業務用ロボット掃除機を体感できる「アマノロボットラボ」が開設 多様な床材や障害物への対応能力を体感可能
業務用掃除機や床洗浄機で知られるアマノ株式会社は、2023年7月に、ロボット掃除機を体感できるショールーム「AMANO Robot Lab(アマノ ロボット ラボ)」を横浜の本社に開設した。ロボット掃除機の機能や運用面に興味と不安がある顧客向けのショールームで、様々な種類の床材素材や点字タイルなど異なる床条件や、防犯ネットやガラスなどの障害物、スロープなどが設定されており、ロボットの機能を実際に体感・確認できる。クラウドを使った走行ルート修正やその後のロボット動作確認も体験可能だ。
申し込み制で、基本情報は以下のとおり。
・公式サイト(https://www.amano.co.jp/Clean/robotlab.html)
・住所:横浜市港北区大豆戸町275番地(アマノ株式会社 本社 新館2F)
・開館日:月曜から金曜(祝日を除く)
・特定休館日:GW、夏季休暇、年末年始休暇(アマノカレンダーに準ずる)
・開館時間:(1)10:00- (2)13:00- (3)15:00-(1日3組、一組は8名まで)
・所要時間:約90分
4つの機能の確認ができる「アマノロボットラボ」
今回、実際に「アマノロボットラボ」を訪問してショールームを体験できたのでレポートする。「アマノロボットラボ」は広さ405平米。プレゼンゾーン、ランニングゾーン、洗浄ゾーンの3つに分かれている。
ランニングゾーンでは主に走行機能、障害物への対応機能、安全性能などを検証する。洗浄ゾーンでは床に擬似汚れを付着させた状態でロボットを走行させて、水残りや汚れ残りをチェックできる。ただ実際には清掃機能よりも「ロボットの動作機能を見たい」という顧客のほうが多いそうだ。清掃機能については、これまでのアマノの信頼があるということだろう。壁には1から13までナンバーが振られており、それぞれ異なる機能のチェックを行うことができる。
「ロボットラボ」では主に4つの確認を行うことができる。
1)自律走行機能では指定ルートをティーチングして走行させることで自律機能を確認するほか、グレーチングへの対応や段差踏破などを現場に即した状態で確認できる。
2)安全機能ではLiDAR(レーザーセンサー)を突き抜けるガラスなどへの対応や、段差対応などを確認し、安全機能を検証できる。
3)清掃能力については、セラミックタイル、長尺シート、カーペットなどに擬似汚れを付着させて清掃させることで、汚れ落ちを確認できる。
4)障害物回避性能については、現場で想定される、マット、防犯ネット、背丈の低い障害物やラック、ポールなどへの障害物回避機能を確認できる。
またカメラが備え付けられており、遠隔地の顧客もウェブ経由でプレゼンテーションに参加して機能を確認できる。
アマノのロボット掃除機は3機種を使い分け
アマノ は2014年3月に自律走行式のロボット床面洗浄機「SE-500iX」を発売。日本国内では初めて本格的に業務用ロボット清掃機の事業展開を開始した。2015年9月に業務用ロボット掃除機「RcDC」を発売。
さらに2018年10月には大型ショッピングセンターやスーパーマーケット等の商業施設、機械製造・食品・化学工場等、空港や駅のコンコースの清掃向けに自律走行式 ロボット床面洗浄機「EGrobo(イージーロボ)」を発売した(リリース:https://www.amano.co.jp/information/detail/20180913.html)。2022年10月にはPreferred Roboticsと共同開発した、小型床洗浄ロボット「HAPiiBOT(ハピボット)」を発売した。(本誌過去記事(https://robotstart.info/2022/11/01/moriyama_mikata-no162.html)参照)。
2023年にはスイーパー(除塵)タイプの「RSrobo(アールエスロボ)」を発売している(リリース:https://www.amano.co.jp/information/detail/20230524.html)。
現在は、ロボット床洗浄機の「EGrobo」と「HAPiiBOT」、そして除塵ロボットの「RSrobo」、3機種の清掃ロボットで清掃作業員の人手不足対策や清掃作業効率化によるコスト削減を支援している(https://www.amano.co.jp/Clean/products/robot.html)。
要するに前方から水を出して床を洗うスクラバータイプとしては「EGrobo」と「HAPiiBOT」があり、大面積を清掃する必要がある現場では大容量バッテリーを搭載すれば最大4時間連続稼働が可能な「EGrobo」、細かい小回りが要求されるスーパーなどでは90cm幅でも走行が可能な「HAPiiBOT」というかたちで使い分けられている。
掃き掃除を行うスイーパータイプは「RSrobo」で対応する。埃などの汚れのほか、土砂やクリップなど乾いたものであれば回収できるという。「HAPiiBOT」の後発だが、内部の頭脳部分は「EGrobo」と同じだ。小回りを効かせるよりも大面積の清掃と、市場に早く投入することを優先したためだという。
人とモノを見分け、防犯ネットも認識できる「HAPiiBOT」
アマノ(株)クリーン・ロボットソリューション事業部 事業企画推進部 事業企画課 課長の斎田航平氏は「人手不足や働き方改革による生産性向上などを背景として、業務用清掃ロボットに対する市場ニーズは高まってきている」と語る。
現在、アマノがプッシュしているのが「HAPiiBOT」。特徴は人とモノを正確に区別して、それぞれ違う対応ができるところだ。モノの場合は単純に回避するが、人だと認識すると一時停止して人が避けるかどうかを待つことができる。
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また、床にある背の低いマットや、カメラ以外では捉えにくい防犯ネットなどもRGBカメラとToFカメラ、そしてAIを使って認識し、回避することができる。防犯ネットの裏側にさまざまな色の商品類などが置かれていても、正しく「ネットだ」と認識して回避できるので、閉店後の店舗内の清掃などを任せることができる。
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マッピングとティーチングの使い分けは現場次第
清掃ルートの設定は基本的にはティーチング方式。つまりロボットを直接なぞるように動かして、そのとおりに動作を再生する。この方式は3機種とも用いることができる。「HAPiiBOT」だけはマッピング方式も可能だ。外周をぐるっと動かすと、中の塗りつぶしルートはロボットが自動で生成する。
現場ではそれぞれの方式が使い分けられている。アマノ(株)クリーン・ロボットソリューション事業部 ロボットソリューション推進部 主任の鈴木啓介氏によれば、「使用される環境によりけりなんですが、7割がティーチングです。普段から洗浄機を扱っているビルメン様だと『マッピング』は無駄が多い。一方、製造業のお客様、清掃を生業とされていないお客様からすれば『マッピング』でも十分な性能がありますし、逆に、慣れない人間がやるよりも上手に清掃してくれるんです。その違いがあります」とのこと。
洗浄の設定や、場所によって水を強める弱める、速度を弱める早めるといった設定にも人によって癖がある。その動きもティーチングでは一緒に記憶する。いっぽうマッピングでは均一の洗浄になるため、プロユースからすると無駄が多かったり、特に重点的に清掃するべき場所への力の入れ方が物足りなく感じる、というわけだ。また、出社時間等に合わせて、時間的な面で優先的に清掃するべき場所がある場合などもティーチングが用いられている。いっぽう、工場内での活用など、本業が清掃でないエンドユーザーが用いる場合は、マッピングが用いられることが多いというわけだ。
なお、ロボットは清掃開始位置までは人間が移動させてスタートさせる必要がある。始点位置のズレは半径1m、角度では45度までは許容されるが、大きくズレていると清掃自体を開始することができない。
アマノ(株)クリーン・ロボットソリューション事業部 サポート部 フィールドサポート課 マイスターの銀山孝司氏によれば、ロボットのインターフェースは、高齢者が使うことも想定して簡単なものとなっているという。だが、まだまだ改良の余地はあるようにも見えた。
動作状態や清掃状況は「アマノロボットクラウド」で管理
ロボットの動作状態や清掃面積などは「アマノロボットクラウド」で管理できる。複数のロボットを一括管理し、稼働状況を集計し、帳票出力できる。
ロボットの遠隔操作も可能で、ちょっとした障害物でスタックする事態を回避したり、前述のロボット清掃開始位置がズレていないかどうかといったことを、管理者はクラウド経由で確認できる。ルートの編集も簡単だ。
サーバーにはAWSが用いられており、ロボットとの通信はドコモのLTE回線経由で行う。ドコモ以外への切り替えも可能だ。顧客はタブレットなどを使ってネット経由でアクセスできる。専用線を使う必要はない。
ロボット活用で「先進的な会社」と評価される利点も
「HAPiiBOT」の累積出荷台数は200台弱。導入されている現場は、ショッピングモールのような商業施設が33%、食品スーパーが32%、工場が18%。そのほか、病院、駅、公共施設等となっている。メインターゲットは商業施設と駅で、病院にも力を入れていきたいという。広い商業施設でも細かい部分まで掃除させたいとなると、小回りが効く「HAPiiBOT」を使いたいということになるそうだ。
食品スーパーでの掃除は徐々にロボットに置き換えられており、大型商業施設では人とロボットの組み合わせとなりつつあるとのこと。「HAPiiBOT」はアマノの手押し床洗浄機「EG-2」をベースにした機種なので、もともと「EG-2」を使っていた顧客からは「HAPiiBOT」は使い勝手がいいと評価されているという。
大型商業施設やスーパーでは、夜間や早朝など清掃人員が集まりづらい時間帯でも清掃が可能、ロボットに床洗浄を任せて空いた時間で人が除菌などのより細かな清掃が可能、ロボットは休まないのでシフト管理が容易と評価されている。また、ロボットを使っていることで先進性のある施設だとPRできる点も評価されているとのこと。
この一番最後の点は製造業での活用でも同じで、工場見学を受け入れているような会社では、学生たちにロボットを使っていることをPRすることはリクルートにも繋がっていると評価されているそうだ。
工場では当然、清掃にあてていた時間を本業に当てることで生産性向上ができる、また人は入室ができないエリアの清掃も任せられるといった点が評価されている。
工場や公共交通機関などでは、国産のロボットである点も顧客の導入理由の一つとなっている。カメラで撮影したデータなども国内のサーバに置かれている。掃除ロボット業界でも中国製のロボットは多いが、セキュリティに厳しい条件がある場所では「国産以外は検討しない」と言われることもあるという。
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病院では100床以上の病院でも使われている。特に外来受付ホールや待合室、診察付近など、椅子の位置などが変化しやすいところでも「HAPiiBOT」ならば対応可能だという。また夜間に動かしているケースが多いが、病院では機敏に動くことができない人とたまたま出食わす可能性も他よりも高い。その面でも人とモノを見分けて走行できることから、昼間に動かしても大丈夫じゃないかと言われているという。
販売目標台数は今期400台
アマノのロボット掃除機の販売目標台数は2024年3月末までに400台。ちなみに「EGrobo」の累計出荷台数は250台、「RSrobo」は40台程度。「HAPiiBOT」は前述のとおり200台弱だ。「HAPiiBOT」の好調ぶりがわかる一方で、1現場あたりの導入台数はせいぜ2−3台程度なので、かなり高いハードルだという。とはいうものの、中には各フロアごとに導入を検討している商業施設などもあるそうだ。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!