国立がん研究センター「医療×AI」の取組 医薬品情報データベースとQAシステムを木村情報技術と共同研究

「今後、私たち薬剤師は、AIを導入したQAシステムの活用によって得られたさまざまな医療情報を踏まえて、医療や薬剤は個々の患者さんひとりひとりに合わせて提供していくようになるだろう」国立がん研究センターの西垣氏はそう語った。

国立がん研究センターは専門知識を持つ施設と共有することで高いレベルの医薬情報データベースを構築し、対話形式で情報が得られるAI質疑応答システム(AIチャットボット)の開発に乗り出している。連携するのはIBM Watsonを使ったチャットボット開発で定評があり、薬学業界に強い木村情報技術だ。

木村情報技術は2月25日、都内で「医療薬学分野におけるAI(人工知能)活用の最新動向 ~AIによって薬剤師業務によって変わるのか~」を開催した。IBM Watsonを活用したAIシステムが薬剤師業務にどのように活用されているのか、今後の展望などを含めて、木村情報技術、国立研究開発法人 国立がん研究センター、星薬科大学 先端生命科学研究所、岡山大学病院がゲストとして登壇し、取り組みなどが紹介された。


木村情報技術は「IBM Watson日本語版」を活用した事業や人工知能サービスの研究・開発、AIお問合せシステム「AI-Q」チャットボットの販売などを行っている。また、Web講演会のオンライン配信も手がけているため、この講演の模様はインターネットを通じて全国に配信された。


国立がん研究センターと木村情報技術が共同研究

国立がん研究センターの西垣氏は「国立がん研究センターにおける医療情報管理の人工知能活用の取組み」を紹介した。国立がん研究センターは、医薬品情報の問い合わせに関する多施設で共有できるデータベースの構築と運用、そして、AIを活用した質疑応答支援システムの研究において、木村情報技術との連携を2018年7月より開始し、その発表を11月に行っている。
国立がん研究センター東病院を中心に、関連病院までを含む薬剤部等の多施設共有データベースの構築とAIを活用した問合わせシステムの構築を目指す。
この日はその共同研究の進展状況や課題などを紹介した。

国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院薬剤部 西垣玲奈氏


現場の課題 DI質疑応答

AIを活用した質疑応答システムとはどのようなものなのだろうか?
まずは現場の課題の説明から例を挙げて行われた。
西垣氏によれば、DI質疑応答の課題として、例えば「XとYの配合変化は?」という質問でも、「XとYを混ぜてよいか?」「Xの側管からYを濃度、時間で投与したいがよいか? 投与ルートは抹消静脈」といったように、質問者によって言い回しが大きく異なる場合が多々ある。同様に回答者も返答が異なる場合があり、ただ「配合不可」と回答する人と、不可であるものの一定の条件下であれば可能といったように条件事項を言い添える人、もいると言う。

西垣氏は「回答が人によって違うということは臨床現場では混乱に繋がる。QAシステムによって統一された回答が得られるようになることは非常に重要」とした。


適切な回答をみつけられる共有データベースの構築

医薬品情報を適切に提供する、多施設が利用できる共有データベースの構築を行うことが重要だ。さらにその際、AI質疑応答システムの導入によって、このような質問の言い回しによる「揺らぎ」や、回答の「バラつき」を解決すること、多くの運用によって精度が高まっていくことにも着目した。

国立がん研究センターと国立国際医療研究センターは、多施設が連携して医薬品情報に関する問合せ(QA)に効率的に対応するためのシステムおよび運用体制を整備する。西垣氏は、ポイントは「多施設で情報を共有して利用すること、膨大なデータベースの処理、年々増加し、改訂され、追加されていく医薬品情報にどのように対応していくか」の3つを掲げた。そしてこうした課題解決を行うため、AI(人工知能)を導入し、QAをデータベースへ収集するための最適なシステム(QA登録システム)やDI問い合わせのAIシステムを木村情報技術と共同開発するに至った。


高い専門知識を各施設から集約

国立高度専門医療研究センターは全国に6つあるが、当初は国立がん研究センター、国立国際医療研究センター、国立循環器病研究センターの3つの施設から手がけていく。3施設とはいえ、東京、千葉、大阪と物理的な場所が離れているため、ICTやネットワーク技術なくしては実現できないプロジェクトとなっている。

まずは「DI QA登録システム」を開発し、各病院のDI室から、医薬品のQAデータが登録できるようにした。これによって「医薬品QAデータベース」に情報が専門性の高い高度な知識とQA情報がデータベースに集約される。これをAIがQAデータとして活用するためには、蓄積されたQAデータを精査して分類し、「教師データ」として加工した上で入力する。教師データとは正解ラベルつきデータとも呼ばれるが、他の言い回しなどの揺らぎを紐付けたり、質問に対して正解をAIが正しく学習できるように加工したAI学習用データだと思うと解りやすいだろう。

AIは学習したことに基づいて、質問に対する回答を提示するが、正しく回答したかどうか、間違っていたら正解は何かなど、薬剤師がチェックしたり、追加したり、チューニングを行うことでAIの精度が向上していく(フィードバックが重要)。

西垣氏は3ヶ年のスケジュールを公表した。各年度、段階を経て、AIのチューニングや実証実験を重ね、対象施設の拡大や商業化を目指す。


多施設共有のQAデータベース構築の利点と課題

次に、多施設共有のQAデータベースを構築することによる利点と課題が紹介された。総じて言えば、専門性の高い多くの施設からQAデータを集めることで高精度のデータベースが構築できること、一度システムが開発されればQAデータベースの作成や更新、検索が効率化できること、施設間や新人・ベテランによる回答のバラツキの解消などがあげられている。

一方で、多施設共有であるが故に課題もあると言う。QAの登録時に各施設でフォーマットやルールが統一化されているかどうかに起因するものだ。例えば、院内のルールに基づく情報は多施設では不適切な可能性があるし、薬剤の呼び方も院内ローカルのものを登録すると思わぬ誤解に繋がる可能性が高い。このように院内ローカルで使っているルールを共有データベースの登録や使用の際には切り分けないといけない。

まだプロジェクトは始まったばかり、2018年2月の現時点で国立がん研究センターは約4,000件、国立国際医療研究センターは約600件の登録が行われていて、同データベースで「ニカルジピン」で検索した際のヒット状況も紹介された。

そして西垣氏は、冒頭の言葉「今後、私たち薬剤師は、AIを導入したQAシステムの活用によって得られたさまざまな医療情報をもとに、患者さんには腎機能障害があるとか、血圧が上がりすぎているとか、さまざまな状況を踏まえて、医療や薬剤は個々の患者さんひとりひとりに合わせて提供していくようになるだろう」と締めくくった。

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ロボスタ編集部
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