ニコンがNVIDIA Jetsonを活用した家畜のライブモニタリングシステムを開発。牛の分娩の兆候をAIが検知しスマホアプリに通知

NVIDIAは、ニコンがNVIDIA Jetsonを活用した家畜のライブモニタリングシステム「NiLIMo」を開発し、ニコンソリューションズが発売を開始したことを発表した。「NVIDIA Jetson」は超小型のAIコンピュータボードで、GPUを搭載し、AI関連の処理機能をエッジデバイスに搭載することができる。

NiLIMoは分娩牛房内に設置されたカメラの映像からAIがリアルタイムで牛の分娩の兆候を察知し、従業員や獣医などのスマートフォン アプリに通知を直接配信する画期的なシステムとなっている。

映像を使った新規ビジネスの創出をはかるニコン

ニコンは近年、映像ソリューション推進室の中で、映像を使った新規ビジネス創出を目的とするプロジェクトを複数立ち上げており、NiLIMoはそこから生まれた新規事業のひとつ。「映像と映像解析を通じて、人の目では容易に見つけられない事象を検出し、可視化、通知する事で、顧客の課題解決に貢献する」という開発目標を掲げ、AIを活用した家畜のモニタリングというソリューションが考案された。

畜産農家は24時間365日、休みなく牛の世話をしているが、その中でも母牛の安全な分娩の介助には多大な労力が必要とされる。

母牛はおよそ1年に1頭しか子牛を産むことができないため、畜産農家にとって子牛を安全に産ませ、大切に育てることが重要となる。そのため、分娩予定日1か月前頃から分娩牛房に移動させ、分娩予定日10日前頃から、分娩兆候を示していないか注意して観察する。このような母牛のモニタリングは、昼夜を問わない定期的な見回りや状態の確認が中心であり、畜産農家の身体的負担、およびスタッフの確保が大きな課題となっている。

ニコンが今回開発したNiLIMoはこのような負担を軽減するほか、ニコンの画像解析技術とAI技術を生かしたソリューションのため、牛にセンサーなどを取り付ける必要がないため、機器の洗浄や調整、メンテナンスなどの作業が不要で、牛のストレスも抑制できるシステムとなっている。

NVIDIA Jetson Orin NXがNiLIMoの頭脳として牛の分娩予兆を検知

NiLIMoのソリューションにはカメラと小型のAI BOXが含まれる。

カメラは牛房内の牛を死角なくモニターできるように、1牛房につき標準で2台のカメラが設置され、カメラからの映像は牧場の事務所に設置されたAI BOXに入力される。このAI BOXにはクレジットカードサイズの、Jetsonシリーズの中で最小のフォームファクターながら最大100TOPSのAIパフォーマンスを実現する「NVIDIA Jetson Orin NXモジュール」が搭載されており、2Mpixel、30fpsで入力される映像をリアルタイムで解析、検知する。検知した結果はスマートフォンに通知され、その場でカメラの映像をストリーミングで視聴可能。牧場の従業員や獣医、オーナーなど、複数のデバイスで同時視聴することもできる。

Jetson上で実行される、ニコンが開発したAIモデルは、分娩前から見られる特徴的な牛の行動を検知することができる。分娩の予兆である運動量の変化や立ち座り回数の変化、尾上げから、分娩開始を意味する羊膜の出現、子牛の足の出現までを機械学習と行動軌跡の可視化、および機械学習内容の細分化によって検出することができる。検出範囲が分娩の予兆から開始までの一連の分娩過程全体をカバーできる点がNiLIMoの特長となっている。



ニコンはNVIDIAのプラットフォームとしてJetsonのほか、AIの学習環境にはGPU搭載のPCを活用。行動検出AIの学習においては、牛の行動を記録した動画を用いて各種特定行動の学習をさせた。学習量の増加に伴い、今後はクラウドベースのGPUの活用も検討している。また、NVIDIAが提供するソフトウェアとして、ディープラーニングの推論を高速化し、学習済みモデルを最適化させるSDK、「NVIDIA TensorRT」も活用している。

ニコン 映像ソリューション推進室のNiLIMo開発チーム・プロダクトマネジャーの篠田兼崇氏はNiLIMoにJetson Orin NXを採用した理由について次のようにコメントしている。

ニコン 篠田兼崇氏

NiLIMoの開発の早期段階では、GPU搭載PCの導入を検討していましたが、PCを牧場に設置する際には、PCの冷却系に埃が詰まるといった問題や、一定の処理能力を持つGPU搭載PCのコスト面での壁に直面しました。これらの課題を解決するため、Jetson Orin NXの採用に至りました。また、将来的には牛だけでなくさまざまな家畜のモニタリングにも展開可能と考えており、AIと画像解析技術を通じて畜産農家の負担軽減に貢献できればと思います。


ユーザーの声

NiLIMoは2023年頭より、国内の複数の牧場でテスト導入されており、すでにその利便性において高い評価を得ている。

開発に協力している九州の畜産農家の方々からは、「通知が来て見に行ったおかげで、羊膜を被ったまま生まれた子牛を助けることができたケースがあった。」「逆子を助けることができた。」「これまで母牛のモニタリングは監視カメラからの映像確認が中心だったが、頻繁にチェックする必要があるため、分娩予定時期の直前は夜も睡眠をとることができないのが常だった。NiLIMoはスマートフォンに通知がくるため、分娩予定時期でも睡眠をとることができるようになった。」「いい時間にアラームが出るので助かっている。おかげでいろいろな準備ができるようになった。」といった声が挙がっている。

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ロボスタ編集部

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