【世界初】NTT、サブテラヘルツ帯で毎秒1.4テラビットの超高速無線伝送に成功 データ同時多重伝送「OAM波」技術とは

NTTは、32GHzにわたる超広帯域幅を利用した、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)多重伝送を実現し、毎秒1.44テラビットの大容量無線伝送に世界で初めて成功した。動画サイトの超高精細4K動画ならば約35,000本を同時伝送できる速度となる。
NTTは、2023年5月28日から開催されるイタリア、ローマで開催される国際会議『IEEE ICC (International Conference on Communications)』で発表を予定している。


OAM多重伝送技術で無線通信の容量を増大

NTTはIOWN・6Gにおける大容量のネットワーク・情報処理基盤を支え、増大する将来の無線通信需要に備えるため、テラビット級無線伝送の実現を目標に研究開発を取り組んでいる。

無線通信の容量を増大するためにNTTはサブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡大するとともに、軌道角運動量(OAM)を持つ電波を用いた新しい原理により空間多重数を増加させることで、無線伝送の大容量化を図っている。

OAMとは電波の性質を表す物理量のひとつ。OAMを持つ電波(以下「OAM波」)は、同一位相の軌跡が進行方向に対して螺旋状になり、ボルトとナットの関係のように同じ螺旋構造をもつ受信機でのみ受信できるため、異なる螺旋構造を持つ複数のOAM波を重ね合わせても、それぞれのOAM波に対応した螺旋構造で受信できる受信機を用意すれば互いに干渉することなく分離することができる。この特徴を利用して、複数の異なるデータを同時に伝送する技術が「OAM多重伝送技術」だ。

OAM多重伝送技術のイメージ(NTTプレスリリースから抜粋)

これまでにNTTでも、ミリ波などを用いて100Gbps・100m超のOAM多重伝送の実証実験を進めてきた。


大容量無線伝送の動向(NTTプレスリリースから抜粋)




動画サイトの超高精細4K動画ならば約35,000本を同時伝送できる速度

NTTは、Butler Matrixと呼ばれるアナログ回路(「Butler回路」)を用いて複数のOAM波を多重処理することにより、空間多重数を増加させるというアプローチをとっており、このアプローチによって、1テラビットを超える大容量通信において、異なる螺旋構造に対応する電波間の干渉を除去するための膨大なデジタル信号処理を低減することができる。

今回NTTは、サブテラヘルツ帯導波路技術の研究開発を推進し、広帯域かつ低損失で動作するアンテナ一体型Butler回路を開発することに成功。このこのアンテナ一体型Butler回路は、135GHzから170GHzの非常に広い帯域で、8個の異なるOAM波を同時に生成および分離できるように設計されており、これを用いることで8個のデータ信号を多重して伝送することができる。また、異なる2つの偏波でそれぞれOAM多重伝送を行うことで、互いに干渉することなく2倍となる16個のデータ信号を同時に多重して伝送できる。

開発されたアンテナ一体型Butler回路(NTTプレスリリースから抜粋)

このアンテナ一体型Butler回路を用いて伝送試験を実施し、135.5~151.5GHzと152.5~168.5GHzのサブテラヘルツ帯を用いて合計1.44Tbpsの大容量無線伝送に世界で初めて成功した。


伝送実験の様子(NTTプレスリリースから抜粋)

成功した1.44Tbpsの伝送速度は、現在の動画サイトなどで視聴できる超高精細4K動画(40Mbps程度)ならば、約35,000本を同時伝送できる速度、超低遅延が必要なアプリケーションにおける非圧縮4K動画(10Gbps程度)の場合は140本以上同時伝送可能となる速度に相当する。


IOWN・6G時代の革新的無線通信技術として期待

今回の成果は、光伝送系に匹敵する広帯域かつ高速な無線伝送を実現するとともに、OAM波の多重処理をアナログ回路が担うため、多重処理のための複雑なデジタル信号処理システムを要することなく、シームレスに無線伝送系と光伝送系を接続できるようになることが期待される。

次のステップでは、実社会における様々な用途を想定し、100mを超える長距離での実証実験に取り組むとしており、最終的にはIOWN・6G時代の革新的無線通信技術として、VR/AR(仮想現実/拡張現実)や高精細映像伝送、コネクティッドカー、遠隔医療など、将来の多様なサービスの創出および普及を支えていくことが期待さている。

利用用途例(NTTプレスリリースから抜粋)

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ロボスタ編集部

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