岡山大学病院が「ロボット支援下肝切除術」「ロボット支援下総胆管拡張症手術」を開始 新たな保険適用に伴い

022年4月より、新たに肝疾患に対する「ロボット支援下肝切除術」と、先天性総胆管拡張症に対する「ロボット支援下総胆管拡張症手術」が保険適用となった。保険適用開始に合わせて2022年7月から、岡山大学病院 肝・胆・膵外科では、この2つのロボット支援下手術を開始した。ロボット支援手術とは、ロボットが手術を行うのではなく、医師が先進のロボットを操作して、安全で低侵襲の手術を行うもの。


手術支援ロボットシステム「ダ・ヴィンチ」で膵臓手術の実績

国立大学法人岡山大学の岡山大学病院 肝・胆・膵外科では、高木弘誠助教(臓器移植医療センター)、楳田祐三准教授(学術研究院医歯薬学域 消化器外科学分野)を中心に、2020年9月より全国でも先駆けて手術支援ロボットシステム「ダビンチ」(ダ・ヴィンチ)を用いた膵臓手術を開始し、これまでに中国四国地方で最多となる約60例のロボット支援下膵切除術を行ってきた。

2022年4月に「ロボット支援下肝切除術」と「ロボット支援下総胆管拡張症手術」という2つの肝臓・胆道手術が新たに保険適用となったことを受け、同年7月より同術式による手術を開始した。


中国四国地方では岡山大学病院のみ

従来のロボット支援下膵切除術に、この度の新規術式を加えた全てのロボット支援下肝胆膵外科手術を行っているのは、中国四国地方では岡山大学病院のみ。現在、普及している腹腔鏡手術と比較しても、操作性に優れるロボット手術ではより精密な手術を行うことが可能となり、安全で精緻な肝胆膵外科手術につながることが期待できる。

岡山大学病院が所在する岡山大学鹿田キャンパス(岡山市北区)


ロボット支援手術による低侵襲手術が急速に発展

近年、患者への身体的負担を減らすために、腹腔鏡手術やロボット(ダ・ヴィンチ)手術による低侵襲手術が肝胆膵外科領域において、欧米を中心として急速に発展してきた。特にロボット(ダ・ヴィンチ)手術では、直線的な操作に限定される腹腔鏡手術と異なり、人間の手のような多関節能を有するロボットアームを用いるため、操作性が格段に向上している。また、高性能内視鏡による3次元画像やアームの手振れ防止機能も有しているため、高難度とされる肝胆膵領域の手術では、より安全で確実な手術につながることも期待されている。
課題は手術する内容によって保険適用される診療科や手術内容が限定されていること。


2つの術式が新たに保険適用

肝胆膵外科領域におけるロボット手術は、2020年4月にロボット支援下膵切除術が保険適用となり、今回2022年4月に「ロボット支援下肝切除術」と「ロボット支援下総胆管拡張症手術」という2つの術式が新たに保険適用となった。
ただし、どの施設においてもすぐにロボット支援下手術を開始できるわけではなく、ロボット支援下手術を行うためには術式ごとに一定の施設基準、術者基準が設けられている。


岡山大学病院の実績

報道向けリリースによれば、岡山大学病院臓器移植医療センターの高木弘誠助教は、2017年から2019年にオランダ・ロッテルダムのErasmus Medical Center 肝胆膵・移植外科へ臨床留学し、約70例の肝胆膵領域のロボット支援下手術に従事した。その海外での経験をもとに、岡山大学病院では、2020年9月に中国四国地方初となるロボット支援下膵頭十二指腸切除術を安全に実施した。

その後も、高木弘誠助教と楳田祐三准教授(学術研究院医歯薬学域 消化器外科学分野)を中心に手術症例を重ね、今日までに同地方最多となる約60例のロボット支援下膵切除術を安全に行ってきた。これまでの経験を踏まえ、今回ロボット支援下肝切除術とロボット支援下総胆管拡張症手術という2つのロボット支援手術を新たに開始することができるようになった。

肝切除術において、多関節能、拡大視効果、手振れ防止機能を有するロボット手術は、安定した視野で精緻かつ難度の高い手技が可能となり、通常の腹腔鏡手術の限界を克服することが期待されている。また、総胆管拡張症手術では複雑な消化管再建を必要とするため、多関節能を有するロボット手術には最適の術式と考えられているという。また、手術時間や出血量、術後合併症の頻度は、欧米の結果と比べても遜色のない結果であり、患者にとってより安全で低侵襲な手術を実施できることが確認されている、としている。


今後の予定

岡山大学病院では、2022年8月よりロボット支援下肝切除術は1~3例/月のペースで、ロボット支援下総胆管拡張症手術は2~4例/年のペースで行う予定。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム