NVIDIAがGPUに関するイベント「NVIDIA AI Summit Japan」を2024年11月12日と13日に開催した (招待制)。13日には基調講演としてNVIDIAの創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏が登壇し、後半にはソフトバンクの孫 正義 氏との対談が行なわれた。
基調講演ではトピックとしてまず、最新のGPU「NVIDIA Blackwell」(ブラックウェル)を改めて紹介、Blackwellスーパーチップを搭載した「GB200」、それを物理的に繋げる「NVLink」などが紹介展示されていた。
生成AIの登場により、テキスト、画像、音声、動画などマルチモーダルなデータを迅速に処理するパワーが重要になり、AIの学習や演算、モデルが大規模になっていて、GPUは常により高い演算処理能力が求められる、と語った。
「Blackwell」を使った次世代Jetson「Jetson Thor」は、2025年前半にリリースが予定されている。それに伴い、ヒューマノイド開発を支援する「GR00T」(ジーアールゼロゼロティー:通称グルート)も発表されていて、今回の基調講演で「GR00T」は、「GR00T-Mimic」「GR00T-Gen」「GR00T-Control」の3つで構成されることがわかった(詳細は別記事で解説予定)。
このイベントでは、トヨタや安川電機、セブン&アイなど、NVIDIAが提供するシステムを採用している事例を紹介すると共に、ファン氏は日本メーカーが世界の産業用ロボットのシェアで50%を占めていること、一方でAIの頭脳を持つことで更に多くの用途に活用できるようになること、そしてなにより、フアン氏はビジネスを始めて、今に至るまで(苦労もあった)、支えてくれた日本の企業や市場に感謝していることを表明し、その思いを込めた動画を紹介した。
■ NVIDIA — Our Journey with Japan
なお余談だが、フアン氏はラーメン好き(特にじゃんがらラーメン)で知られている。
「AIエージェント」と「フィジカルAI」
フアン氏は、生成AIの登場で「AIエージェント」と「フィジカルAI」が進化していると語る。
AIエージェント
「AIエージェント」のひとつの例は、ChatGPTのように人と応対するAIで、質問に回答したり、商品を紹介したり、観光案内などのユースケースで使われ始めている。このイベントの展示ブースでもいくつかのAIエージェントが紹介されていた。
NVIDIAは生成AIを活用したAIエージェントの開発を支援するフレームワーク「NVIDIA NeMo」や、インタラクティブアバターを作成するためのリファレンスデザイン「ACE」を提供していて、対話型AIフレームワークの「Jarvis」、NVIDIAオリジナルのキャラクター「James」を以前から公表している。
■Transform Your Business With Agentic AI
フィジカルAI
「フィジカルAI」は物理的な存在を伴うもので代表例はロボット。フアン氏は日本のパートナーとして、トヨタ自動車や安川電機、川崎重工などをあげた。
CEOだけでなく、最近のNVIDIAのメンバー達が多く口にするフレーズが「3つのコンピュータが必要」だ。「フィジカルAI」の開発を支援する3つのコンピュータとは・・。
3つのコンピュータの意味
フィジカルAI、例えばロボットを開発する際に必要な3つのコンビュータとは、「AIを学習(トレーニング)するためのコンピュータ」「AIモデルを動かしてみるデジタルツインのシミュレーション環境(NVIDIA OmniverseやIsaac)」そしてロボット側に組み込んでAIモデルを実行したり、ある程度の自律的な判断を行うことができる「エッジAIコンピュータ」。
トヨタはこの3つのコンピュータを導入
トヨタはこの3つのコンピュータを導入して、産業用ロボットの開発とデプロイを実際に行っていることが紹介された。
NVIDIAはデジタルツイン「Omniverse」、その上で動作するロボティクス向けシミュレータ「Isaac-Sim」や「Isaac-ROS」、画像認識や画像解析などビジョンAIの開発を支援する「Metropolis」などを提供している。
安川電機「MOTOMAN NEXT」は「NVIDIA Isaac Manipulator」を活用
60万台以上のロボットを出荷し、自動車業界向け産業用ロボット、協働ロボット、双腕ロボットなど、約200種類のロボットモデルを提供する世界有数のロボットメーカーの安川電機を紹介。タスクへの適応性、汎用性、柔軟性の向上を目指して開発している自律ロボット「MOTOMAN NEXT」は、NVIDIA アクセラレーション・ライブラリーとAIモデルのリファレンス・ワークフロー「NVIDIA Isaac Manipulator」を活用している。
安川電機は「FoundationPose」を使用して正確な6D姿勢推定と追跡を行っているという。これらのAIモデルは、安川電機のロボットアームの適応性と効率性を高め、モーションコントロールが正確な「Sim2Real」を実現、多くの業界で複雑なタスクを多用途で効果的に実行できる
セブン&アイHDはデジタルツインOmniverseとビジョンAIのMetropolisを活用
セブン&アイ・ホールディングスは、AIのトレーニングや概念の実証を行うために、小規模店舗を模した研究施設を本社内に設けているという。店舗での顧客行動を理解するためのトレーニング用シミュレーションを実践するのが目的。
セブン&アイHDは、店舗での消費者行動をより深く理解するため、NVIDIAの「Omniverse」と「Metropolis」を活用した研究活動を推進している。「Metropolis SDK」を使用し、姿勢推定モデルで顧客の行動を解析、顧客が店舗に入って棚から商品を手に取る際の行動を理解する。この環境のデジタルツインは、「Blender」のアセットや 「SideFX Houdini」のアニメーションとともに、「Omniverse」ベースのアプリケーションで開発されているという。
会場のセブン&アイHDブースでは、来店客が食材を手に取ると、ビジョンAIが属性(年齢や性別)、手にした食材を解析して、それらを加味した上でオススメのワインをお酒の商品棚の上に設置されたサイネージに表示する、というデモを公開していた。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。