株式会社アールティは一般社団法人日本惣菜協会が主導する経済産業省(経産省)の「令和3年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に参画し、惣菜企業3社へ人型協働ロボット「Foodly」(フードリー)を導入し、ロボットフレンドリーな食品工場の運用を検討してきた。同社は2022年3月より弁当、レトルト惣菜における実生産ラインでFoodlyの稼働を開始したことを発表した。
アールティは、経産省が主催した報道関係者向け発表会に「Foodly」を展示してデモを公開、唐揚げを盛り付ける作業を公開した。
「Foodly」はイチビキ、ヒライ、藤本食品の3社で、実証実験ではなく実践導入に至っている。写真では人のラインに混ざって「Foodly」が働く姿は見られる。
■動画
「ロボフレ弁当」をヒライ実店舗で販売予定
株式会社ヒライ、藤本食品株式会社はヒライ熊本工場と藤本食品岐阜工場の盛り付けラインにFoodlyを2台ずつ試験導入した。弁当や惣菜パックの盛り付け作業をFoodlyが行い、盛り付け作業をしやすくするための容器、食材の調理方法、オペレーション、番重をはじめとする工場内の機材配置など、多岐にわたってテストを繰り返した。
製造現場の作業員がFoodlyの動きを間近に体験することで、ユーザー側が「ロボットと一緒に働く」目線を新たに獲得し、導線の見直しや、メニュー開発などの商品企画の面でもロボットフレンドリーを前提としたノウハウを得ることができた。例えばヒライでは熊本名物のおかず「ちくわサラダ」について、従来の形状からFoodlyが掴みやすいように変更し、それに伴って調理方法も一部変更した。そのようなロボットのための工夫を施した弁当を「ロボフレ弁当」と名づけ、来年度以降ヒライ実店舗での販売を予定している。
レトルト惣菜の製造にFoodlyを導入
イチビキ株式会社ではイチビキ第2工場で製造するレトルト惣菜「赤から具だくさんのつくねと白菜のスープ」の加工ラインにFoodly2台を試験導入した。Foodlyの惣菜加工工程への導入はイチビキが初の事例になる。つくね具材を掴み、缶投入機によって流れる筒状のカップに投入する作業を行った。
Foodly導入にあたってはメニューや具材の選定から始め、番重のサイズの変更や、後工程の機械の動作速度の調整など様々なテストを重ねた。専用トングの開発や、従来より深さのある容器を認識できるようプログラムするなど、Foodlyのカスタマイズも都度実施した。2022年3月には実際に出荷する製品の加工ラインにも携わるようになり、約3000食を出荷した。今後は人手不足の解消、生産性の向上、安定した商品供給の実現などロボット導入によるさらなる効果が出せるよう取り組んでいく。
人型協働ロボット「Foodly」について
食品業界のニーズに応える形で2016年頃より技術開発を始め、2018年10月にプロトタイプを発表。その後FOOMA2019(国際食品工業展)で「ばら積みの食材をひとつひとつ認識してピッキングし、ベルトコンベアのラインで人の隣に並んで働くことができる世界初のロボット」として初出展した。2020年に「標準構成モデル」を発売し食品メーカーの工場で試験導入を始めたほか、2021年には海苔巻きロボットと連携してセル生産方式で海苔巻きを製造する「スズモコラボモデル」、2022年には組合せはかりと連携した自動計量供給システム「TSD-N3×Foodly」を発表するなど、活用の幅を広げるための研究開発も進めている。また、Foodlyは「令和2年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」にアールティが参画した際も研究開発に使用された。
各社との検討で得られた成果と課題
「令和3年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」はロボット・AI導入を促進する環境(ロボットフレンドリーな環境)の構築を実現するための研究開発事業として、経産省が推奨しているプロジェクト。食品製造分野では日本惣菜協会が中心となり、それぞれの課題についてチームアップした15社の参画企業と共に研究開発に取り組み、アールティは主に既存ロボットの試験導入によるロボットフレンドリーな環境、運用方法の検討を担当した。
事業の中でアールティは既に食品工場への導入実績もあるFoodlyを使って、惣菜企業3社と共にロボットフレンドリーな環境、運用方法を検討するという切り口で参画してきた。Foodlyは人ひとりで簡単に移動できるほどのコンパクトさや足場、電源、照明などの工事が不要で既存環境への導入がしやすいというコンセプトで作られているため、各工場にスムーズに搬入することができ、現地でのテストや検討を早期に始めることができた。その結果、昨年10月からの短期間で、3社それぞれの多様なノウハウや、ロボット導入への課題を共有することができた。集めたデータは今後の開発だけでなく、食品業界におけるロボット導入のひとつの指標として役立てていく。
なお、生産ラインでの稼働において、Foodlyのピッキング精度はまだ100%に達していない。今回の取り組みでは食材が投入できなかった容器を計量器で判定して外すなど、現場の運用でカバーするという工夫で本稼働に至り、ロボットフレンドリーな運用の考案が多く行えた。今後はピッキング精度向上を目指すことはもちろん、人の作業においても100%の精度を保つことは難しいので、それらをカバーできる運用方法も含めて研究を続けていくという。
また、まだ自動化が進んでいない現場では人があらゆる作業を担当することを前提に設備が配置されており、ロボットを導入するとなると様々な見直しの必要が生じる。ロボットフレンドリーな環境構築に取り組むプロジェクトとして惣菜企業3社には設備の配置替えや人の動きのシミュレーションなど、様々な観点から時間をかけて取り組んだが、ロボット導入を検討する食品工場の中ではそれらにハードルを高く感じるところも多く、将来的にすべての現場に導入したいとなると、とくに複数の工場を持つ企業であるほど設備の入れ替えや人材教育などのコストも高くなる。苦渋な作業の代替や生産性の向上、人手不足対策のために自動化を進めたいが、現場レベルではなかなか動き出せないというジレンマが、導入を検討する側の課題となっている。
Foodlyは人間の盛り付け作業の代替だけでなく、今までに海苔巻きロボットと連携したセル生産や組合せはかりと連携した自動計量システムなど、人が使っている既存の設備との組み合わせも実現している。食品工場が将来の全自動化を目指していくまでの過渡期において、既存設備を使って省人化を進める際に、Foodlyのようなコンセプトのロボットに活躍の場があると感じている。アールティは今後もFoodlyを始め、ロボットとAIのソリューションで既存施設を活かした省人化に取り組んでいく。
今後の展望
ロボットフレンドリーな食品工場をつくるためには、現場のことをよく知った上でロボットやシステムを開発するだけでなく、現場側もロボットを知り受け入れる意識を持つなど、お互いに歩み寄ることが必要。アールティは同事業を通じて惣菜企業3社との検討の機会を得られたことで、ロボットフレンドリーな食品工場づくりのスタートラインに立つことができた。まだこれから多くの検討が必要であり、アールティは同事業の成果を一つの指標として今後もロボットフレンドリーな環境、運用方法を追求していく。また食品業界全体が取り組んでいけるよう、ロボットフレンドリーという概念の普及に力を入れていく。
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