2024年10月12日と13日に東京ポートシティで開催された「ちょっと先のおもしろい未来 2024」略して「ちょもろー2024」では、1F ポートホールでニューロダイバーシティプロジェクト「みんなの脳世界2024 ~超多様~」が開催(併催)された。分身ロボットと話したり、脳の錯覚を体験したり、脳波でゲームをプレイしたり、リアルとバーチャルそれぞれの世界に分かれて親子が協力してミッションに挑んだり、人とICT、五感や脳の世界を楽しく学べる体験型展示がたくさん公開されていた。
「みんなの脳世界2024 ~超多様~」の展示では、体験を通じて私たちの感覚は多様である事を知り、その個人差はテクノロジーによる補完や拡張が可能であることを伝えていた。
また、ダイバーシティ&インクルージョンの視点で既存の環境を再設計することで、すべての人が「ちから」を発揮できるニューロダイバーシティ社会の実現が可能であることを提案するものとなっていた。
今回は、その一部ではあるが、展示ブースを紹介したい。
みんなにやさしい自動ドア ミライロドア
「みんなの脳世界」展示ホールの入口に設置された自動ドア。一見、普通の自動ドアに見えるが、「みんなにやさしい自動ドア ミライロドア」と書かれている。どのへんが未来なのか?
これまでの自動ドアは、同じタイミング、同じ速度で開閉するのが普通。しかし、それでは障がいがあって杖をついている人、車椅子で移動する人、ベビーカーを使う人など、誰にでもやさしいとまでは言えなかった。また、自動ドアの中にはタッチスイッチを押す形式のものもあり、車椅子では届きにくいものもあった。
「ミライロドア」は、そのような多様な人々が安心して通行できるインクルーシブな自動ドア。「ドアが開くときは速く、閉まるときはゆっくり閉めてして欲しい」などスマートフォンの専用アプリに自動ドアへのリクエストを登録しておくと、自動ドアのシステムが連携、通行する人の身体的特性に合わせて、その都度運転方法を変更することができる。
また、ドアの開け閉めにとどまらず、サイネージやスピーカーなどの周辺設備とも連携することで、施設全体のユーザビリティを向上。誰もが安心して移動できるスマートな街作りを目指すシステムのひとつと言えるだろう。
脳波でゲームを操作しよう!
NTT人間情報研究所が「脳波を活用したブレイン・マシン・インタフェース(BMI)による操作体験」を展示。
まず、運動をイメージしているときの脳活動(脳波)を計り、運動のイメージごとの脳の活動の違いを分析、ユーザーが脳内でイメージしている運動を推定する。
推定した運動のイメージをゲームのアクションに関連づけることで、コントローラなしで、頭で考えた通りにゲームを操作することができるか試すブースもあった。
この展示ではゲームを操作する体験だが、車いすなどの現実世界の物の制御やメタバース空間のアバターの操作などリアル・サイバー空間どちらにも展開が期待できる。
他人のワザを体感し自分の身体で学ぶ
身体感覚を他者と共有することで、より高い能力や創造性を発揮できる時代が2050年には到来する?
得意なことは掛け合わせ、苦手なことは補い合うことで、新しい能力をあっという間に学べる未来に向けての研究。 複数人で連携して操作するロボットを通じて、能力を補うだけではなく、元の能力を遥かに超える技や感性など、1 + 1 > 2になる共創を生み出す、という。
科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業・目標1「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」(Project Cybernetic being)、名古屋工業大学ハプティクス研究室、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 Embodied Media Project、一般社団法人日本工芸産地協会、有限会社育陶園の出展。
こちらは「身体の動きをアシストし衰えを乗り越える」ブース。感覚刺激を提示する装置で、他者の感覚を受け取りながら、2人でドラムセッションを行う。身体能力を共有することで、息の合ったパフォーマンスを発揮でき、衰えゆく身体状態であるフレイルの予防や幼児期の教育に役立つ、という。
科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業・目標1「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」(Project Cybernetic being) 名古屋工業大学ハプティクス研究室、名古屋大学大学院医学系研究科、東海大学観光学部佐藤研究室の出展
リアルとバーチャル、親子で協力!
東京大学 葛岡・谷川・鳴海研究室は「リアルとバーチャル、親子で協力!」を体験展示。
親子で力を合わせてバーチャル世界の冒険に挑戦。この写真、お母さんはVRゴーグルを着けてバーチャルな世界に飛び込み、1人でミッションに挑戦。ただし、お子さんが強力な能力を得て、外からお母さんをサポート。
「次はあっちだよ!」と道を教えたり、危険が迫ったときに「気をつけて!」と守ってあげたり、親子がリアルの画面とバーチャルの世界で連携してミッションをクリア。
「もうひとつの身体」で自在に働く
2050年の社会では、サイバネティック・アバターを用いて、障害の有無に依らず、場所を問わず、誰でも人と関わり活躍できるようになる。
ロボスタ読者にはお馴染み、オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」と「OriHime-D」を稼働展示。会場入口付近で、「OriHime」が元気な声で挨拶してくれて、それだけでも気分が明るくなった気がした。
国内外から毎月何千人もの人が訪れる「分身ロボットカフェDAWN ver.β」では、ALS、SMAなど、様々な理由で外出困難な人たちが、「分身ロボット OriHime」のパイロットとなって操縦、通信機能で会話をし、接客している。自宅にいながら店内の分身ロボットを操り、人と接し、実際にいきいきと働いている。しかも、最近ではインバウンド客に対応するため、外国語を堪能に話せるようになったパイロットもいる。
科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業・目標1「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」(Project Cybernetic being) 株式会社オリィ研究所が出展。
触覚と聴覚、ハコのなかでは何がおきている?
「え?中になにかいる?それはどんな姿かたちでしょうか」NHK放送技術研究所が出展。
映像表現技術の発展により、頭の中で想像した世界を可視化して、多くの人にそのイメージを共有することができるようになった。聴覚や触覚ではどのくらい伝わるのか?箱を触って、聴覚と触覚の情報から、箱の中の何がおきているかを想像し、言葉や絵で表現する展示内容となっている。
あつまれおんがくの森
Minds1020Lab(横浜市立大学COI-NEXT)の「あつまれおんがくの森」ブースでは、メタバース空間を利用した多彩な音楽体験を楽しめる企画を用意。森の中にみんなで集まって音を楽しんだ昔の人たちのように、現代の技術で音の楽しさとつながりを感じることができる。多様なリズム、多彩なメロディ、個性豊かな表現、心地よい音の空間、みんなで創る音の世界を体験できる展示となっていた。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。