、高速な顔認証の導入によってスムーズな入場を促したい考えもある。顔認証データは120万IDにのぼることが想定されていて、この規模はNECが手がける事例の中でも最大規模だという。

なお、NECの生体認証(顔認証・虹彩認証・指紋認証)は世界的にトップレベルの水準と評価されている。なお、宗教上などなんらかの理由で顔を公開したくない人などの対応は今後、協議していく。

「顔認証」だけでなく、「QRコード」+「顔認証」としたのは、システムがQRコードで特定の顔認証データを参照し、カメラで確認した顔の特徴量と一致すれば本人と認定するしくみのため(「顔認証」だけの認証だと検索手順で膨大なステップになってしまう)。

※「通期パス」は開幕日から2025年10月3日まで、毎日11時以降、期間中何度でも入場可能なチケット。「夏パス」は、2025年7月19日から8月31日まで、毎日11時以降、期間中何度でも入場可能なチケット。




顔認証で手ぶら決済

会場内の店舗においては、入場チケットの券種に関わらず大阪・関西万博の独自電子マネー「EXPO2025デジタルウォレット」(スマホアプリとしてダウンロード)が導入される(開幕前からの先行稼働を予定)。その中の機能のひとつ、万博会場内外で利用できる電子マネーが『ミャクペ!』(クレジットカードや銀行口座からのチャージで買物ができる)。「顔認証」決済は、通期パス・夏パスを持っている人か、『ミャクペ!』会員の登録者が会場内のみで使うことができる(『ミャクペ!』や顔認証を使用するかどうかは任意。なお、通期・夏パスを所持している来場者は『ミャクペ!』登録がなくても顔認証が利用できる)。

店舗レジに専用端末「stera terminal」を設置。カメラで顔認証が行える

具体的には万博会場内の店舗レジには、一台の端末で多様な決済手段に対応が可能な据置型オールインワン決済端末「stera terminal」が設置され、顔認証で決済できるシステムを導入する。事前に顔情報と決済方法を登録しておけば、対象店舗で顔認証を行うだけでスマホやカードを使用せずに手ぶらで決済することができる。

顔認証を活用した店舗決済イメージ

決済方法は「ミャクペ!」、またはクレジットカード等の選択が可能。電子マネーと顔認証が紐づく決済運用事例としては、国内最大規模となる。(追記:この項の本文の一部は更に解りやすいよう追記しました:5月27日)


キャッシュレスは「未来社会の実験場」である万博に相応しい

博覧会協会 企画局の河本健一氏は「大阪関西万博では、会場において全面的なキャッシュレス決済を導入し、原則として現金を使うことができません。現在、日本で全面的なキャッシュレスを導入している主な施設は、楽天モバイルパークや東京ドームなどがあります。184日間連続の稼働で、かつこれだけの大規模な来場者を対象とした会場において全面的なキャッシュレスを導入するのは、まさに万博のコンセプトである「未来社会の実験場」として、また日本のキャッシュレス化社会を強力に推進するという点で大きなチャレンジだと考えています」と意気込みを語った。

また「万博会場におきましては、全面的なキャッシュレスの導入では決済可能なブランドは60程度を準備する予定です。主要な国際ブランドのクレジットカード、国内交通系の主要ブランド、流通系の電子マネー、コード決済、スマホの決済アプリ等に対応し、来場者に対するより高い利便性を実現したいと、検討を進めています」と続けた。


NECの顔認証技術は世界トップクラス

これまでロボスタでもお伝えしてきたように、NECの顔認証技術は世界トップクラスと評価されている。米国国立標準技術研究所(NIST)が主催する顔認証技術のベンチマークテストの中でも、高い精度が求められる「1:N認証」のテストで、世界第1位の評価を複数回獲得。コアとなるアルゴリズムの性能向上を図りながら、顔認証の社会実装を推進し、これまで世界50以上の国と地域で顔認証事業を展開してきた。(参考記事「顔認証で飛行機の搭乗手続きが出来る「Face Express」の実証実験を実施 空港での手続き時間の大幅短縮を確認」)
世界の空港においてもNECの顔認証システムの導入数は延べ80を数え、出入国管理や税関申告、搭乗手続き、おもてなし等、さまざまな用途での活用が進み、顔認証技術の代表的なユースケースとして広がっている。また、端末のOSログオンを顔認証で行うことでセキュリティと利便性を向上する「NeoFace Monitor」の導入数は1,000を超えたほか、顔認証クラウドサービスの国内利用者数が100万に到達するなど、実績を着実に積み上げている。


先進的な取り組みだからこそ、多様な選択肢も必要

キャッシュレスや顔認証での手ぶら決済、入場管理はユーザーにとって利便性を向上するものだとは思うが、選択肢が他にないのは多少の不安を感じる。スマホを持たない高齢者や、インバウンドを含めてキャッシュレスに馴染みのない人、生体情報の登録に抵抗のある人など、多様性の面では今後の検討が必要となるだろう。また、システム障害や停電など予期せぬ事態での対応も議論されていくと思うので、今後の動向にも注視したい。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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