未来館アクセシビリティラボ、視覚障害者をサポートする新コンテンツを制作 複合現実(MR技術)を活用した実証実験を実施

日本科学未来館が推進するコンソーシアム型研究室「未来館アクセシビリティラボ」は、空間の特定の位置にひもづけて音声情報を再生する複合現実(MR:Mixed Reality)技術を活用し、視覚に障害のある人の展示体験をサポートする新たなコンテンツを、株式会社乃村工藝社と共同で制作し、12月17日(日)に一般向け実証実験を実施することを発表した。

同ラボは、視覚障害者の未来の生活を支える技術の研究開発に外部機関と共同で取り組んでおり、今回のコンテンツは、株式会社GATARIの技術協力のもと乃村工藝社が制作する音響体験サービス「oto rea(オトリア)」を、初めて視覚障害者の展示体験サポートに活用。

11月22日(水)に公開した新常設展示「プラネタリー・クライシス –これからもこの地球でくらすために」の一部を対象とし、利用者は自身の位置や動作に応じてメガネ型オーディオデバイスから流れてくる音声に従って移動する。展示解説や体験方法などを聞きながら、大きな折れ線グラフの展示を触り近年の世界の平均気温の上昇を実感したり、大きさや重さが異なる木製のボールを比較しながら国や地域別の二酸化炭素排出量の違いを体感でき、展示テーマに沿って音響演出も行われる。参加者にはアンケートに協力してもらい、今後の開発に役立てる予定だ。



未来館アクセシビリティラボについて

未来館アクセシビリティラボは、外部の研究機関と共同で進めるコンソーシアム型研究室で、AIやロボット技術を応用して視覚障害者向けのアクセシビリティ技術を研究している。同館ではこれまで外部の研究プロジェクトが入居する研究エリアを併設するユニークな取り組みを行ってきたが、アクセシビリティラボは未来館が直接運用する初めての研究室だ。視覚障害者を自動で安全に誘導する「AIスーツケース」のほか、3Dプリンターなどを活用して触覚から科学的な情報を得る模型などを企画・制作し、視覚障害者のミュージアム体験を豊かにする研究開発などを推進している。

AIスーツケースで展示をめぐる館長浅川智恵子 氏

「触って」構造が理解できる未来館の3D模型

このラボに今秋、乃村工藝社と早稲田大学理工学術院が新たに参画。乃村工藝社は、長年にわたり博物館、美術館などの文化施設の制作施工の実績があるほか、障害者などに対応した展示デザインにも取り組んでいる。これらの知見を活かし、今回の新コンテンツの共同制作を皮切りに視覚障害者の自立した展示体験の実現に向けた取り組みを共同で進めていく予定だ。早稲田大学理工学術院とは、今後、大規模言語モデルを用い、ユーザーや周辺状況などに応じたより賢い音声案内に向けた技術開発や共同実証に取り組む予定となっている。

■【動画】Miraikan Accessibility Lab. すべての人が楽しめるミュージアムをめざして




今回の視覚障害者の展示体験をサポートする新コンテンツ

今回利用するMR技術はGATARIが開発した「Auris(オーリス)」というシステムで、VPS(Visual Positioning System)によって利用者が携帯するスマートフォンの画像から、その位置や向きなどを認識し、あらかじめ設定した音を再生することが可能。音声情報はセンチメートル単位の精度で配置でき、単なる音声ガイドを超えたパーソナライズな空間や体験の演出が可能なことが特徴だ。「oto rea」は、この「Auris」をプラットフォームに、乃村工藝社が制作・演出を行う音響体験サービスとなっている。

■【動画】Aurisの楽しみ方

同館は、同コンテンツを通して、視覚に障害のある人が自立して展示を観覧しながら、展示体験をより楽しむためのテクノロジーの可能性を探り、今後のアクセシビリティ向上の施策につなげることを目指すとしており、同館の館長である浅川智恵子 氏は、以下のように述べている。

日本科学未来館 館長 浅川智恵子 氏

展示の解説だけでなく、ユーザーの位置や動きにシンクロしながら展示体験のサポートや音響演出を提供することが本コンテンツの特徴です。音声MR技術を活用することで、視覚に障害のある方にとって新たなミュージアム体験の可能性が広がると期待しています


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ロボスタ編集部

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