順天堂大学と富士フイルム AIを用いた脳容積解析ソフトウェアを開発 MRIでの容積解析の汎用化に期待

順天堂大学保健医療学部診療放射線学科の後藤政実 先任准教授、京極伸介 教授、代田浩之 特任教授、医学研究科放射線診断学の鎌形康司 先任准教授、神経学の波田野琢 先任准教授、服部信孝 教授ら、および富士フイルムメディカルシステム開発センターの湯澤拓矢 氏、後藤翼 氏らの共同研究グループは、認知症診断などにおいてニーズが高い「MRIによる脳容積解析」を簡便に実施できる技術を共同で開発した。

この成果は、人工知能を利用することで従来の手法と比較して処理時間を大幅に短縮し、脳区域を最大107区域まで抽出することができる。

この技術を使うことで、時間的・人的コストの観点から「MRIを用いた脳容積解析」を簡便に使える環境を提供することが可能となり、脳萎縮の評価のみならず、疾患の診断や脳年齢評価などに繋がる技術として、多様な活用が期待できる。

なお、この論文はMagnetic Resonance in Medical Sciences誌のオンライン版に2024年7月2日付で公開された。


AIを用いて簡便で短時間に脳容積を解析

脳の萎縮は、さまざまな脳疾患で生じることが知られており、その代表的なものにアルツハイマー型認知症があり、特定の部位の萎縮がみられることがわかっている。

認知症の診断においてMRI撮影を行うケースが増えているが、現在用いられている脳容積解析技術ではプログラミングに関する知識が必要であり、解析するために特別なソフトウェアを購入する必要もある。これらの問題を解決した汎用的なソフトウェアの開発も進んでいるが、解析可能な脳区域が限定的なことや、解析時間の問題が残っており、日常診療や医学研究の観点から、脳形態の多様な変化をより簡便に解析できる技術が望まれている。この研究では、AIを用いることで簡便・短時間に脳容積解析を可能とすることを目指した。


内容

この研究では、脳のMRI画像から、脳を107区域に領域分けしたアトラス(脳の3Dマップ)を作成。このアトラスは、Github上にアトラス名”JTD-Boggle-107”として公開しており、自由に研究開発に利用できる。

このアトラスを基に、脳を107区域に細分化して各領域の容積を算出できるAI技術を開発した。

また、その信頼性について、11人の健常人を3種類のMRI装置で2回ずつ撮影し、精度(同一の脳を同じ撮影装置で測定したときの測定値のバラつき具合)と再現性(同一の脳を異なる撮影装置で測定したときの測定値のバラつき具合)を従来法(例えば、Statistical Parametric MappingやFreeSurfer)と比較して評価。その結果、従来法よりも、精度・再現性が優れていることが証明された。さらに、この手法は従来法に比較し、測定結果を得るまでのコスト(時間的、人的)を大幅に削減しており、「MRIを用いた脳容積解析」が簡便に実施できるようになることが期待できる。


今後の展開

この研究で開発した解析法における解析結果の画面 

認知機能低下に関連した疾患の治療効果判定や、脳年齢評価による予防医学への応用研究などを通じて、この技術の有用性を検証しながら、健康維持に貢献する情報提供環境の構築を推進していく。

解析に使用した個人のMRI画像上に、各区域をカラー表示で重ねた画像を画面左側に表示している。また、各区域の解析結果(容積値)を画面右側に表示しており、左画面のカラー表示を症例に応じて見やすく編集することも可能としている。

研究者のコメント

人の脳は、脳の領域ごとに役目(機能)があるとされており、その領域の大きさ(容積)と機能レベルには強い関連があるとされています。つまり、脳の容積を詳細に解析することで、その人の能力をある程度推察できる可能性があるということです。この脳容積解析に必要な画像データ(主にMRI)は世の中に多く存在していますが、これまで解析に用いられた画像は限られています。我々が開発したAI技術により、多くの画像を解析することで、疾患の鑑別や予防医学における新たな知見を生み出すことが可能になると期待しています。


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ロボスタ編集部

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