日本科学未来館 「ハロー!ロボット」など4つの新常設展示を公開、見どころ紹介 社会課題の解決めざすロボットを複数展示

日本科学未来館は、「ロボット」「地球環境」「老い」をテーマに制作した4つの新しい常設展示を完成させ、2023年11月22日から一般公開する。
さまざまな社会の課題との向き合い方や解決に向けたヒントを探っていくための、最新の科学技術にもとづく展示体験を広く提供していくとしている。

新常設展示「ハロー! ロボット」より

新常設展示「ナナイロクエスト -ロボットと生きる未来のものがたり」より

日本科学未来館の外観。ゆりかもめ「テレコムセンター駅」、りんかい線 「東京テレポート駅」などから徒歩

2023年11月22日の一般公開に先立ち行われたプレス向けの内覧会とオープニングセレモニーがおこなわれた。



展示体験が未来の社会課題を自分ごととして考える第一歩になる

プレス向けの内覧会とオープニングセレモニーで、日本科学未来館 館長の浅川智恵子は新常設展示について次のように述べている。

本科学未来館館長 浅川智恵子氏

2021年に館長に就任してから、新常設展示の企画開発に取り組んでまいりました。明日から公開となる4つの展示の制作にあたっては、『展示体験が未来の社会課題を自分ごととして考える第一歩になる』ことを目指しました。いま直面している課題はもとより、将来私たちが直面する可能性が高い社会課題を、最新の科学的知見とともに体験できるよう工夫しています。展示の最後には、意見を共有するスペースを設けました。さまざまな方のコメントに目を向けながら、皆さん自身の未来を考える機会としていただきたいと思います。


新常設展示1「ハロー! ロボット」

「ハロー! ロボット」の展示空間

「ハロー! ロボット」はのロボットたちとのふれあいや、最新ロボティクス研究の紹介を通して、未来の多様なロボットとのくらしを想像し、新しい可能性を見つけることができる展示となっている。

ロボットとふれあえるエリアでは、未来館オリジナルのパートナーロボット「ケパラン」をはじめ、人とのコミュニケーションやセラピーを目的に開発されたロボットに触れたり、声をかけたりしながら、インタラクションを楽しむことが可能。最新ロボティクス研究の紹介では、「こんなロボットもあるんだ!」とそれまで持っていたロボットのイメージが変わるような最新の研究や注目のロボットを展示する。

展示概要

【コミュニケーションロボット】

未来館オリジナルパートナーロボット「ケパラン」
-あなたとかかわり、変わっていくパートナーロボット

未来館オリジナルパートナーロボット「ケパラン」

ロボットがより身近になる未来を体感し、人とロボットとの関係性を「自分ごと」として考えていただくきっかけとして「みんなで育てる」をコンセプトに開発されたケパランを展示する。公開時は生まれたばかりの設定で、自律的に姿勢制御をしながら皆さんを迎える。専用アイテムを見せると、喜んだり嫌がったりし、今後、ケパランの声や発話・表情などの感情表現や、パートナーロボットとしての応対やふるまい・歩行動作などを来場者などの意見をふまえ搭載していくとしている。

技術協力 トヨタ自動車株式会社
キャラクターデザイン モンブラン・ピクチャーズ株式会社
人形・外装制作 人形工房



「パロ」
-人に楽しみや安らぎを与え、心をケアするセラピー用ロボット

本物の動物を飼うことが難しい場所や人のために開発されたロボット。セラピーロボットとして医療施設のほか、国際連合機関などにより、災害や戦争を体験した人などに対して心のケアに活用されている。また、有人火星探査に向けて、狭い居住空間でのストレス軽減の効果についても実験が行われている。

協力 柴田 崇徳氏(産業技術総合研究所 上級主任研究員)、株式会社知能システム



「aibo(アイボ)」 
-人に寄り添い、愛情の対象となるエンタテインメントロボット

家庭の中で人とつながりを持ち、育てる喜びや愛情の対象となることを目標に開発されたロボット。自ら好奇心を持ち、人に寄り添いながら毎日を共に楽しく生活し、成長していくパートナーとなることを目指している。日々ふれあいを重ねていくことでaiboの性格やふるまいが変化し、個性も生まれ、クラウドにつながることでaibo全体での学習も行い成長していく。

協力 ソニーグループ株式会社



「LOVOT(ラボット)」 
-心が通う、あたたかいテクノロジー

だんだん家族になっていくロボット「LOVOT」。柔らかくて温かいからだ、10億通り以上ある目や声の組み合わせ、思わず抱きしめたくなるような肌触りなど、人がLOVOTに愛着を形成するための技術が凝縮されている。頭部の「センサーホーン」には、半天球カメラ、マイク、照度センサー、サーモグラフィーが内蔵されており、全身の50を超えるセンサーで捉えた刺激を機械学習技術で処理しリアルタイムに動きを生み出す。

協力 GROOVE X株式会社



【最新ロボット研究】

「けんけんロボット」 
-自然な動きのメカニズム 人の足のように動くロボットのヒミツ

最新ロボット研究の展示の様子

人の身体をベースにした構造を持つ2足ロボット。鏡に映った自分の動きから跳び方を学習することで、リズミカルでスムーズな片足跳びができる。20年にわたる受動歩行の研究をもとに設計されたロボットの構造と、それを巧みに活かして制御するAIが組み合わさることで、人のような自然な動きを可能にしている。

協力 佐野明人氏 (名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授)



「トーキング・ボーンズ」 
-〈弱いロボット〉たちと共に生きる 「弱さ」が持っている可能性

何気なく発した言葉に反応して、「トーキング・ボーンズ」たちが今日あったできごとや経験に対する関心や共感を示しながら、会話を引き出してくれる。語りかけに対してさらに聞き返してくれることで、「もっと話したい」と感じたり、安心感や嬉しさを感じたりするかもしれない。

協力 岡田美智男氏 (豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授)



「耐火性ソフトグリッパ機構」 
-やわらかい、かたい、やわらかい…… 自由自在な「柔らかさ」

おわん型の半球を一直線に並べてワイヤーでつなぐと柔らかく自由に変形できる構造になる。ワイヤーを引っ張り、半球同士の摩擦力を大きくすると、形状を保ったまま固くなる。これを応用し、耐火性のチタンを用いることで、災害時などの過酷な環境においても多様な物体をつかむことができるグリッパが誕生した。

協力 多田隈建二郎氏 (東北大学 大学院情報科学研究科 准教授)



「Pupiloid(ピューピロイド)」 
-瞳は口ほどにものを言う!? 人をひきつけるロボットの魅力

Pupil(瞳)+ oid(ロボット)の名前のとおり、人の瞳のような見た目をしたロボット。このロボットは人の会話の「熱量」(発話量)を計測していて、より熱心に話しかけるほど、瞳孔が大きくなる。瞳孔の変化があることによって、よりロボットに親しみを感じやすくなり、会話を促進させる効果が期待されている。

協力 瀬島吉裕氏 (関西大学 総合情報学部 准教授)



「ウマ後肢型ロボット」 
-つくってさぐる!  生物のヒミツ 動物を再現して理解する

ウマの歩行メカニズム解明のためのロボット。ウマの後ろ脚1本に備わる5つの関節と6本の筋肉・腱の構造を再現すると、股関節をふるだけでウマそっくりに歩くことができた。股関節を前方に勢いよく振ると全ての関節が連動して曲がり、足先が地面に接すると関節が自動的に固定されて自重を支えることが可能。

協力 増田容一氏 (大阪大学大学院 工学研究科 助教) 



漫画「サイド-バイ-サイド」 
-モノとあなたとロボットと モノと人、ロボットと人の関係

未来のロボットと人はどんな関係になだろうか?それを考えるためのキーワードは、「モノと人の相互作用(Human – Object Interaction)」。人はモノを大切にし、そしてモノを扱うなかから何かを学んでいる。社会心理学者とともに考えられた物語をヒントに、ロボットと人の理想的な関係性を考えてみよう。

協力 上出寛子氏 (名古屋大学 未来社会創造機構 特任准教授)


監修者 茂木強氏 コメント

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 茂木強氏

皆さんはロボットと聞くとどんなものを想像するでしょうか。現在のロボットは多様化していて、どのように動くかだけではなく、どのように人とコミュニケーションをするかも盛んに研究開発されています。展示の監修にあたり、いかにこれからのロボットが多様で、さまざまな可能性に満ちているかを体感してもらえるようにスタッフの皆さんとたくさん議論しました。ぜひお気に入りのロボットを見つけてみてください。

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 茂木強氏(左)と日本科学未来館 科学コミュニケーター岩澤大地氏


設置エリア 3階 常設展示ゾーン「未来をつくる」
監修 茂木強氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)
設計・制作 株式会社乃村工藝社


新常設展示2「ナナイロクエスト -ロボットと生きる未来のものがたり」

「ナナイロクエスト」の展示空間

人とロボットがともにくらす未来のまち「ナナイロシティ」に入り込んで、トラブルを解決するために専用タブレットを使って展示空間を探索していく。タブレットに現れるナビゲーターの導きにしたがって、まちで活躍するロボットの情報や住人との会話などを手がかりにミッションに挑戦していくなかで、人とロボットとのさまざまな付き合い方にふれていく。最後にたどり着くのは、感想やアイデアなどを自由に投稿するエリア。自分の考えを残すとともに、他の来館者が残した多様な価値観に触れることで、新たな気づきが得られるかもしれない。

展示構成

舞台は未来の街「ナナイロシティ」

「ナナイロクエスト」体験の様子

少し未来の、人とロボットがともにくらす世界を描いたのが「ナナイロシティ」。人間のパートナーとなったり、身体の一部の機能を担ったりするなど、多様なロボットが人とともにくらしている。

「展示体験について」について
3つの体験シナリオから1つを選択し、専用タブレットを受け取り入場。1台のタブレットで同時に体験できるのは最大4名まで。少人数でじっくり楽しむ展示となっている。

シナリオについて
まちの町長「オサボット」が起こしたトラブルを解決するために、ナビゲーターの「アスカ」と一緒にまちを探索する。まちの住人がどのようにロボットと付き合っているか、その背景や思いを知りながら、ロボットとのさまざまな付き合い方や考え方に触れていく。

「ナナイロクエスト」のキービジュアル

シナリオA:ともだちロボットツアー
所要時間:40分~60分程度
推奨年齢:小学生以上
ナナイロシティで大人気の友達ロボットを使っている人たちに会いに行きます。人間のパートナーとしてのロボットの存在を考えていく。

シナリオB:ものづくりロボットツアー
所要時間:60分~80分程度
推奨年齢:中学生以上
ものづくりにロボットを取り入れている工房などを訪ねます。人間の持つスキルを再現するロボットなどが登場する。

シナリオC:からだロボットツアー
所要時間:60分~80分程度
推奨年齢:中学生以上
ロボットで人間の機能を拡張している人たちに会いにいく。人間の身体や感覚を拡張するロボットについて考えていく。



キャラクター紹介

オサボット
ナナイロシティのロボット町長。やわらかい素材で作られている。おっちょこちょいだが、いつもまちのために全力を尽くしており、まちの人からは愛されている。整理整頓がちょっと苦手。

「オサボット」



アスカ
ナナイロシティ観光ツアーの案内役。10歳くらいの子どもの見た目をしており、一人称は「ボク」。それ以外のことはほとんどわかっていない。

「アスカ」

【テーマソング「ナナイロカラフル」について】
アーティストのDaoko(ダヲコ)氏とトラックメイカーのTomggg(トムグググ)氏が制作。Daoko氏自ら作詞を担当し、「ロボットと生きる未来のものがたり」の世界観やメッセージをふまえ、どのような未来を選択したいかを優しく問いかける曲になっている。Daoko氏と共に作曲を担当したTomggg氏は、「ナナイロクエスト」全体の音楽制作も担当。本作品は「ナナイロカラフル」は展示内でも聴くことができる。

監修者 安藤健氏・塩瀬隆之氏 コメント

早稲田大学 次世代ロボット研究機構 客員次席研究員 安藤健氏

少し先の未来にはどんなロボットがいると思いますか?物語の舞台である、未来のまち「ナナイロシティ」には、レストランの配膳ロボットのように今も見かけるロボットだけでなく、くらしの様々なシーンを支えるロボットたちがたくさん描かれています。未来のロボットたちがどんなふうに活躍しているか妄想しながら、まちのいろんな場所を探してみてください。当たり前のように溶けこんでいるロボットもいるので見落とさないでくださいね!


京都大学総合博物館 准教授 塩瀬隆之氏

皆さんは、お掃除ロボットを「この子」、スマートスピーカーを「こいつ」、と呼んでしまったことがありませんか。壊れた家電製品の新品交換は嬉しいけれど、ペットロボットの新品交換と聞くと少しモヤモヤしませんか。ナナイロクエストでは、どんなロボットは嬉しくて、どんなロボットならモヤモヤするのか、多様な”問い”に対する皆さんの声を集めるような展示を目指しています。まだ見ぬ未来を、皆さんと一緒に探究していく”対話”こそが、この展示一番の目玉となります。



早稲田大学 次世代ロボット研究機構 客員次席研究員 安藤健氏(中央)、京都大学総合博物館 准教授 塩瀬隆之氏(右)、日本科学未来館 科学コミュニケーター佐野広大氏(左)


設置エリア 3階 常設展示ゾーン「未来をつくる」
監修 [ロボット技術] 安藤健氏(早稲田大学 次世代ロボット研究機構 客員次席研究員)
[問い・体験] 塩瀬隆之氏(京都大学総合博物館 准教授)
参加クリエイター [シナリオ原案] 安野貴博氏(SF作家、AIエンジニア)
[コンテンツ企画] 株式会社SCRAP
[音楽] Tomggg(トラックメイカー)、Daoko
[アートワーク] モンブラン・ピクチャーズ株式会社
設計・制作 株式会社乃村工藝社


新常設展示3「プラネタリー・クライシス -これからもこの地球でくらすために」

「プラネタリー・クライシス」の展示空間

気候変動の危機にさらされている地域の人々のくらしを体感し、科学的なデータに基づいて急激に変化する地球環境の今を捉えながら、私たちのくらしが多様な環境問題を引き起こしている現状を理解していく。体験を通して地球環境とくらしを多角的に見つめ直すことで、その原因は私たちであり、主体的に解決をさぐる主体も私たちであることに気づくでしょう。未来のために前向きな一歩として、自分だからこそできることを探る展示となっている。

展示構成

【ゾーン1:地球の旅に出る】

「プラネタリー・クライシス」ゾーン1の様子

没入感のある大型映像シアターで、地球環境をさぐる旅に参加。海面上昇などの気候変動の影響を受け、今まさに危機が迫る太平洋の島国「フィジー共和国」の人々のくらしの実情を、現地の方のリアルなストーリーで描く。迫力ある大型映像、映像と連動した振動や熱、風などの体感効果とを組み合わせ、フィジー共和国の生活の様子を「自分ごと」として体感することができる。

【ゾーン2:変わる地球の今に触れる】
いま地球の平均気温は、氷期から間氷期の変化と比べても、急激な上昇が続いている。その状況を立体グラフで実感する。また、10の国や地域を対象に一人あたりや国ごとの二酸化炭素排出量の違いを理解できる展示や、今後排出量を大幅に削減できた場合とできなかった場合で、海面上昇がどのように変わるのかを体験できる展示を制作。これらの展示から、変わる地球の今と未来に触れていく。

【ゾーン3:くらしと地球を見つめる】
食卓の向こう側
食卓での親しい人たち同士の会話を通して、私たちが当たり前のように消費する食材や日用品が、生物多様性の損失やプラスチック汚染をはじめとした地球環境問題とどう関わっているのかを知ることができる。

くらしのしくみが見える窓
生産、輸送、加工、廃棄などの私たちの消費を支えるしくみについて大型映像を眺めながら俯瞰的に捉える。個人の生活で見える範囲だけでなく、くらしのしくみ全体を変えていく必要があることを理解する。

【ゾーン4:これからもこの地球でくらす】

「プラネタリー・クライシス」の展示空間

見てみよう みんなのアクション
人間活動が地球環境に及ぼしているさまざまな影響に対して、解決に取り組む活動を紹介。具体的な実践例を知り、私たちに今、何ができるのか、自らの考えを広げるきっかけを提供する。

聞かせて あなたのアイデア
他の来館者の投稿を見ながら、「二酸化炭素を出さないようにするには?」「プラごみをへらすには?」といった8つの問いから選択して、アイデアを自由に投稿することができる。自分だからこそできることを探してみてほしい。


サステナブルな展示づくりについて

「プラネタリー・クライシス -これからもこの地球でくらすために」は国産の木材を主な材料として、設計段階から地球環境に配慮したさまざまな工夫を行っている。


今回の展示のために設計されたユニット型の展示

展示で使用している展示棚は、主に2種類のシンプルなユニットの組み合わせでできている。本展示のために設計されたこのユニット型の什器は簡単に取り外すことができる設計で、本展示終了後に椅子やテーブルなど別の用途にも転用することができるようになっている。

木材資源を無駄なく使用するために、ユニット型の什器を製作する際にできた切れ端の板から、テーブルの脚、サイン看板、展示用ミニパネルなどを制作。また東京都で調達した、通常は利用されることが少ない枝分かれした木や枝、丸太なども活用し、持続可能な材料としての木材の可能性が理解できる空間デザインとなっている。


通常利用されることが少ない木材を使った机

ユニット什器は、デジタルデータをもとにしたものづくり技術「デジタルファブリケーション」を用い、材料調達から加工、組み立てなどのプロセスを最適化することで、輸送などで生じる環境への負荷をなるべく抑えている。木材は鳥取県で調達し、関西地域で加工し組み立て、未来館にて連結を行った。

総合監修者 武内和彦氏・江守正多氏 コメント

地球環境戦略研究機関(IGES)理事長 武内和彦氏

地球環境が危機を迎えていることは多くの人が知っていると思いますが、それが自分たちに起因していて、自分たちも解決の主体であることまで意識している人は少ないのではないでしょうか。危機意識とともに、自分たちにも何かできることがあるという希望も持ち、自分たち次第で新たな豊かさの創造にもつなげられると感じられる展示になるよう監修しました。過去や現在とともに未来について語ることができるのが未来館の強みです。ぜひ皆さんに足を運んでいただきたいと思います。


東京大学 未来ビジョン研究センター 教授/国立環境研究所 上級主席研究員 江守正多氏

人間の影響で温暖化が起きていることは疑う余地がなく、私たちは化石燃料に大きく依存する人類の文明をつくりかえないといけない、そういう時代にいます。多くの人はどうしようもないと思うかもしれません。しかし、あきらめないことが大事です。社会を大きく変えるために一人ひとりに何かできることがないか。そういう可能性に気づいてもらえる展示になるよう、スタッフの皆さんにお話ししてきました。実際に展示を体験し、いろいろな意見やアイデアを寄せていただきたいと思います。



「プラネタリー・クライシス」の見どころは日本科学未来館の展示ディレクターの櫛田康晴氏が解説した
設置エリア 5階 常設展示ゾーン「世界をさぐる」
総合監修 武内和彦氏(地球環境戦略研究機関(IGES)理事長)
江守正多氏(東京大学 未来ビジョン研究センター 教授/国立環境研究所 上級主席研究員)
設計・制作 株式会社つむら工芸、株式会社ピクス
[展示プランニング] 中原崇志氏、谷尾剛史氏、平等隆志氏
[空間ディレクション・設計/モジュール什器デザイン・製作] VUILD株式会社
[アートディレクション/サイン・グラフィックデザイン] TAKAIYAMA inc.
[ZONE1映像演出] 西郡勲氏
[ZONE1音響演出] 笠松広司氏
[ZONE3大型映像ディレクション・制作] groovisions 
[イラストレーション] 水越智三氏 ほか
協力 株式会社東京チェンソーズ、株式会社モノファクトリー、津田和俊氏(京都工芸繊維大学)ほか


新常設展示4「老いパーク」

「老いパーク」の展示空間

誰にでも訪れる「老い」について、身体に起こる変化やそれらを助ける技術など、科学技術の観点から注目した展示。多くの方が自覚しやすい目、耳、運動器、脳の老化現象を、6つの体験型展示で疑似的に実感していく。現在わかっている老化のメカニズムや対処法、研究開発中のサポート技術など老いとの付き合い方の対処法を紹介する。体験の最後に「老い」と向き合う方々の人生の捉え方などを知ることで、皆さん一人ひとりにとっての豊かな老いとの付き合い方や生き方のヒントを探る。

展示概要

【STEP1:「老いってなんだろう?」】
老化は自然な経年変化であり、誰にでも訪れる。一方で、老いに対する捉え方は、時代や個人によってもさまざまである。来館者が思う「老いの始まる年齢」をマッピングしたり、20年前と現代の高齢者の運動機能データを比較したりすることで、老いの捉え方にはばらつきがあり、年齢では定義できないものであることを実感していく。

【STEP2:「老いを体験しよう!」】
目、耳、運動器、脳の老化現象とそれに伴うくらしの変化を疑似的に体験するエリア。さらに、それぞれの器官に変化が生じるメカニズムや、現在取りうる対処法、研究開発中の対処法をパネルや実物展示などから知ることで、老化現象とどのように付き合いながらくらしていけるかを理解し、自身の老いを想像する。


「老いパーク」体験の様子

目の老化
・体験展示1:「老いパークガイド」
ぼやけている老いパークの展示ガイドを見ながら、手元が見えにくくなる老眼の見え方を体験する。

・体験展示2:「3つの○○なテレビゲーム」
白内障による変化(二重・三重に見える、まぶしく感じる、黄色みがかかる)を、それぞれ3種類のゲームで再現しました。視覚変化によってゲームが困難になることを体感する。

・現在の対処法では、老眼に対しては老眼鏡、白内障に対しては眼内レンズ手術などが一般的。文字を音へ変換する技術も利用できる。研究開発中の対処法として、見ているものの距離をセンサーで測定し、レンズの厚みを瞬時に変化させ、目のピント調節をサポートする眼鏡型アイウェアを紹介する。

耳の老化
・体験展示:「サトウの達人」
受付窓口で呼ばれる子音違いの名前の中から「サトウさん」のときに挙手ボタンを押すゲームです。耳が老化すると高音域から聞こえにくくなるため、高音域の子音(S、K、など)の聞き分けにくさを体験できる。

・現在の対処法では補聴器や人工内耳を利用する方法がある。また、音声を文字へ自動変換することで聴力の低下を補うツールも紹介する。研究開発中の対処法として、耳の機能を根本的に回復させるために、メカニズムの解明を目指す研究を紹介する。

運動器(身体の動きに関わる骨、関節、筋肉、神経などの総称)の老化
・体験展示:「スーパーへGO」
運動器の老化による移動能力の変化を体験します。近場のスーパーまで歩いて買い物に行く体験を再現したシミュレーター。運動器が老化すると、筋力の低下、姿勢の変化などから長距離を歩くことや、早く歩くことが難しくなる。

・現在の対処法では、身体の動きをサポートするデバイスや操作のしやすいモビリティが活用されている。研究開発中の対処法では、重心移動だけで簡単に操作できるパーソナルモビリティを紹介する。

脳の老化
・体験展示1:「おつかいマスターズ」
日常生活のなかでの「覚えにくさ」を体験。買い物リストに書かれた商品を記憶して、目の前にあるスーパーの陳列棚から探して正しく買うことができるか挑戦するゲーム。脳が老化すると、短期記憶、注意力、処理速度が低下しやすくなります。記憶の途中で注意力を邪魔されたりするとさらに覚えにくくなる。

・体験展示2:「笑って怒ってハイチーズ!」
プリントシール機で喜びと怒りの表情を撮影すると、自動的に怒りの表情が「読み取りにくい顔」に加工処理されて印刷される。老化により喜び以外の相手の表情が読み取りにくくなる傾向があることを客観視できる体験となっている。

・現在の対処法では、テクノロジーを活用したり日ごろのくらし方を工夫したりすることで、困りごとを少なくしていく。また環境が整った施設やサービスを利用することもできる。研究開発中の対処法として、介護施設で利用者に寄り添ったコミュニケーションを行う子ども型見守り介護ロボットを紹介する。

子ども型見守り介護ロボット 「HANAMOFLOR(ハナモフロル)」

体験エリアの先では、未来の「老い」の捉え方を変えるかもしれない研究や取り組みをインタビュー動画で紹介。抗老化に関する医学研究が進むと老化は治療できるものになる可能性もある。また、高齢者の社会へのかかわり方が変わると、文化的な側面や個々の健康にも変化があるかもしれない。「老い」に対してさまざまな方向からアプローチしている4名にインタビューを行い、研究や活動の内容、目指している未来像、研究の課題について紹介している。

【STEP3:「自分らしい老いって?」】
STEP2での疑似体験や対処法の理解をふまえて、「自身の望ましい老い」を考えるエリア。すでに老いを感じている方に「将来やりたいこと」を尋ねたインタビュー映像を見たり、来館者自身が70歳になったときにやりたいことに答えたりしながら、「老い」は誰の人生の延長線上にもあり、さまざまな選択があることに気づくきっかけを作る。

総合監修者 荒井秀典氏 コメント

国立長寿医療研究センター 理事長 荒井秀典氏

老いは、年を重ねれば誰にでも訪れます。老化を緩やかにするためには、睡眠、栄養、運動が重要です。しかし、個人差こそあれ老いは避けられません。老いることはすなわち生きることそのものだと思います。変化を受け入れ、上手に付き合っていくことも人生100年時代には必要かもしれません。今回、多くの方が変化を感じる目、耳、運動器、脳の4つの老化を総合的に取り上げる場ができたことは、健康長寿を研究する立場からすると画期的なことと思います。この展示を通して、老いとの付き合い方を想像しましょう。今の生活を振り返ることにもつながるかもしれませんね。



国立長寿医療研究センター 理事長 荒井秀典氏(右)、日本科学未来館 科学コミニケーターの園山由希江氏
設置エリア 3階 常設展示ゾーン「未来をつくる」
総合監修 荒井秀典氏(国立長寿医療研究センター 理事長)
監修 [視覚]稲冨勉氏(国立長寿医療研究センター眼科感覚器 センター長)
[聴覚]内田育恵氏(愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授)
[認知機能]櫻井孝氏 (国立長寿医療研究センター 研究所長)
協力 ソニーグループ株式会社、本田技研工業株式会社、伊藤ガビン氏、ほか
設計・制作 株式会社乃村工藝社、株式会社ワットエバー



つづく 「日本科学未来館の新展示「ハロー!ロボット」を見てきた!トヨタ「ケパラン」の由来と滑らかな動き、耐火性ソフトグリッパも必見

関連サイト
日本科学未来館

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ロボスタ編集部

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