コンビニエンスストアのバックヤード。生活のごく身近な場所での、NVIDIAの組み込みコンピューティング向けプラットフォーム「NVIDIA Jetson」活用事例が公開された。
遠隔操作ロボットの開発で高い注目を集めるTelexistence株式会社は、コンビニエンス ストアの飲料陳列業務を行う最新型ロボット「TX-SCARA」に「NVIDA Jetson TX2」と「NVIDIA Jetson Xavier NX」を搭載している。この遠隔操作ロボットは、ファミリーマート経済産業省店とファミリーマート ALFALINK 相模原店で稼働している。
創業から一貫してNVIDIAのテクノロジを採用
創業からちょうど5年を迎えるTelexistenceは代表取締役CEOである富岡 仁氏が東京大学名誉教授の舘暲博士に出会い、1980年に舘博士によって提唱された「TELEXISTENCE(遠隔存在)という技術コンセプトを社会に実装する」というビジョンに賛同したことが始まりだった。日本やその他の先進国においてはますます希少になっていく人間の労働リソースを単純労働に分配するのは合理的ではなく、人はより付加価値の高い仕事を担うべき、という考えに基づいている。
以来、工場の外(世界)にロボットを実装し、世の中にある身体性を伴う単純労働をすべてロボットに置き換えることを目的に活動してきたが、ロボット開発においては当時から一貫してNVIDIAのテクノロジを採用し続けている。Telexistenceの3作目のロボットとなる「TX-SCARA」は、コンビニのバックヤードから飲料を陳列するロボット自身のほか、人がVRで遠隔操作するコクピット、そしてその2つを中継するクラウドの3つの要素で構成されている。
この構成自体は2作目の「Model-T」から継承しているが、TX-SCARAは新たにTelexistenceが開発したAIシステム「GORDON」(自動制御モード)をロボットとクラウド側に実装することで大きな進化を遂げている。
Telexistenceの3作目のロボット『TX SCARA』とは?
『TX SCARA』はTelexistenceの技術特性を生かし、バックヤードの狭いスペースで稼働可能な水平多関節型のロボット。通常時は『Gordon』(自動制御モード)が自動制御する。陳列失敗時にはTelexistence(遠隔操作)モードへ移行し、インターネットを通じて人が遠隔から直接的、直感的にロボットを制御し迅速に復旧を行うことが可能。
『Gordon』はTelexistence独自のAIシステムであり、セルフ・スキャニング・モジュールにより冷蔵ケースの商品充足状況や陳列すべき飲料の把持点などを認識し、把持から陳列までのエンドエフェクタの経路計画生成を行う。また、『Gordon』は店舗の過去の販売実績データを学習することで、時間帯や季節により変化する商品の売れ筋に合わせ『TX SCARA』による陳列タイミングを最適化できる。こうしたロボティクス・AI技術の活用により、一日約1,000本行われている飲料陳列業務をロボットが人に代わって24時間担う。
NVIDIA Jetsonが眼と頭脳の役割を果たす新型モデルTX-SCARA
2作目のModel-Tには、NVIDIA Jetson TX2を頭部に搭載し、ロボットの「眼」としてカメラから入力される映像の伝送に活用されていた。TX-SCARAはこれに加え、新たに足部に NVIDIA Jetson Xavier NXを搭載することで、AIによる自律動作機能を実現している。
例えば、陳列棚に並べる飲料はどの種類の缶とペットボトルであってもすべて同じアームで掴めるよう、アームの精度や強度、カメラの画角などが工夫されているが、飲料によって「持ちやすい位置」はそれぞれ異なるため、アームで掴む端点の認識など、画像認識のニューラルネットワークをTX-SCARAで実行する必要がある。Jetson Xavier NXは最大21TOPSの演算能力により、このような最新のニューラルネットワークを並列で実行する性能を提供し、ロボットの頭脳の役割を果たすことができる。また、陳列棚の仕切り部分にアームを当てずに回避する、といった動作計画もJetson Xavier NXで実行されている。
NVIDIA DGX Stationを活用したAIの学習で98%の認識精度を実現
Telexistenceはクラウド側とTX-SCARAにおけるAIシステムの学習環境に、NVIDIAのAIワークステーションであるNVIDIA DGX Stationを活用している。TX-SCARAを通じて陳列棚の飲料の在庫状況は24時間モニタリングされ、クラウド側のAIシステムではこれを受けながら、商品の陳列タイミングの予測やスケジュ-リングを行い、TX-SCARAへの飲料補充の指示を行う。TX-SCARAに搭載しているAIの認識精度は98%に達しており、ロボットの失敗時や予測し得ない状況が発生した場合のみ、コクピット側にいる人間が介入することで解決している。
Telexistence株式会社CTOの佐野元紀氏は「学習モデルのトレーニングに NVIDIA DGX を使うことで、あらゆるパターンでの商品陳列のシミュレーションを試すことができ、より最適な画像認識のモデルを効率的に作成することが可能になりました。」と述べている。
VRによるスムーズな遠隔操作にも必須なNVIDIA GPU
コクピットの役割を果たすTelexistenceの自社内の遠隔操作ブースでは、飲料の転倒時などに操縦者が対応するが、ヘッドマウントディスプレイを着けた操縦者が上下左右に頭を動かしたときに、3D映像の動きが遅れてしまうとVR酔いの原因になる。これを防ぐためにTelexistenceはVRの表示にも十分対応可能な画像処理性能を持つNVIDIAのGPUを採用することで、50ミリ秒の映像伝送を実現し、スムーズな遠隔操作を行っている。
佐野氏は「人がVRで遠隔操作をするためには低遅延で映像を伝送し、VR酔いを防ぐことが何より重要あり、そのためにはNVIDIAのGPUが必須でした。他社との比較も行いましたが、ハードウェアのパフォーマンスもさることながらNVIDIA Video Codec SDKのエンコーダーやデコーダー、CUDAやNVIDIA JetPack SDKなど開発環境がとても良く整備されており、開発のしやすさを高く評価しています。」と述べている。
多台数展開を視野に開発環境を強化
Telexistenceは今後の課題のひとつとして自動制御による精度を98%からいかに99.9%に近づけていくための開発を挙げており、そのためにも、さらにメモリ容量の多いJetson製品の搭載を検討している。また、ロボティクスシミュレーションアプリケーションおよび合成データ生成ツールであるNVIDIA ISAAC Simをベースとしたシミュレーション環境の強化も視野に入れている。
Telexistenceはさらに多関節ロボットハードウェアの改良を重ね、コクピットでの多台数管理を進めることで、遠隔操作と自動制御のハイブリッド技術を軸にロボット ソリューションの展開を国内外の小売、物流の現場に拡大していく予定。
NVIDIA GTC 2022でロボティクスについて学ぶ
NVIDIA Jetsonを活用した最先端のロボティクスや組み込みの技術については、3月21日から24日まで開催のバーチャルイベント「NVIDIA GTC 2022」で最新情報を確認できる。
基調講演では、創業者/CEOであるジェンスン フアン氏(Jensen Huang)が多数のニュースを発表すると見られている。また、AI、エッジ・コンピューティング、デジタルツインなどの分野で、世界トップレベルの研究者および業界のリーダーを含む約1,400人の講演者が900以上のセッションがおこなわる予定。参加登録は無料。
GTC参加登録無料はこちらから。
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