今、羽田空港の利用者のみならず、従業員の心を癒している接客ロボットがいる。インフォメーションカウンターに設置され、「出発ロビーはどこですか?」と聞くと、「今いらっしゃるところから左手のエスカレーターをあがった2階になります!行ってらっしゃいませ」など、身振り手振りを交えながら間髪入れずに答えてくれる。
この愛くるしいロボットは実は自動応答ではなく、従業員が遠隔操作によってリアルタイムで応対している「mini MORK」(ミニ モーク)だ。このロボットはNVIDIA Jetsonを搭載することで2022年3月に完全にリニューアルし、羽田空港での活躍をはじめた。実証実験の時から1時間で100人以上の空港利用者(人間の接客スタッフの約10倍)に声をかけ、正式導入後も時間当たり対応数では接客スタッフの対応数を上回っているという。
羽田空港のロボット技術活用プロジェクトに採用
mini MORK(ミニ モーク)は映像制作を軸に事業を展開するインディ・アソシエイツが開発した、遠隔操作ロボットMORKシリーズの製品。高さ45センチの卓上型ロボットであり、遠隔操作はもちろん、AI機能の搭載を前提としたモデル。頭部は上下左右に、ボディ自体は左右に可動させることができ、様々な表情をつくることができる。小さな腕も動かすことができるので、利用者へ方向を指し示したり、簡易なジャスチャーを交えて会話する。
インディ・アソシエイツはもともと2013年から羽田空港の館内案内のためのデジタルサイネージを開発・運用し、その中で空港の利用者に対してもっときめ細やかなコミュニケーションを実現する方法を模索していた。同時期に羽田空港ではロボット技術の活用を促進するため、国土交通省および経済産業省との連携のもと「Haneda Robotics Lab」を開設。テーマに沿ったロボット技術を広く募集し、空港内での実験導入を行うプロジェクトを始動していた。
そこでインディ・アソシエイツは自社内にロボット研究開発室を開設し、ロボットを通じて利用者との密なコミュニケーションを実現するMORKを開発。空港内において70cm、80cmのモデルで実証実験を繰り返し、デザインや性能を改善しながら2020年に正式導入された。実証実験の時から1時間で100人以上の空港利用者(人間の接客スタッフの約10倍)に声をかけ、正式導入後も時間当たり対応数では接客スタッフの対応数を上回っている。
NVIDIA Jetson Xavier NXがロボットの小型化と遠隔操作の遅延改善を両立
今回新たに開発、導入されたmini MORKは空港内のカウンターに置くと大人の目線と同等になるように設計されている。目の部分にカメラ、お腹の中央部分にはスピーカが内蔵され、首と手の部分はサーボ制御によって動作している。顔の部分には、他のMORKにはない口が追加されており、サイズに加え表情によって親しみやすさがアップしている。
もともと羽田空港に導入されていた70~80cmのMORKは、そのサイズのための外装コストがかかり、ロボットの単価が販売上の課題となっていた。mini MORKにはクレジットカードサイズと小型ながら最大21TOPSの演算能力を持つ「NVIDIA Jetson Xavier NX」モジュールを搭載したことで、通信帯域を落とさずにロボットの小型化と低コスト化を実現した。
現在mini MORKは羽田空港の第1ターミナルに4台、第2ターミナルに4台の計8台設置されており、空港内のオペレーションセンターから、PCを経由してスタッフが操作している。mini MORKはWebブラウザ間で音声やビデオ、データなどをリアルタイムにやり取りする際に用いられる技術であるWebRTC(Web Real-Time Communication)で音声・映像のリアルタイム送受信を行っている。この送受信のほか、コントローラ制御のコマンド解析処理、ROSによるサーボ制御、カメラ、オーディオ制御、LED制御、サイネージシステムとの同期処理など、ほぼすべての制御を1台のJetson Xavier NXがこなしている。安定した環境の場合、100msでFHDまたはHD解像度を実現している。
インディ・アソシエイツでmini MORKの開発を担当するエンジニアの福井晴敏氏は次のように述べている。
空港スタッフの負担軽減と業務の効率化
mini MORKは対面と変わらない接客のクオリティを空港利用者に提供するだけでなく、スタッフの負担軽減や業務の効率化にも貢献している。
インディ・アソシエイツ取締役の岡田佳一氏は次のように語っている。
また、現在、遠隔操作を行うスタッフはバックヤードでデスクワークと案内業務を同時に行える環境になっているが、ロボットと操作者は1:1のオペレーションのため、インディ・アソシエイツでは複数人で複数台のロボットを同時に監視や交代操作可能なシステムのテスト開発にも着手している。
今後の展開予定と超高齢化社会における貢献
MORKは昨今のコロナ禍における「非接触での接客対応」というニーズの解決策としても注目が高まっている。インディ・アソシエイツは今後、羽田空港だけでなく全国の空港にMORKを導入するという目標を掲げる一方で、住宅展示場のショールームなど、他分野での採用も拡大している。
岡田氏は次のように語っている。
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。