オンラインショッピングなどECサイトの取扱件数が激増し、宅配業務が急激に増加、限界に近付いているとされている。2024年問題などもあり、宅配業務の改革は急を要する課題となっている。そこで期待されているのが「ロボットやドローンによる物流の無人化・省人化」だ。その分野に積極的に取り組んでいる企業のひとつが楽天だ。
そこで、配送ロボットの事業化の現在位置、課題、展望、改正道路交通法によって変わった点などを楽天の牛嶋氏に聞いた。
楽天が配送ロボットに取り組む理由
編集部
まず、御社は早期から自動配送ロボットの実証実験(PoC)に積極的に取り組んできましたが、その理由を教えてください。
牛嶋氏
現在、実用化している自動配送ロボットは電動車椅子と同程度の大きさで、歩行者くらいの速度で自動走行して、商品をお客様に届けます。センサーやカメラなど最新技術を使って周囲を確認しながらゆっくり走行するのでとても安全なモビリティになっています。
当社が目指しているのは楽天市場をはじめとしたECサイトの配送業務で「ラストワンマイル」をこの配送ロボットが担うスキームです。すなわち、フルフィルメントセンター(物流センター)から各地域まではトラック等で輸送し、地域の中での配送センターから戸建ての玄関先や集合住宅のエントランスまではロボット配送に任せるというサービス体系を構築したいと考えています。地域内の飲食店や小売店からのデリバリーサービスにも活用します。
楽天として初めておこなった一般利用者向けロボット配送サービスの実証実験が2019年9~10月の「横須賀市うみかぜ公園での配送サービス」です。これはうみかぜ公園でBBQなどを楽しんでいる人たちからスマホアプリを使って商品のオーダーをもらい、指定の時間と場所に配送ロボットが西友の飲食料品などのBBQに必要なものを届けるというものでした。
編集部
あれは商用配達サービスの先がけとなるものでしたね。ロボスタでも記事として取り上げました。あの後はどのような活動をおこなってきたのでしょうか
牛嶋氏
その後、2020年8月から9月にかけて、東急リゾートタウン蓼科のグランピング施設で、楽天の専用アプリで注文を受けて、BBQの食材、デザート、朝食等をキッチンからヴィラの宿泊者の方へ自動配送ロボットで配送しました。
それから、2021年7月~8月には、本田技術研究所が開発した自動配送機能を備えた車台に、楽天が開発した商品配送用ボックスを搭載した「自動配送ロボット」が一部公道を含む筑波大学構内を走行する実証実験をおこないました。この時は、楽天モバイルの通信回線を用いて、遠隔監視を実施しました。
編集部
当時は一般公道をロボットが自律走行することは難しかったですね。
牛嶋氏
はい。そのため、公園・施設内・大学など私有地での実証実験を通じて、知見やテストを積み重ねてきました。
ロボット配送サービスはPoCを経て既に実用化
編集部
現在もまだ実証実験の段階ですか?
牛嶋氏
いまは公道も走れるようになり、道路交通法も一部改正され、実際に業務として配送ロボットを実用化し、日々の運用を始めています。人口増加率が全国トップとなったつくば市のつくば駅周辺で、2022年11月から年末年始等を除く日の、日中や夜間、雨天時においても、飲食店の商品をデリバリーするサービスを実用化しています。
編集部
現在は何店舗のフードデリバリーをおこなっていますか?
牛嶋氏
2023年8月時点で、飲食店と小売店を中心に7店舗で展開しています。具体的には、ホテル日航つくば内の「つくば山水亭(日本料理)」「レストランセリーナ(西洋料理)」「中国料理 桃李(中華料理)」と、他に「Spanish Bar BONITO(スペイン料理)」「モッツバー高の家 つくば本店(居酒屋)」「Beer & Cafe Engi(カフェ)」、更にロボット配送専用ストア(いわゆるダークストア)にて楽天ファームの冷凍野菜・果物、ナッツ 等や飲料水、炭酸水、アイスなどを配送しています。
駅周辺の飲食店から「当店もやりたい」という要望も頂いていますので、今後は順次店舗数を増やしていく予定です。
編集部
これは実証実験(PoC)ではなく実用化と捉えてよいのですか
牛嶋氏
私達は実証実験ではなく実用のサービスとして、期間を区切らず定常的に、日々お客様からご注文いただく商品の配送をロボットでおこなっています。今後も店舗を増やし、扱う商品も増やし、配送エリアも拡大することでサービスを改善し発展させていきます。更にはロボットのオペレーションの効率化も必要ですね。
私達はつくばにおいてまず、ロボット配送サービスの将来の形とモデルケースを確立したいと思っています。そしてこのつくばモデルを他の地域にも展開していくというステップを考えています。
オーダーから配送ロボットの到着、商品の受け取りまで
編集部
オーダーはスマホアプリでおこなうのですか
牛嶋氏
はい。元々は、ドローン配送向けに開発したシステムだったものを改良し、ロボット配送専用の注文サイトを開発して運用しています。 WEBアプリですので、QRコードを読み取って注文サイトにアクセスすることもできます。
店舗と商品を選択し、配送時間と配送場所を指定し、楽天ペイ(オンライン決済)で支払うしくみです。戸建てであれば玄関先まで、マンションであればエントランスの前まで、指定された配送場所に配送します。
牛嶋氏
ロボットの配送中はお客様のアプリ画面でロボットの現在位置を確認することができます。ロボットが配送地点に近づくとアプリに通知され、到着すると自動音声の電話がかかってきてお呼び出しするというしくみです。迅速に受け渡しをおこなうための工夫として、予め通知して準備しておいてもらい、到着のお知らせですぐに受け取っていただくしくみをとっています。
お客様は、通知された暗証番号の入力をして、ロボットのロッカー(荷室)の扉を開けて、商品を受け取ります。私達はロボットメーカーではないのでロボット自体は他社が開発していますが、ロッカーは楽天が自社で開発しています。お客様が使いやすいUIや付加価値を提供するのにはロッカーが重要だと考え、ロッカーの作りにもこだわっています。
編集部
どんな種類の飲食物が人気ですか?
牛嶋氏
もつ鍋のような温かいものから、アイスクリームのような冷たいモノまで幅広くご利用頂いています。アイスクリームの場合は、ロボット配送専用に保冷ボックスを作り、保冷剤を入れて配送するので、スーパーからご自身で暑い中をお持ち帰りされるよりも、冷たい状態で届くと好評です。
編集部
配送の範囲はどれくらいの広さをカバーしていますか?
牛嶋氏
現在はつくば駅近くにある配送拠点より1~1.5kmの範囲内です。
編集部
稼働率はどれくらいでしょうか。
牛嶋氏
稼働率は公開していないのですが、現在、2台のロボットで運用しています。2台のロボットですと1日にそれぞれが約11配送することができます。合計22配送が全て注文で埋まる日もあります。
編集部
配送料はいくらで、お店と顧客とどちらが負担しますか?
牛嶋氏
配送料は無料(0円)で実施しています。将来的には配送料をいただく予定ではいますが、サービスが定着するまでは、できるだけ多くの人に利用してもらうことが重要だと考えています。サービスの利便性を向上してから、配送料を頂く検討をしたいと思っています。
編集部
今までどのようなトラブルがありましたか?
牛嶋氏
トラブルはほとんどありません。
改正道路交通法はどう変わったのか? 自動配送ロボットにどんな影響が
編集部
今年の4月に改正道路交通法が施行され、自動配送ロボットの公道での活用にも大きく影響することが予想されていますね。自動配送ロボットの運用はどのように変化し、利用がしやすくなったのでしょうか。
牛嶋氏
要点だけを簡単に述べますと、従来は自動配送ロボットが公道を走行するためには、基準緩和認定と道路使用許可を取得する必要があり、また、ロボットの近くを人が同行し、1人の監視者が1台を監視していました。
改正道路交通法では「遠隔操作型小型車」と分類され、歩行者相当のルールに従って、歩道、路側帯、道路の右側端を通行できるようになります。もちろん、歩行者には進路を譲らなければいけません。また、非常停止装置を備え、機体に届出番号を表示し、標識を付けるなどがルールとして盛り込まれています。
編集部
全体としては大きな変更と緩和ですね。
牛嶋氏
はい。大きな変更点としては公道走行をする際に、基準緩和認定と道路使用許可の取得が必要だったのが、都道府県公安委員会への届出制になりました。また、人が同行しない運行も認められています。ロボットの遠隔監視が必要ですが、1人の監視者が複数台を監視することも可能です。これらの規制緩和や運用だけでも、利便性やコスト面で実用環境に大きく前進したと思います。
一方で、ロボットの使用者、走行させる場所、遠隔監視する場所、団体による審査合格証 等の機体の構造及び性能を示す書面などを提出する必要があり、このうち特に団体による審査が重要です。現在この審査は「ロボットデリバリー協会」が行っており、発足時から楽天も参画しております。
編集部
なるほど。「ロボットデリバリー協会」が国に代わって審査をして、合格証を交付したロボットであれば、先ほどの条件で公道を走れることになるのですね。
牛嶋氏
はい。「ロボットデリバリー協会」は当初8社で発足しまして、2023年8月時点で参画企業は30社に増えています。
編集部
今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
配送ロボットの社会実装を目指す「ロボットデリバリー協会」 川崎重工業、ZMP、日本郵便、パナソニックら8社が発足
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2,000点以上の商品を自動配送ロボットが配達 西友×楽天×パナソニック×つくば市 つくば駅周辺の約1,000世帯が利用可能
自動配送ニーズは「園芸用の土」や「焼きたてパン」にあり NEDO自動配送ロボ シンポジウムレポート(森山和道)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。