NVIDIAは安全でセキュアな自動運転車向けの次世代の集中型コンピューター「NVIDIA DRIVE Thor」を発表した。高パフォーマンスを実現し、自動運転の制御だけでなく、ドライバーと乗員の車内監視や、「DRIVE Concierge」など車載インフォテインメント(IVI)の統合制御なども行っていく可能性を示唆した。
■An AV Ride Through Downtown San Jose – Powered by NVIDIA DRIVE
次世代の集中型コンピューター「NVIDIA DRIVE Thor」
最大2,000TFLOPSのパフォーマンスを実現する「DRIVE Thor」は効率を高め、システム全体のコストを削減するために自動運転および運転支援、駐車、ドライバーと乗員の監視、デジタルインストルメントクラスター、車載インフォテインメント(IVI)、後部座席のエンターテイメントなどのインテリジェント機能を1つのアーキテクチャに統合する。
この次世代スーパーチップにはNVIDIA HopperマルチインスタンスGPUアーキテクチャで最初に導入された最先端のAI機能がNVIDIA Grace CPUおよびAda Lovelace GPUとともに搭載されている。
グラフィックスとコンピューティングをサポートするMIGを備えたDRIVE ThorはIVIと先進運転支援システムを独自に実行可能とし、ドメイン分離により、タイムクリティカルなプロセスを中断することなく同時に実行できるようにする。自動車メーカーの2025年モデルで利用可能で、より高いパフォーマンスと高度な機能を同じタイムラインで市場に投入することで、生産ロードマップを加速する。
NVIDIAの創業者/CEOであるジェンスン フアン(Jensen Huang)氏は、次のように述べている。
「アクセラレーテッド コンピューティングとAIは光速で進歩しています。DRIVE Thorは集中型コンピューティングのスーパーヒーローです。超高速のパフォーマンスによって、継続的にアップグレード可能で、安全でセキュアなソフトウェア デファインドのスーパーコンピューターを車両に提供します」
この新しいスーパーコンピューティングアーキテクチャに対する運輸業界の支持を示すものとして、Geely傘下の自動車メーカーであるZEEKRは、次世代電気自動車にDRIVE Thorを統合し、2025年初頭に生産を開始すると発表した。
ZEEKRのCEOである安聰慧(An Conghui)氏は、次のように話している。
「ZEEKRユーザーは、最新のテクノロジと安全機能を備えたラグジュアリーな体験を求めています。NVIDIA DRIVE Thor は、お客様のニーズを満たす最先端のテクノロジを提供するという私たちの使命をサポートし、ZEEKR が明日のイノベーションの最前線を走り続けることを保証してくれます」
DRIVE Thorの特徴
DRIVE Thorはマルチドメインコンピューティングをサポートし、自動運転とIVIの機能を分離する。通常、個々の機能に電力を供給するために、数十の電気制御ユニットが車両全体に分散されている。DRIVE Thorを使用するとメーカーは単一のシステム オン チップ (SoC)に多くの機能を効率的に統合できる。これにより、供給の制約が緩和され、車両設計の開発が簡素化され、大幅なコスト削減と軽量化、ケーブルの削減が実現できる。
DRIVE Thorのもう1つの利点は8ビット浮動小数点(FP8)機能。通常、開発者は32ビットFPデータから8ビット整数形式に移行すると、ニューラルネットワークの精度を失う。DRIVE Thorは2,000TFLOPSのFP8精度を備えているため、精度を犠牲にすることなく8ビットに移行できる。
DRIVE ThorはNVIDIA GPU内のTensorコアの新しい構成要素である推論Transformer Engineを組み込んだ最初のAVプラットフォーム。このエンジンによりDRIVE Thorは、自動運転に関連する大規模で複雑なAIワークロードをサポートするために最も重要なTransformerディープニューラルネットワークの推論性能を最大9倍まで加速させることが可能。
新しいスーパーチップは複数のオペレーティングシステムを実行しながら、最新のNVLink-C2Cチップ相互接続テクノロジも使用する。NVLink-C2Cの利点は最小限のオーバーヘッドでリンク全体で作業を共有、スケジュール、および分散できること。これにより、自動車メーカーはコンピューティングの十分な余力と柔軟性を備え、OTAでの安全なソフトウェアアップデートを通じて継続的にアップグレード可能なソフトウェアデファインドの車両を構築できる。
最高レベルの機能安全
NVIDIAはデータセンターから車両まで、システム全体にわたって統一された安全性へのアプローチを採用している企業。DRIVE Thorは最高レベルの機能安全を実現するように設計されている。
DRIVE Thor SoCおよびAGXボードはISO 26262規格に準拠するように開発され、ソフトウェアスタックはISO 26262とASPICEの両方に準拠するように設計されている。また、Thor SoCとソフトウェアはUNECE規則155などの規制セキュリティに準拠するための道筋を提供するISO 21434に準拠して設計および製造されている。
DRIVE ThorはNVIDIA DRIVE Atlanを置き換え、現在量産中で254TOPSのパフォーマンスを提供するDRIVE Orinの後継モデルとなる。DRIVE Orinを活用している企業はプラットフォームのスケーラブルなアーキテクチャを利用して、現在の開発作業をDRIVE Thorに簡単に移行できる。開発者は将来の生産ロードマップを設計する際に、複数の製品世代にわたってソフトウェアへの投資における恩恵を享受することができる。
DRIVE Concierge プラットフォーム
NVIDIA の創業者/CEOであるジェンスン フアン(Jensen Huang)氏は、 GTC 基調講演でIVIエクスペリエンス構想の一端を披露した。集中型高性能コンピューティングを使用する「NVIDIA DRIVE Concierge」プラットフォームは、従来のコックピットとクラスタ機能に加えて、乗員ごとにパーソナライズされたAIで、安全性、利便性、エンターテイメント機能を提供する。
IVIの重要性
米国のドライバーは、毎年平均450時間近く車の中で過ごしているという。従来のコックピットとインフォテインメント・ディスプレイだけでは、これらの時間はさらに長く感じることがある、と同社は指摘する。
「DRIVE Concierge」は、DRIVE AGX コンピューティング プラットフォーム、DRIVE IXソフトウェア スタック、および Omniverse Avatar Cloud Engine (ACE) を使用して、インテリジェントな機能を、後部シートを含めてすべての乗員に提供し、車内での時間をより楽しく、便利で、安全なものにする考えだ。
これらの機能には、コックピットとクラスタ内の鮮明なグラフィックスと可視化、インテリジェント・デジタル・アシスタント、ドライバーと乗員の監視、ゲームや映画などのストリーミング・コンテンツも含まれるという。
DRIVE Conciergeにより、乗客一人ひとりが自分だけのインテリジェントな体験を楽しむことができるようになる。
コックピット機能
DRIVE Concierge は、クロスドメインの「DRIVE プラットフォーム」上で実行することにより、分散コンピュータではなく単一のチップ上で複数の仮想マシンを仮想化およびホストすることができ、開発を合理化できる。
この集中型アーキテクチャにより、DRIVE Concierge はドライバー情報、コックピット、インフォテインメント機能をシームレスに調整。Android Automotive オペレーティング システムをサポートしているため、自動車メーカーは IVI 製品を簡単にカスタマイズおよび拡張できる。
さらにデジタルコックピットとクラスタ機能は車両全体に拡張し、ワールドクラスのコンフィデンス・ビュー、ビデオ会議機能、デジタル・アシスタント、ゲームなどを備える予定だ。
情報の可視化
速度、燃料範囲、走行距離は、人間のドライバーが認識する重要なデータ。更に、AI がハンドルを握っている場合、車両の認識結果と経路計画のレイヤの詳細なビューも重要だ。
「DRIVE Concierge」は「DRIVE Chauffeur」プラットフォームと緊密に統合されており、高品質で360度の4Dビジュアライゼーションを低遅延で提供する。ドライバーと同乗者は、車両のAIが何を考えているか、美しい3Dグラフィックスでいつでも確認することができる。
この可視化機能は、自動運転車とその乗員との間の信頼関係を構築するために重要です。これにより、乗員は 自動運転システムの認識結果と経路計画に安心感を持つことができるとしている。
AI アバター
運転に革命をもたらすことに加え、AI はパーソナライズされたデジタルアシスタントを使用して、よりインテリジェントな車内を創造する。
Omniverse ACE は、開発者がインタラクティブなアバターを簡単に構築、カスタマイズ、展開できるようにするためのクラウドベースの AI モデルとサービスのコレクションだ。ACE を使用すると、自動運転車の開発者は、音声 AI、コンピューター ビジョン、自然言語理解、レコメンダー エンジン、およびシミュレーション テクノロジを使用して簡単にカスタマイズできる車載アシスタントを作成することができる。
これらのアバターは、おすすめの作成、予約の代行、車両制御へのアクセス、貴重品の置き忘れなどの状況に対するアラートの提供に貢献できる。
車両内でゲームも楽しむ
ソフトウェア デファインドの機能により、自動車は家庭と同じようにエンターテイメントを楽しめるリビング スペースになりつつあるという。
NVIDIA DRIVE Concierge により、乗員はどこにいてもビデオを見たり、高性能のゲームができる。ユーザは、お気に入りのアプリから選択して、ビデオやゲームを任意の車両画面にストリーミングする。
クラウドゲームサービスのNVIDIA GeForce NOWを使用することで、乗員はダウンロードの必要なく 1,300を超えるタイトルにアクセスでき、自動更新と無制限のクラウド ストレージを利用できるようになる。
安全性とセキュリティ
「ロボティクスで最も重要なことは安全性」。基調講演の中でフアン氏は何度もその言葉をクチにした。インテリジェントな車内機能は、利便性とエンターテイメントに加えて、車両の安全性をさらに高める。
DRIVE Concierge は、車内センサーと専用のディープ・ニューラル・ネットワークを使用してドライバーを監視し、人間が運転する際に、道路に注意が向けられていることを確実にする。
また、乗員の安全を確保し、大切な荷物の置き忘れを防止するための監視もできるようになるという。
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