NTT・ドコモ・NEC、複数のユーザーが移動しても大容量の無線伝送を維持する40GHz帯の分散MIMO実証実験に成功

NTT、ドコモ、NECの3社は、複数の基地局アンテナを分散配置する40GHz帯分散MIMOにおいて、複数の無線端末が同時に同一周波数チャネルで無線伝送する(「マルチユーザ伝送」)場合、各分散アンテナで形成されるアナログビームフォーミングの干渉抑制効果を最大限活用するマルチユーザ伝送技術により、移動する場合でも、静止時と同じ無線伝送容量を実現する実証実験に成功した。

これにより、イベント会場や工場などで、XR(Cross Reality)端末や無人搬送車など多数の無線端末が集まる環境においても、40GHz帯分散MIMOの活用により安定した大容量無線伝送が実現できる可能性を示した。

本技術については2023年11月14日~17日に開催予定の「NTT R&Dフォーラム2023 -IOWN ACCELERATION」でも紹介される。


高周波数のミリ波帯やサブテラヘルツ帯を移動通信で活用

5G Evolution & 6Gでは、サイバー空間とフィジカル空間が融合した世界での映像・センシング情報の収集や、五感情報や雰囲気、安心感などの感覚も含めた多感通信などの実現に期待が集まっている。これらの実現には無線通信のさらなる高速化・大容量化が必須であり、現在の5Gよりもさらに周波数が高いミリ波帯やサブテラヘルツ帯を移動通信に活用することが検討されている。


高周波数帯は遮蔽物による電波の減衰が大きいことが課題

これら高周波数帯は遮蔽物による電波の減衰が大きいため、遮蔽物対策が重要となる。
1つの基地局から多数のアンテナを分散配置し(「分散アンテナ」)、各無線端末に対して複数の分散アンテナから無線伝送する「高周波数帯分散MIMOシステム」は有力な解決手段の一つである。


端末移動予測によるアンテナ選択技術の実証実験

NTT、ドコモ、NECは2022年6月に発表した高周波数帯分散MIMO技術の実証実験協力にもとづき、端末移動予測によるアンテナ選択技術の実証実験を行い、遮蔽環境での安定した大容量無線伝送を実現した。

一方、高周波数帯分散MIMOは、複数の分散アンテナを用いて、無線端末間の干渉を抑制できれば分散アンテナ数分の無線端末に対してマルチユーザ伝送することが可能である。この無線端末間の干渉抑制の従来技術としてプリ・コーディングがあるが、プリ・コーディングは、基地局側が複数アンテナを用いて、ある無線端末へ電波を送信する時、その電波が他の無線端末へは到来しないようデジタル信号処理によるアンテナ間の位相・振幅調整により、他の無線端末の位置で干渉を打ち消しあうようにして干渉抑制する手法である。
しかしながら、分散配置された複数の分散アンテナでは、干渉を打ち消しあえる位置が局所的になってしまう特徴があり、移動する無線端末に対して、干渉を抑制することが難しいという課題があった。


実証実験の内容

技術1:狭いビームを活用したマルチユーザ伝送技術

上記の課題を解決するために、NTTとドコモは、高周波数帯で使用される狭いビームが電波の送受信方向の広い範囲で干渉抑制できる点に着目。この狭いビームだけで無線端末間の干渉を抑制することを可能とするマルチユーザ伝送技術(技術1)を開発した。本技術により、高周波数帯分散MIMOにおいて、移動する無線端末に対するマルチユーザ伝送時に、静止時と同じ無線伝送容量を実現することを実証した。

技術の概要

狭いビームを活用したマルチユーザ伝送技術

基地局と無線端末が双方とも狭いビームを用いてマルチユーザ伝送を行うためには、互いにビーム先を向ける相手、すなわち分散アンテナと各無線端末アンテナの組合せを決定する必要がある。この組合せの決定手法として、各組合せで互いに最適なアナログビームを向けた時の受信レベルを観測し、受信レベルの大きい組合せから順に、かつ、分散アンテナが重ならないよう、選択していく手法を考案した。

狭いビームは広い方向に干渉抑制することが可能であるため、分散アンテナ側と無線端末側の双方で狭いビームの適用を可能とする本手法は、無線端末が移動する場合でも、その干渉抑制効果を維持し、安定したマルチユーザ伝送の大容量化が期待できる。

実験内容および結果

実験エリアと実験系の概観

本技術の実証実験を、29m×15mの広さで、柱が4本存在する実験室で実施した。使用した実験機は、周波数帯については、国内での5Gミリ波の28GHz帯よりもさらに高い周波数帯である40GHz帯を使用した。その他の物理仕様は5G NR(New Radio)に準拠しており、信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式。また、同軸ケーブル(長さ20m)により、基地局装置は複数の分散アンテナを接続している。分散アンテナは#1~#14の位置に最大14台設置し、無線端末は、前後左右の最大4面方向に4アンテナを装備し、図中の経路上を台車で移動させた。

実験結果(従来技術と「狭いビームを活用したマルチユーザ伝送技術」の1無線端末あたりの無線伝送容量の比較)

分散アンテナと無線端末アンテナとも狭いビームを用いて、技術1を適用した場合と、両アンテナとも広いビーム幅のアナログビーム(以下「広いビーム」)を用いて、プリ・コーディングを適用した場合の下りリンクの無線伝送容量特性をそれぞれ実験評価した。
また、参考データとして、本技術(狭いビーム)にさらにプリ・コーディングを適用した場合、ならびに、無線端末が1台のみの時の伝送容量特性も評価した。
なお、プリ・コーディングの更新周期は40msとし、また、狭いビームは、水平ビーム幅が約16度、水平ビーム方向は-67~+67度の範囲で指向方向を可変とした。一方、広いビームは水平ビーム幅が約60度、ビーム方向は水平正面方向に固定とし、狭いビームと広いビームの無線端末間干渉の影響を公平に比較するため、両者のビーム利得が等しくなるよう換算して評価した。グラフの横軸は無線端末の移動速度、縦軸は無線端末1台当たりの無線伝送容量(以下「無線伝送容量」)を示す。無線伝送容量は実験エリア内の累積分布50%の値で評価している。なお、無線端末数は4台、1無線端末あたりの同時伝送ストリーム数は2とし、無線端末は4アンテナから受信レベルの高い2アンテナを選択して、この2アンテナ間はMMSE(Minimum Mean Square Error)受信処理を行なった。

実験結果により、広いビームかつプリ・コーディングを適用する場合、プリ・コーディングの干渉抑制効果が局所的であるため、静止時と比べて、移動速度3.3km/h以上で無線伝送容量が1/10に劣化する。
一方、狭いビームを適用する本技術の場合、狭いビームが広い方向に干渉抑制を維持するため、静止時の無線伝送容量を移動速度3.3km/h以上の場合でも維持する。また、無線端末が1台のみの時と比べて、無線伝送容量の劣化を27%に抑えることができている。

さらに、狭いビームにプリ・コーディングを適用した場合、移動速度3.3km/h以上では、プリ・コーディング非適用の本技術より無線伝送容量が劣化するが、静止時は、本技術よりも無線伝送容量が向上し、無線端末が1台のみの時とほぼ同じ無線伝送容量を実現している。これから、仮に、無線端末の移動にもとづいて、プリ・コーディングの適用/非適用を制御できれば、狭いビームの適用により、無線端末の静止・移動に依らずに、安定した無線伝送容量を実現できる可能性も確認できた。


技術2:端末移動予測にもとづくアンテナ・ビーム選択技術

一方、遮蔽がある環境の中を無線端末が移動する場合、電波の回り込みが起きにくい高周波数帯では、遮蔽物の裏に移動することで無線品質の急激な低下や切断が発生する場合がある。
これまで、NECは、無線端末の移動先を予測することで、遮蔽による急激な無線品質劣化の発生を予測し、事前に最適な分散アンテナを選択する技術を確立。今回は、この技術を基地局の分散アンテナと、無線端末のアンテナの両側においてアナログビームフォーミングを行う分散MIMOに拡張し、無線品質の劣化が発生する前に最適な分散アンテナとビームを選択する技術(技術2)を開発し、実証した。

技術の概要
エリア内の各位置で、分散アンテナごと・ビームごとの無線品質を持続的に測定し、各位置における最適な分散アンテナとビームを学習しておく。そして、運用時には、分散アンテナごと・ビームごとの無線品質を随時観測し、機械学習により無線端末の位置を推定。さらに、過去の無線端末の推定位置から無線端末の移動先を予測し、次の無線品質情報を取得するまでの無線端末位置と最適な分散アンテナ・ビームを予測する。これにより、現在の無線品質情報にもとづき選択した分散アンテナ・ビームだけでは、移動に伴う遮蔽により伝送性能の急激な低下や切断の可能性がある場合でも、移動する無線端末の予測位置にもとづき適切な分散アンテナ・ビームを選択する本技術により、無線伝送を継続できるようになる。

実験内容および結果

実験結果(従来技術と技術2適用時の各々の相対受信強度特性)

狭いビームを活用したマルチユーザ伝送技術と同様の実験環境において、分散アンテナ計14台を用いて、本技術の有効性を検証する実証実験を行った。具体的には、技術2を活用した時の下りリンク伝送の相対受信強度(装置内の所定の基準との相対値)を評価した。

例えば、無線品質情報の取得間隔が40msで、無線端末が上記実験室における柱に近い経路をジョギング程度の速度(6.6km/h)で移動した場合、現在の無線品質にもとづいて分散アンテナ・ビームを選択する従来技術では、柱で遮蔽される位置にて受信強度が13dB程度低下した。一方で、端末移動予測にもとづいて分散アンテナ・ビームを選択する技術2では、同位置における受信強度は、従来技術に比べて9dB程度改善し、受信強度の劣化を4dB程度に留め、高周波数帯で懸念される切断の回避が可能であることを確認した。技術2を技術1と併用することで、移動時でも安定した高周波数帯を用いた高速大容量通信の実現を期待できる。

今後の展開

今後は、潜在的な大容量無線通信ニーズと想定される多数の移動する無線端末が密集するイベント会場や工場、また、高周波数帯無線通信の適用には厳しいと考えられる人体や車など多数の遮蔽物が移動・密集するショッピングモールや道路近辺などの実フィールド環境で実証実験を行い、高周波数帯分散MIMOシステムの適用領域を拡大していく研究開発を引き続き進めるとしている。

また、6Gに向けた超高速・大容量無線伝送に期待されているサブテラヘルツ帯など40GHz帯よりも高い周波数帯についても実証実験を進め、分散MIMOの適用周波数帯の拡大についても検討を推進するとのことだ。

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ロボスタ編集部

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