自律AIロボットや自動運転の開発を加速する「NVIDIA AGX」を多数の日本企業が導入!CEO基調講演で発表【GTC Japan 2018】

GPUで知られるNVIDIAが主催するディープラーニング関連の日本最大級の技術カンファレンス「GTC Japan 2018」が9月13日~14日の二日間、品川高輪(東京都港区高輪)で開催された。初日の基調講演に立ったNVIDIAの創業者で社長兼CEOのジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏は冒頭、次のように語った。
「今日、話したいことは大きく分けて3つあります。コンピュータグラフィクス、ハイパフォーマンス・コンピュータとAI、AIの次のウェーブとなるロボットです」
NVIDIAは自動運転だけでなく、ロボット開発もAI技術によって加速させることを宣言、多くの日本企業をパートナーとして具体的に発表した。


AIは画像処理技術で躍進

ディープラーニングを中心にした機械学習、AI関連技術は既に画像関連の分野では様々な成果をあげ始めている。フアンCEOはこう語る。
AIがコンピューター業界を大きく変えようとしている。研究者がディープラーニングの機械学習において、NVIDIAのGPUを使用した時、AIのビッグバンが起こった。そして、その結果は人間の能力を超えるものだった。いま、AIはソフト開発をも革新している。将来ソフトウェアの多くは、コンピュータによって作られるようになるだろう、と。

AI技術による驚くべき成果の実例として、白黒写真を自動的にカラー化する技術(UCバークレー)、髪のカラーを変更するモデル(ロレアル)、2Dのスケッチから自動で3Dモデルを生成するニューラルネットワーク(香港大学)を紹介した。

UCバークレーによる、白黒写真をカラー化する技術(左)。右はロレアルが開発したリアルタイム動画上で髪の色を変更して360度から確認できる技術

更にNVIDIAリサーチが開発したGANでは、セグメンテーションマップ(道路や建物、歩行者、空などを線画のように塗りつぶした画像)からリアルな道路の風景映像を生成して合成する技術が披露され、ビデオ映像に別のカメラで撮ったポーズを反映させる技術などが紹介された。「GAN」とはGenerative Adversarial Network(敵対的生成ネットワーク)の略称で、2つのニューラルネットを競わせることで学習する注目のAI技術だ。

左がセグメンテーションマップに実映像を合成するGAN技術。右は香港大学が開発した2Dのスケッチから3Dモデルを生成する技術


新しいAIアーキテクチュア「Turing」と開発環境を推進

フアン氏は「開発者は長く、幅広い分野で使われる、優れたプラットフォームだけを採用します。既に100万人のNVIDIAプラットフォームの開発者がいて、今も増え続けている。ディープラーニング、レイトレーシング、イメージング、コンピュータビジョン、分子動力学、遺伝子配列決定など、主なアプリケーションは、CUDA(NVIDIAの汎用並列コンピューティングプラットフォーム)によって開発されています」と語った。

基調講演の前半は、新しいアーキテクチュア「Turing」と「TESLA T4」の性能を解説し、T4に対応した「TensorRT 5」を発表した。TensorRTは、発表以来、4,000社以上の企業で、12,000人以上の開発者がダウンロードしていると言う。

「TESLA T4」


自律AIシステム用に設計された世界初のチップ「XAVIER」

基調講演の後半は自動運転車や自律ロボット分野で注目の「XAVIER」(エグゼビア)について解説した。「XAVIER」を自律AIシステム用に設計された初めてのチップであり、初の自律動作マシン向けAIコンピュータとした。わずか30Wの電力で、毎秒100兆回以上のオペレーションが行えると言う。

今後、この分野では「NVIDIA AGX」が新しいキーワードとなるかもしれない。「NVIDIA AGX」は自律マシン用のブランドで、従来「DRIVE XAVIER」と呼称していたものは「DRIVE AGX XAVIER」に、「JETSON XAVIER」は「JETSON AGX XAVIER」に改められた。ちなみに医療/ヘルスケア向けAIプラットフォーム「CLARA」も「CLARA AGX」となる。AGXはAutonomous GPU Accelerated systemの略。
NVIDIAは「NVIDIA AGX」ブランディングのもと、「DRIVE AGX XAVIER」で自動運転向けの乗用車、トラック、バス、タクシー等の開発を加速させる。そして「JETSON AGX XAVIER」で汎用性を持った自律マシン、すなわち配達、農業用、産業用、家庭向けなどあらゆるロボット分野、ドローン、モビリティ、あるいはカメラ等に自律的なシステムをもたらすことを目指している。



DRIVE AGX XAVIER

自動運転車向けプラットフォーム「DRIVE AGX XAVIER」。現在、既に450社以上の自動車関連企業が「DRIVE AGX」と連携している。日本企業はトヨタ、ZMP、いすゞ、スバル、ティアフォー(Tier IV)など。

トヨタ、メルセデス、ボルボ、スバルなどの自動車メーカー、UBERなどのモビリティ、トラック輸送、ゼンリンなどの地図、デンソーやボッシュ、コンチネンタル、ソニー、オムロン、パナソニックなどの自動車部品やセンサー関連技術などのブランド名が並ぶ

「DRIVE AGX XAVIER」開発キットは2018年10月1日出荷開始

シューズボックス大のAIコンピュータ「DRIVE AGX XAVIER」


JETSON XAVIER

TensorコアGPUやARMの64ビットCPU等で構成され、従来モデルの「TX2」の性能と比較すると理論値で約20倍の高速性と約1/10の消費電力となる。

自律マシンを知能化するAIコンピュータ「JETSON AGX XAVIER」を持つフアン氏。こうして見ると本当に小さい

「JETSON AGX XAVIER」開発キットの出荷は既に始まっている。菱洋エレクトロやマクニカが取り扱う


自律ロボットの開発を加速する「NVIDIA ISAAC」とは

AI技術は機械学習がポイントとなる。学習にはビックデータによるトレーニングが必要だ。自動運転であれば膨大な走行データが、しかもあらゆる天候・気象条件のデータが求められる。ロボットも同様だ。多くの経験によって知的に学習する。しかし、そのトレーニングこそが皮肉にも現在のAI開発のネックとなっている。
シュミレーション(CGなど作られた環境)によってトレーニングの経験を積み重ねたり、実際の環境でのテストを「実際の環境を想定したテスト」に変えることで圧倒的に効率化し開発を短期間化しようというコンセプトで開発が進められているのが「NVIDIA ISAAC」(アイザック)プラットフォームだ。


「ISAAC SDK」には、マッピング、自己位置推定、認識、マップエディタ、LQR パスプランナー、ビジュアルオドメトリ、経路探索、奥行き推定(測距)、物理シュミレーション、人物姿勢推定、ジェスチャー認識、人物認識、音声認識など、自律ロボット開発や移動マシン(自律モビリティ)の開発に重要となるアルゴリズムや有用なライブラリがラインアップされる。このライブラリ群をNVIDIAでは「GEMS」(ジェムズ)と呼んでいる。

NVIDIAは「ISAAC SDK」のライブラリ類を「GEMS」と呼称する

「ISAAC SDK」の豊富な機能(ライブラリ等)が紹介された


日本の企業が続々とパートナーに

ヤマハ発動機は、NVIDIAと提携し、自律動作マシンのプラットフォームを統一する。UGV、UAV、 USV、そして電動カートに適用し、陸海空のモビリティに応用、モーターボートやドローン、農業や物流、漁業、ラストマイルの輸送などに反映していく考えだ。自動化と人手不足の解消を目指すと言う。

ファナックはFIELDシステムによる工場の自動化へ向けてNVIDIAを採用、コマツは建設機械を更に安全に運用し、更に生産性を高めるためにXavierを採用した。川田テクノロジーはXavierで次世代FAロボットを開発し、デンソーはXavierを使ってエッジファクターオートメーションAIを開発中。キヤノンは光学検査システムにXavierを活用する。武蔵精密工業はDGXとAGXでエンドツーエンドのAOIシステムを開発し、展示ブースでは生産現場で実証実験を進めるべベルギヤの外観検査システムを展示、部品の溶接部に発生するスパッタ(金属粒)をAIにより検出するデモも行った。
そして、パナソニックはカメラシステムの顔認証システムにNVIDIAを採用し、個人を特定したり、犯罪抑止に活用。同じく展示ブースで高精度なデモを公開した。


自動車関連では、いすゞ自動車は次世代トラックの開発に「DRIVE AGX」を活用する。そして、スバルも「DRIVE AGX」アーキテクチュアを使って、運転支援技術の拡張に取り組んでいる。


自動運転車の実現はいつ頃か

なお、フアンCEOは、基調公演後に設けられたプレス向けQ&Aセッションで、自動運転車が実用化する時期についてこう語っている(意訳)。
「自動運転車とその実用化にとって、最も重要なことは”安全”です。そして、AIとロボティクスにおいて”安全”は最も難しい課題のひとつでもあります。しかし、私たちはそれを発明し、実現しなければならないと感じています。ただ、その哲学は単純で”冗長性”と”多様性”によるものです。
私は、次世代のEVカーには自動運転機能が搭載されているだろうと考えています。既にEVカーには車線を維持して走行するなど、優れた自律走行機能が実現していますが、2年後に購入したときには更に改良され、小規模エリアでは自動運転によるタクシーサービスが実現しているのではないでしょうか。また、3~4年後には多くのトラックに自律運転支援機能が搭載されているかもしれません。トラックのドライバーは必要かもしれませんが、長時間の運転の多くを自律運転で行うことが実現すれば、ドライバーの疲労度はとても和らぐでしょう。そう考えています。」

フアン氏は、ドライバーなしのクルマでなくても、自律運転機能が安全性の向上やドライバーの疲労軽減など、現在の自動車社会が抱えている課題の多くを解決するために有効なソリューションになる、と柔軟な考えを示した。


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ロボスタ編集部

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