米アクセンチュアは最新レポート「Reinventing with a Digital Core(邦題:デジタルコアによる再創造の推進)」を2024年7月24日に発表した。このレポートは、日本を含む世界10カ国、19業種にわたるIT部門の経営幹部1,500人への調査結果を分析したもの。主に収益成長率と収益性が高い企業に見られる傾向を明示したもの。
アクセンチュア株式会社は、そのレポートに基づいた説明会を報道関係者向けに開催。「企業全体の再創造」TER(トータル・エンタープライズ・リインベンション)を紹介し、日本企業の課題と打ち手を解説した。
収益成長率と収益性が高い企業の特徴
レポートによれば、収益成長率と収益性が高い企業の多くは「先進的なデジタルコアを備えて戦略的なイノベーションへの投資に積極的」ということがわかった。また、旧来からのシステムに捕らわれてしまう「技術的負債」に対しても適切にアプローチを行なっていることもわかった(裏を返せば、「先進的なデジタルコアを備えて戦略的なイノベーションへの投資」に消極的で、「技術的負債」の対応を放置している企業は、収益成長率が低い傾向にあるということだろう)。
2022年の同調査結果と2023年の調査結果を比較し、大きく成長している企業の傾向や、ビジネスに変化をもたらす要因についての変化も発表した。
もう少し具体的に解説すると、戦略的なイノベーションへの投資を積極的に実践していたり、「技術的負債」に対して適切に対処している企業は、その他の企業に比べて、「収益成長率が約60%、収益性は約40%も高い」という結果がでた。
企業全体の再創造(TER)推進のアプローチ
「企業全体の再創造」を「TER」(トータル・エンタープライズ・リインベンション)と呼ぶ。TERを実現するためには、生成AIの活用は不可欠であるとともに、「No Regret」か「Strategic Bet」のどちらか片方ではなく、両方に取り組むアプローチが求められるとした。「No Regret」は「先手必勝で取り組む領域」、「Strategic Bet」は「会社の命運をかけた戦略投資」の意。自身のビジネスの分析と選別が重要となるようだ。
イノベーションを阻む技術的負債
「技術的負債」とは、ITシステムを最新の状態に保ち、ビジネスニーズに即応するために要するコストと労力のこと。長期的なメンテナンス性を度外視して、導入のスピードを過度に優先したことで蓄積されてしまったものと言えます。この「技術的負債」が増加する要因の一つが、意外にもAIであることが明らかになった。
AIは技術的負債の管理や軽減、新しいシステム設計にも活用できる一方で、経営幹部の41%が「AIを技術的負債が増加させる要因」として挙げているという。これは、アプリケーションやプラットフォームと並び、要因として注目すべき点だ。
従来、技術的負債は、主にレガシーコードや古いテクノロジー、文書化の不足から生じていたが、最近ではAIの急速な浸透によって「新たな技術的負債」が増加する傾向にある。一例として、当時いち早くAIを導入したものの、その後、複雑な問い合わせに対応できなくなった「AIチャットボット」などがその一例だ。
収益成長率を60%向上し、利益を40%増加するために必要な基本理念
アクセンチュアでは以下の3点を基本理念として提唱。企業は、これらの基本理念を同時に推進することによって、収益成長率を60%向上し、利益を40%増加する成果創出が可能になるとしている。
1. 業界ニーズに合致した先進的なデジタルコアの構築
この調査では、企業全体の再創造には「業界トップレベル」のデジタルコアを具備する必要性が示された。また、1つの能力向上が、他の能力向上につながることも明らかになった。このため、企業はまず自社のデジタルコアの現状を把握し、必要な領域に基づいて「No Regret : 先手必勝で取り組む領域」を優先すべきとした。
これにより、デジタルコア全体で継続的改善の好循環が生まれるという。
2. AIオペレーションに向けたシステム再構築を含む、戦略的イノベーションへの投資強化:
企業は、IT予算をシステム運用よりもイノベーション創出に振り分け、その増加割合を業績評価の観点から計測すべきとした。アクセンチュアの調査では、企業全体が業務を再創造するためには、少なくとも対前年比6%の増加が必要で、その追加予算はクラウドのコスト削減(最適化)や、運用プロセスの自動化などによって捻出することを検討すべき、としている。コスト削減や自動化で得られた資金を、ビジネスプロセスの再設計や、新製品やサービスの新規投入、新市場への参入など、ビジネスを拡大するための活動に投資することが望まれる。すでに自社の製品・サービスをまたいだソリューションがあれば、この活動の出発点となり得るとした。
最終的に企業は、これまでのワークフローにとらわれず、人間とAIの最適な協働環境を生み出すことに注力し、人間の意思決定とAIによる価値創造の両輪を支えるデジタルコアの構築を目指していくべきであり、まず取り組むべきことは、AIオペレーションに向けたシステムを再構築すること、と提唱している。
3. 計画的かつ自律的な手法により、技術的負債と将来への投資のバランスを確保:
アクセンチュアの分析では、IT予算の約15%は技術的負債の解消に割り当て、安定したIT能力を維持すべきだということが分かった。これは、技術的負債の削減と将来的な投資をバランスよく両立するために適した配分だ。
常に最新のITを維持するには、ソフトウエア、ハードウエア、サービスの更新、アップグレード、そしてそれらの管理が不可欠となる。バージョン管理システムの自動化と、コード変更に伴うインフラの設定の更新も効率化できる。この方法は、企業ITシステムのさらなる自動化や柔軟性をもたらし、システム構築力の向上につながり、将来の技術的負債の削減に貢献する、という。
日本企業が変革を加速する上での課題
「日本企業が変革を加速する上での課題」として「AIへの期待は高いが財務価値と非連動」「効果創出までのスピードが遅い」「競争優位構築よりも効率化/高度化に留まりがち」の3つを掲げた。また、文化的背景から見られるスタンスも、TERを推し進める上ではマイナスに働くとした。
今回の説明会に登壇したのは、アクセンチュア 執行役員 データ&AIグループ日本統括 AIセンター長 博士(理学)保科学世氏、執行役員 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括 廣瀬隆治氏、ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括 村上隆文氏の3人。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。