【速報】ロボット向けAIコンピュータボードの最新版「NVIDIA Jetson AGX Xavier」の提供開始!最大32TOPS性能、ドローンやカメラ、AGV等にも

NVIDIAは日本時間の13日、ロボットやドローン、AGVなど自律型マシンに強力なGPUパワーを搭載することができる「Jetson AGX Xavier」モジュール(製品版)の提供を開始したことを世界同時に発表した。手のひらサイズながら、最大32TOPSのパフォーマンスを発揮するとされている。それでいて消費電力は約10ワットと時計付きラジオ並みの低消費電力を達成したと言う。
また、この「Jetson AGX Xavier」モジュールのほかに「Jetson TX2 4GB」を廉価版としてラインアップに追加し、新たに提供を開始することも発表している。

NVIDIAが13日に製品版の提供を発表した小型のAIコンピュータボード「Jetson AGX Xavier」(ジェットソンAGXエグゼビア)。サイズは105mm x 105mm。13日より世界中で提供開始。1,000個以上まとめて購入した場合の単価は$1,099。


「Jetson」はエッジデバイス向けAIコンピュータ

NVIDIAと言えば、グラフィックスやAI関連で注目されているGPU業界のリーダーで、スーパーコンピュータからパソコン、自動運転車向けなど、GPUを搭載したさまざまなコンピュータボードを開発、提供している。その中でも「Jetson」は、AIコンピュータボード製品としては最も小さい、エッジデバイス向けのAIコンピュータボード製品だ。ロボット、ドローン、自律搬送車(AGV)、カメラ、ウェアラブルデバイス、さまざまなIoT関連機器、工業機器などに組み込んで利用できる。小さいながらもGPUサーバーやワークステーション並みのパフォーマンスを発揮する。TensorコアGPUやARMの64ビットCPU等で構成され、従来モデルの「TX2」の性能と比較すると理論値で約20倍の高速性と約1/10の消費電力となる。
ヤマハ発、ファナック、川田テクノロジーズ、コマツ、デンソー、武蔵精密工業など、世界的に有名な企業がパートナーとして名前を連ねている。

「Jetson AGX Xavier」はさまざまなデバイスに搭載できるAIコンピュータボード。


毎秒32兆回の演算能力

「Jetson AGX Xavier」はJetsonシリーズ(Jetsonファミリー)の最新版で最強のパフォーマンスを持つ。今年の3月、Computexで初めて「Jetson Xavier」の名称で発表された。9月に日本で開催された「GTC Japan 2018」では開発者キットの発売を開始し、その際に「Jetson AGX Xavier」に名前が変わっている(Autonomous machine GPU Acceleration)。今回はその「Jetson AGX Xavier」の製品版がリリースされたことになる。

「Jetson AGX Xavier」のスペック(更に詳しい性能は後述)

冒頭で「最大32TOPSのパフォーマンスを発揮する」と述べたが、「TOPS」とはTera operations per secondの略で、1秒間に何回の演算可能かを示すコンピュータ性能指標のひとつ。仕様上、Jetson AGX Xavierは毎秒32兆回の演算能力を持つ。

ResNet-50で画像認識を行った際の性能比較。Core i7とGTX 1070(GPU)の組み合わせのコンピュータを「Jetson AGX Xavier」は凌駕する。消費電力の少なさは圧倒的

Jetsonファミリー。左と中央が「Jetson TX」シリーズでクレジットカードサイズ。大きいボードは開発キット。右が今回量産出荷が始まった「Jetson AGX Xavier」で、箱型のものが開発キット、ボード型のものが製品版


工業、農業、物流、建築、医療分野など用途は幅広い

今回の発表に先だって、アジア地域のプレス向けブリーフィングが開催された。その中で自律マシン担当のシニアマネージャーをつとめるJesse Clayton氏は「工場設備では、およそ10%のタスクが自動化されていると言われていますが、それはこれまで残りの90%は機械に代替することができないタスクだったことを示しています。しかし、NVIDIAのクライアントはGPUやAI関連技術を使うことで、残りの90%の自動化を実現しようとしています。農業の分野では、一部の従事者がGPUやAI関連技術によって使用する農薬の量を劇的に減らすことに成功しています。
また、物流やデリバリー分野では、ラスト1マイルに関する需要が増え続けています。米国では6千5百万件の家庭がアマゾンプライムに契約し、中国では今年だけで500億件の配達が行われたと言われています。このような数の物流や配送が従来通りの方法でこなすのは無理があります。NVIDIAのパートナー達はそのギャップを埋めようとしているのです」と語り、多くのパートナー企業の名前をあげている。


また、NVIDIAのリリースによれば、株式会社デンソーの常務役員である杉戸克彦氏は「デンソーでは自動車部品メーカーとしての長い歴史を活かしながら、AIを工場に導入することで、生産性と効率性を改善し、現場の安全性を高めます。「Jetson AGX Xavier」はこのイニシアティブを主導する重要なプラットフォームになると考えています」とコメントしている。

英国の医療技術スタートアップであるOxford Nanopore社のCEOは「ポータブルな小型AIスーパーコンピュータである「MinIT」に「Jetson AGX Xavier」を搭載しています。これによって、ペアで活用される携帯式のパワフルなDNAシーケンサー、 MinIONでDNA解析をリアルタイムで行うことができます。MinITは標準的なノート PCの10倍近いパワーを持ち、より多くの場所で、より多くの人々がポータブルなリアルタイム解析を行うことができます」とコメントを寄せている。


小型からサーバ向けまでスケーラブルな開発環境

NVIDIAの特徴のひとつは、GPUやコンピュータボード・メーカーでありながら、スケーラブルに統一された共通の開発環境をソフトウェアやプラットフォームとして提供していることだ。「Jetson AGX Xavier」モジュールにおいてもアプリやサービスを活用するためのSDKをはじめとしてニューラルネットワーク開発者向けのツールとワークフロー一式が用意されている。「JetPack」や「DeepStream」といったソフトウェア開発キットで開発したアプリケーションを「Jetson AGX Xavier」上で実行できる。「JetPack」はNVIDIAの自律動作マシン開発ソフトウェア用のスタックで、AI、コンピュータ・ビジョン、マルチメディア向けのなどのサポートが含まれる。これらは自動運転向けの「DRIVE」やGPUサーバ向けの開発環境などとの共通部分も多く、スケーラブルに展開していくことが可能だ。

Jetsonディベロッパーの推移。2017年3月と比較して、ディベロッパーの数は5倍、カスタマーの数は6倍、エコシステムのパートナーの数は2.5倍に増加した(NVIDIAの資料による)

Jetson AGX Xavier に対応した DeepStream SDK は、ストリーミング分析機能を備え、IoTやスマートシティ用アプリケーションにAIを取り入れることができる。開発者は複数のカメラやセンサーを用いて車両や歩行者、自転車などの対象物の検知と識別を行うアプリケーションを構築することが可能となる。

NVIDIAの本社でランチ等を運ぶ自動運転型デリバリーロボットのコンセプトモデル「Carter」。本体の中央に「Jetson AGX Xavier」開発キットが組み込まれていることがわかる
Jetson AGX Xavierの性能
512コアの統合Volta TensorコアGPU、8コアのARM64ビットCPU、およびデュアルディープラーニングアクセラレータ(DLA)エンジンを搭載し、32TOPSの混合精度でFP32/FP16/INT8 のコンピューティング性能を提供できる。
「Jetson Xavier」はデプロイ可能でエネルギー効率に優れたモジュール。PCワークステーションと同等のパフォーマンスを提供し、インテリジェントなプラットフォームに対してリソースインテンシブな自律動作機能をもたらす最適なソリューション。ユーザーがオペレーティングモードを 10W、15W、30W からコンフィギュレーション可能で、前世代Jetson TX2の10倍のエネルギー効率と20倍のパフォーマンスを実現する。
また、16GBの256ビット LPDDR4xメモリを搭載し、高解像度HDカメラや「LIDAR」などの高帯域センサーを低遅延で処理するAI技術を備えたビジョンおよびマルチメディアアプリケーションにも最適。
仕様表はNVIDIAのホームページを参照 (https://developer.nvidia.com/embedded/buy/jetson-xavier-devkit)


Jetson TX2 4GBも発表

「Jetson AGX Xavier」のほかに「Jetson TX2 4GB」モジュール(製品版)の提供も新たに開始することを発表している。
Jetsonシリーズは、従来のクレジットカード型サイズ「Jetson TX2」と「Jetson TX2i」に加えて、新たに「Jetson TX2 4GB」を加えた3製品のラインアップで提供が開始される。
また、それぞれのJetson製品に開発者キットが用意されていて、さまざまなユースケースに対応する各種のアプリケーションを、共通のソフトウェア・アーキテクチャで開発し、展開することができる。

新たにシリーズに追加された「Jetson TX2 4GB」

価格は1,000個以上まとめて購入した場合の単価で$299。

※$の表記はいずれも米(US)ドル

(Featured Ayuka Alyson Kozaki)

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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