NEC「先進的なセキュリティ技術の研究開発と取組み」(2) 量子暗号通信が安全と言われる理由 「BB84方式」と「CV-QKD方式」

日本電気(NEC)は、同社が取り組むセキュリティ領域の先進的な研究開発について、9月28日に報道関係者向けメディアブリーフィングをオンラインで開催した。社会や市場において関心が高まっているセキュリティ分野において、同社の最新研究と今後の技術領域を中心に、一部デモを交えながら最新動向や技術内容などを報道陣に向けて説明した。


前回記事「NEC「セキュリティ領域の先進的な研究開発の取組み」(1) 報道向けブリーフィングで語った4つの最先端技術」につづき、今回は「量子暗号通信」にフォーカスして、NECの取り組みを解説しよう。

【先進的な4つのセキュリティ技術】
1.セキュリティトランスペアレンシー確保技術
2.量子暗号通信
3.軽量認証暗号
4.秘密計算・高秘匿連合学習


未来の安全を創る「量子暗号通信」

量子暗号通信については、アドバンスドネットワーク研究所の上野ディレクターから説明があった。

アドバンスドネットワーク研究所 ディレクター 上野憲幸氏

近い将来、量子コンピュータが実用化されると、計算量的に安全性を確保しているRSAなどの公開鍵方式の現代暗号は容易に解読できるようになってしまう。RSAが普及している現状では、これは大きな問題であり、量子暗号や耐量子計算機暗号がこの問題を解決できる技術として期待されている。
上野氏は、量子暗号は計算量的安全性ではなく、情報理論と量子力学の原理により解読されないことが保証されている技術であり、量子コンピュータに限らず、新しい未来の計算機が登場しても破られることがないということを特徴にあげ、長期にわたって秘密保持が期待できる、とした。



絶対に安全だと言われる理由

量子暗号は「ワンタイムパッド」と「量子鍵配送」と呼ばれる2つの部分からなる。「ワンタイムパッド」は使い捨ての鍵を使って、一度限りの暗号化を行う方式。情報理論的に安全性が保証されていて、あらかじめ鍵は安全に共有されている、ということが前提になっている。
もう一方の「量子鍵配送」は光子の性質を使って乱数を安全に共有する仕組みのこと。
光子を分割できない、観測(盗み見)したら変化してしまうという力学を利用して、乱数を安全に共有するしくみだ。この2つの技術を合わせて、絶対に解読されない鍵を、絶対に盗聴されない仕組みで配送するため、安全だと言われている。



「BB84方式」と「CV-QKD方式」

NECが取り組んでいる技術は、代表的なプロトコル技術「BB84方式」と、次世代方式「CV-QKD方式」の2つの量子鍵配送方式。両方の方式に取り組んでいる日本企業はNECだけだ。
「BB84方式」は世界的にはメジャーで、NECも20年に渡って研究を進めてきた。1つの光子を1ビットの鍵の情報とする。この方式では光子の検出に高い精度が求められる。NECの強みは光通信装置などで培った独自技術を応用し、環境条件の厳しい状況でも安全・安定に動作させることができること、としている。


右側の「CV-QKD方式」は次世代の方式といわれ、微弱な光の波を鍵の情報とする。これまで安全性が証明されていない方式とされてきたが、昨年、東京大学により安全性の保障が証明されたことから、NECは製品化に向けて研究・開発に踏み切った。
この方式は光波の検出に、すでに実用化ができている光通信技術の転用が可能という。これにより安価な汎用部品が活用でき、また、1本の光ファイバー中でデータ通信との共存が可能であるため、専用ファイバーの設備が不要となることからも汎用性や普及の可能性でも期待できそうだ。光通信装置などで培ったデジタル通信技術を応用することで、装置の小型化や低コスト化も期待できるとしている。既に製品プロトタイプの開発中だという。


この2つの方式で、早期製品化と普及拡大の両面から展開させ、高精度なセキュリティ社会を実現したい考えだ。

次回は「軽量認証暗号」と「秘密計算・高秘匿連合学習」の説明をレポートする。
つづく。
> NEC「先進的なセキュリティ技術の研究開発と取組み」(3) 「軽量認証暗号」と「秘密計算・高秘匿連合学習」とは

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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