QBITと森トラストがロボットアームと複数の自動搬送ロボットで「館内の配送・集荷業務の自動化」実証実験 エレベータや自動ドアと連携

ロボティクス・サービス・プロバイダーのQBIT Roboticsは、複数メーカーの自動搬送ロボットとロボットアームをクラウドで統合して制御できるクラウド・プラットフォームを開発、それをもとに「館内配送集荷サービス」をシステム化し、6月2日より森トラストと共同で実証実験を行うことを発表した。

自動運搬ロボット「Relay」。SLAMで動作し、エレベータの連携、セキュリティロックの自動ドア連携、ロボットアームとの連携機能も備え、今回の3機種のロボットの中では最も汎用的に活躍できる

また、今回の実証実験では更なる自動化を進めるため、小型の荷物は専用の荷物箱に入れて棚に載せておくだけで、ロボットアーム「UR5e」と「relay」が連携して、自動的に自動搬送ロボットへ積み込まれて各テナントやオフィスに配送を行うシステムも試される。

荷物を自動的にロボットアームが自動搬送ロボットに積み込むところ。テナントビルでここまで自動化したケースは珍しい

このサービスは大規模オフィスビル向けで、実証実験は森トラストと共同で「城山トラストタワー」で実施する。この実証実験では、西濃運輸と佐川急便に加え、このビルに入っている複数のテナント会社の協力で、実際の配送荷物を使って行われる。


具体的には3台の異なる自動搬送ロボットを使って宅配物を各テナントやオフィスに配送、及び各テナントやオフィスから宅配物を集荷に回る。また、小型の荷物に関しては、配送業者は箱に入れて棚に置くだけでロボットアームが自動搬送ロボットにセットする作業の実験も行う。

今回の実証実験の報道関係者向けに説明、デモをしてくれた株式会社QBIT Robotics 常務執行役員 CTOの広屋 修一さん(左)と、森トラスト株式会社 社長室戦略本部の佐野 盛僚さん、森トラスト・ビルマネジメント株式会社 事業統括推進部の前田 渓さん




多種類のロボットを同時に制御できるプラットフォームを開発

今回のポイントのひとつは自動搬送ロボット。荷物の大きさと行き先によって3種類の適切なロボットを使い分ける。今回の実証実験で使用するロボットは、エレベータ連携機能を持った小型荷物用の自動搬送ロボット「Relay」、自動ドア連携機能の中型荷物用の「PuduBot」と「Peanut」の3種類。

エレベータ連携機能を持った小型荷物用の自動搬送ロボット「Relay」。SLAMによりスムーズな自律走行に対応

自動ドア連携機能の中型荷物用の自動搬送ロボット「PuduBot」。天井に貼ったマーカーで自律走行を行う。エレベータ連携にはまだ対応していないので、1階のテナントに配送・集荷を行う

自動ドア連携機能の中型荷物用の自動搬送ロボット「Peanut」。天井に貼ったマーカーで自律走行を行う。エレベータ連携にはまだ対応していないので、1階のテナントに配送・集荷を行う




館内の配送業務と集荷を自動化

今回のシステム導入(実証実験)の目的は、館内の配送業務と集荷業務を自動化すること。現在は、宅配事業者が1階の駐車場にトラック等を停めて、台車等が館内のテナントやオフィスに配送している。「荷受け用の駐車場が混雑したり、配送事業者の配達の負担、セキュリティの課題などがある」と森トラストの担当者は語る。そのため、同社が所有・管理する一部のビルでは、荷受け専用のスペースを設けて、宅配業者からの荷物は一時的にそこで受けて、別の専門のスタッフが館内のテナントやオフィスに配送することで効率化を図っている施設もあるという。将来的には自動化を行いたいとして、ロボットの活用に期待を寄せる。

荷受けした荷物を自動搬送ロボットに積み込むスタッフ。この後、指定したテナントやオフィスに向けて自律走行で配送をはじめる

中型荷物用の自動搬送ロボット「PuduBot」が指定されたテナントから荷物を集荷しているところ




コロナ禍で館内の配送・集荷サービスに自動化を求める声

また、コロナ禍にあって、感染リスクを低減するために「非対面・非接触」のニーズが高まっている。館内の配送・集荷サービスも同様で、ロボットによる自動化が期待されているという。また、物流現場での人手不足は今後もさらに深刻化することが予想され、アフターコロナ時代でも、都心部では大規模なオフィスビルで、自動化ニーズが高まっていくと予想されている。地方においても大規模な商業施設では同様だ。


自動搬送ロボットの低価格化は加速しており、レストランやホテルなどのサービス業では 100~200万円台の安価な自動搬送ロボットが導入され始め、現在は店舗あたり数台以下のロボットを特定のスタッフがロボット組込みの専用アプリを使い直接指示しているという。その一方で、今後のさらなる低価格化が進み、大規模施設内で異種多数台のロボットを使う方向で自動化が加速する可能性があり、それに併せて、全体を管理するシステムが必要となる。

この研究開発および実証実験は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス技術開発事業」の補助を受けて行われるもの。

■館内の配送業務をロボットで自動化(ロボットアームと自動搬送ロボットの連携)




実証実験の概要

-期間:2021年6月2日~7月2日
-場所:城山トラストタワー(東京都港区虎ノ門 4-3-1)


ロボットの構成と技術

「図1. 城山トラストタワーでの実証実験の全体像」参照
■3メーカーの自動搬送ロボット(他メーカー製ロボットの組込みも容易)
Savioke 社「Relay」:エレベータ連携、自動ドア連携、小型荷物搬送
Pudu Robotics 社 「PuduBot」:自動ドア連携、中型荷物搬送
Keenon Robotics 社「Peanut」:自動ドア連携、中型荷物搬送
■ロボットアーム登載荷物棚
Universal Robots 社「UR5e」+ Vision System を利用して独自開発
自動搬送ロボットの停止位置ズレに対しても荷物の積込み/荷下ろし可
■自動ドア/自動搬送ロボット連携
ビットキー社制御装置とクラウドにて連携
■タブレット上の利用者アプリ
物流事業者用、テナント用、館内スタッフ用、ロボット登載用
■クラウド上の全体統合管理ソフトウェア
ロボット、ビル施設、利用者アプリの全体を統合管理

図1. 城山トラストタワーでの実証実験の全体像


館内配送集荷サービスの運用フロー

「図 2. ロボットによる館内配送集荷サービスの運用フロー」参照
■ロボットを効果的に利用できる運用フローを独自に考案
■物流事業者の館内滞留時間を最少化
■テナントでの荷物受け渡しのセルフ運用化と、伝票に代わる利用者アプリ間での情報伝達により、配送集荷状況が施設外の物流事業者・テナントからもリアルタイムで把握可能
■ロボット相手なので、気兼ねなく 30 分刻みで何度でも集荷依頼可能
■物流事業者は、集荷状況を施設外から確認した上で、まとめて集荷可能

図2. ロボットによる館内配送集荷サービスの運用フロー




QBIT ロボットサービス開発基盤から新サービスを短期間に開発

QBITは、実証実験開始に向けて、ロボット化館内配送集荷モデルに基づく業種パッケージとして、最適ロボット配車機能や配送集荷スケジューラを持つ「館内配送集荷基盤」を開発した。ビルの施設構成や、利用するロボット、配送集荷ポリシーの組合せに対して、短期間で館内配送集荷サービスを実現することができるシステム。

また、様々な業種サービスやロボット種別に対して共通的なクラウド・ロボット・アプリケーション基盤(ロボット共通の位置管理やロボットの群制御)を開発することで、ロボットを活用した様々な業種パッケージを比較的簡単に開発できるようになったという。
QBITは、ロボット依存部を局所化することでロボットサービス用プログラムの移植性を高め、ロボットアームと自動搬送ロボットなど、異種のロボット間でも連動を容易にするエッジ・ロボット制御基盤を開発、今回、これがクラウド・ロボット・アプリケーション基盤と連動することで、様々なロボット活用アプリケーションを組み合わせたり、短期間で開発できるようになった(下図の「図3. QBIT ロボットサービス開発基盤の構成」参照)。

図3. QBIT ロボットサービス開発基盤の構成


今後のビジネス展開

今回の実証実験の結果を踏まえて館内配送集荷サービスの完成度を高め、自動搬送ロボットとロボットアームを用いた館内配送集荷サービスを事業化、今年後半からのサービス提供開始を目指す。オフィス延床面積10万平米以上の国内大規模オフィスビル(約1600棟)と、敷地面積3万平米以上の国内大規模ショッピングセンター(約400カ所)を当面のターゲットとして販売する。
また、今回開発したロボット化館内配送集荷モデルの他に、オフィス設備の自動貸出/回収やオフィスビル内での自動巡回販売を行うオフィスビルの継続的な付加価値向上を行うロボット活用モデルも開発しており、不動産業界・建築業界に向けても販売を開始していく意向だ。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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