エッジAI搭載、群れで連携して働く「システム天井施工作業ロボット」を公開 テムザックと鹿島建設が共同開発 高所作業を自動化

株式会社テムザックと鹿島建設株式会社は、「システム天井施工ロボット」(プロトタイプ)の開発を共同で進めていることを2024年7月17日に発表した。
6台の建築ワークロイドが協調してシステム天井の骨組みを設置し、天板の組み付け作業を自動で作業する。これにより、人手による作業で必要になる高所作業用の足場の設置と撤去作業がなくなり、上を向いての長時間の天井ボード施工作業が自動化される。
各ロボットにエッジAIが搭載されていて、通信で協調し、各ロボットが役割をこなす群制御が特徴。システム天井施工の工程を幅広くカバーするロボットは世界で初という。

6台のロボットが連携して群れで作業する実演デモが公開された。

複数台の自律作業ロボットが通信して連携し、個々で考えながら群れで作業する点が大きな特徴。クラウドの中央制御は必要としない。

システム天板の組み付けを担当するロボットは自律的に移動し、位置決めする。写真は自動でシステム天板をはめ込んでいる様子。

同日に報道関係者向け説明会と実機によるデモを開催し、テムザックの川久保社長が登壇、ロボットが群れで稼働している様子を実演公開した。商品化のリリース時期は未定だが、既に数カ所の建築現場で実機によるPoCは実施していて、今後も鹿島建設の実際の現場でブラッシュアップを継続していく。

報道陣にテムザック社の概要と、「システム天井施工ロボット」を解説する 株式会社テムザック 代表取締役社長 川久保 勇次氏。次のステージは「行動生成AIが、自律的に作業工程を学んで判断できるフェーズに進むことが目標」と語る


システム天井施工ロボットとは

「システム天井施工ロボット」は、オフィスビルのシステム天井の取り付けを施工する群ロボットによる自動化システム。デモでは6台の自律移動式のアームロボットが協調して「一連の作業」を実施した。
一連の作業とは、まずは前工程の「吊りボルト」と「Tバー」を自律作業ロボットが連携して作業する。「吊りボルト」の組み付けには、予め高さ4mの天井に取り付けられている多数の「金具」の中から吊りボルト取り付けを意味する「白い色」の金具をカメラ等で自動判断して指定の「吊りボルト」を組み付ける工程、「吊りボルト」にフックを取り付けて「Tバー」を組み付ける工程、システム天井ボードを多数搭載した別のロボットが天井ボードの取り付けをおこなう工程がある。

システム天井施工ロボットで自動化する作業工程。最上段は人がおこなった場合の作業工程(後述)。2.と3.の工程では3台のロボットが助け合って作業する

この作業を人手によっておこなった場合、天井の高所作業になるために足場を組む必要がある。続いて、吊りボルト、Tバー施工、システム天井のボード組込は、上を向いた姿勢で長時間かけて作業を行うことになる。ロボット化によって足場を組む/撤去の作業はなくなり、上を向いた長時間の作業が自動化できる。



エッジAIの「群制御」ではロボット間が通信して協働作業

各ロボットには、テムザックが他のロボット開発においても得意としている「群制御」が活用されている。比較的小型のロボットを複数台用意し、各工程を担う複数のロボットにそれぞれ別の役割を持たせている。複数台のロボットで作業するにも関わらず、クラウドによる中央管理はおこなわず(エッジでの中央制御もおこなっていない)、それぞれのロボットに搭載したエッジAIがそれぞれに通信をおこなって群制御をおこない、1つのミッションを実行する点が最大の特徴だ。


また、上流工程のロボットは作業中に施工情報を共有し、それに応じて下流工程のロボットは作業内容を調整して施工する「工程間の連携」も実現している。なお、人は完全に施工業務を行わない環境になるわけではなく、天井にエアダクトが張り巡らされていたり、ロボットのAIが認識しにくい状況の場合など、工程の一部や端部では人が施工に携わることも前提としている。


1.吊りボルト施工

最初の作業は、天井に埋め込まれた金具の色を判別し、白い金具に吊りボルトをはめ込んでいく「吊りボルト施工」作業。

天井の金具に吊りボルト(突端がネジ切ってある長い棒)をロボットがはめ込む

金具は吊りボルト用だけでなく、照明器具用などさまざまなモノがあるが、色分けされている。ロボットは位置と色から判断して、正しい金具にだけ吊りボルトを装着していく。

天井には多くの金具が設置されているが、目的に応じて色分けされている。今回は白い金具が吊りボルト用

画像認識AIが金具の色を判別し、正確にボルトをネジ込んでいく

吊りボルト施工を担当するロボット。下半身は自律移動機構(3球台車)で、自律移動して高精度に吊りボルトを取り付ける

このロボットにはGPU付きのノートPCが搭載されていて、AI画像認識やネジ締めのプロセスが画面で確認できる

吊りボルトの装着が1本完了した様子

■ 1.吊りボルトの施工作業の自動化


2.3. Tバー施工

吊りボルトにフックを取り付け、正方形のシステム天井ボードを組み込むためのTバーを設置する作業。これは3台のロボットが連携しておこなう。

吊りボルトにフックを付け、Tバーをそのフックに引っかける作業




■ 2.Tバー施工作業の自動化


4. システム天井のボード施工

Tバーが格子状に張り巡らされた天井にシステム天板を設置する作業。

天井ボード施工を担当するロボット

自身が持ち運んでいる天井ボードを、表裏面を確認したり、持ち直したりして正確に把持する

他の天板や施設の危機にぶつけないように、次々とシステム天井ボードを設置していく

システム天井ボードを設置して一連の作業工程が完了する

■ 3.システム天井のボード施工作業の自動化


技術的なポイント

各ロボットは上半身と下半身が別の自律ロボットで連結されているとも言える。上半身はそれぞれ担当する作業によって異なる機能のロボットが搭載され、下半身は九州工業大学発の協調移動ロボットベンチャーの株式会社トライオーブが開発した「3球台車」が活用されている。3つの球体と3つのモータのシンプルな構成で全方向に自由自在に移動できるロボットの技術だ。下半身は生成したマップを基に自律移動しているので、6台のロボットとはいうものの上半身と下半身も分ければ12台のロボットに搭載されたAIがそれぞれに連携して群制御されている、とも言える。

各ロボットに搭載されたエッジAIの完成度は高い。基本的な作業の機械学習は予めおこなわれたものとなっていて、各現場に導入した後は、LiDARによるマップ作成をおこなうだけですぐに作業に入れる簡便さも実現しているという。


比較的小型のロボットを群で動作させることにより、施工現場の広さに応じたロボット投入や、搬入出条件が厳しい環境下での利用、一部の工程のみ実施したい場合への対応など、ロボット活用条件・適用範囲の調整が容易に行える実用性も備えている。

このロボットシステムは、すでに鹿島建設の国内の複数ヶ所のオフィスビル建設現場での試験施工を実施している。テムザックは「今後も完成を目指して、開発を継続し、さらに改良を重ねて参ります」とコメントしている。

<POINT>
●実際の建設現場(複数のオフィスビル)での試験施工実績
●エッジAI搭載による群制御 相互コミュニケーション
●ロボット施工エリアで足場の大幅な削減
●本設&仮設エレベーターでの搬入出が可能

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム