NTTの通信品質制御技術とローカル5Gでタイムラグを感じないロボット操作を実現 分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」で実証実験

東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)、日本電信電話株式会社(以下、NTT)、株式会社オリィ研究所は、ローカル5Gと通信品質制御技術を用いた遠隔ロボット操作の実証実験を分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」にて実施し、遠隔地の操作者が通信遅延によるタイムラグを感じないナチュラルな遠隔ロボット操作を実現したことを発表した。

実証実験の結果により、OriHime-Dをはじめとする分身ロボットの適用領域の拡大、および低遅延アプリケーションによるナチュラルなコミュニケーションが期待でき、障がいや病気などの理由で外出困難な人達の雇用と活躍の場の拡大や、場所にとらわれない新たな働き方の促進が期待される。


実証実験の背景

NTTはオリィ研究所が2021年6月21日にオープンした障がいや病気で外出が困難な方が分身ロボットを操作して接客を行う分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」常設実験店に協賛し、共同実証実験を行っている。

OriHime-Dをはじめとした人間が操作する分身ロボットでは、会話や表情といった音声や映像によるコミュニケーションから、人や障害物を避けながらの移動などの精密な動作まで、場所や状況に応じて様々な活動を臨機応変かつ自由に行えることが期待されている。現在、分身ロボットはカフェ内に整備されたWi-Fiによって無線接続されているが、Wi-Fiはアンライセンスバンドの無線周波数を用いていることもあり、外部の電波との干渉などによる無線通信品質の低下が発生しやすく、タイムラグや通信断による操作の中断により、操作者のストレス増大や操作精度の低下、カフェでのサービスに支障が生じる問題があった。

このため、カフェでナチュラルなロボット操作を実現するためには、外部の電波などの影響を受けにくい無線アクセス環境の整備、および無線通信区間も含めた分身ロボット-操作者間での通信遅延量を低減する必要があった。

以上の課題を解決するため、実証実験では外部電波などの影響を受けにくく高品質な無線アクセス環境であるローカル5Gをカフェ内に構築し、NTTが開発した通信品質を制御する技術を組み合わせて、遠隔ロボット操作に関する実証実験を実施した。

図1:実証実験構成図


ローカル5Gについて

ローカル5Gは地域の企業・自治体等が自社敷地内に柔軟に構築・保有が可能な5Gシステムであり、国の電波免許制度により周波数を自社の敷地内で占有できるライセンスバンドを利用するため、外部の電波との干渉による通信品質の低下(切断やスループットの低下による画像乱れ等)が起きにくく、安定した無線アクセス環境を構築可能。また、高速大容量・低遅延通信の利用ができる点や、アップリンクの高速化・特定の端末通信を優先制御する等のカスタマイズが可能といった特徴を有している。

実証実験ではローカル5Gをカフェ内に構築。分身ロボットのような高いリアルタイム性が求められる通信要件の厳しいユースケースに対して、高速大容量・低遅延通信を安定して利用でき、通信品質を制御可能なローカル5Gの有効性を実証する。


NTTが開発した通信品質制御技術

LTE、5G、Wi-Fiなどに代表される無線アクセスには、それぞれの無線通信規格に応じた無線通信品質制御技術が採用されている。各無線通信規格において無線通信品質制御による高品質無線通信サービスを利用するには、無線通信規格に応じた設定を行う必要がある。また、近年では用途に応じて様々なアプリケーションが登場し、通信速度や遅延量などネットワークの通信品質に対する要求が多様化しており、様々な用途のアプリケーションが収容されるネットワークにおいては、アプリケーション毎に適した通信品質を保証することが課題となっている。これらの課題を解決するため、NTTはアプリケーション同士でやり取りされる通信パケットの通信優先度を集中制御する通信品質制御技術を新たに実現した。

同技術は通信パケット量推定機能、通信パケットの送信タイミング制御機能で構成され、2つの機能を組み合わせることで、通信レイヤ2(データリンク層)および通信レイヤ3(ネットワーク層)においてアプリケーション間の通信品質制御を実現。また、これら機能は各種デバイスや無線アクセスポイントに実装することができ、利用する無線ネットワークの通信規格や無線通信装置に依存することなく通信品質制御を行うことを特徴としている。

通信パケット量推定機能とは
無線ネットワークに通信パケットが入力されるポイントにおいて、無線ネットワークの通信状況やアプリケーション毎の過去の通信状況から、将来にネットワーク中に流れる通信パケット量の予測を行う。

送信タイミング制御機能とは
アプリケーション毎の通信パケットの優先度に応じて、要求される遅延量となるように通信パケットの送信タイミング制御を行う。


実証実験について

実証実験ではNTT武蔵野研究開発センタ(東京都武蔵野市)、NTT中央研修センタ(東京都調布市)、分身ロボットカフェDAWN ver.β(東京都中央区)を全長100kmの光ファイバで接続し、カフェ内に整備したローカル5Gを経由して、武蔵野研究開発センタ内から障がいのある操作者がカフェのサービススタッフ業務を行った際のロボット操作感、およびアプリケーション間でのネットワーク性能評価を行った。

図2:分身ロボットカフェでの実証実験の様子(左)、NTT武蔵野研究開発センタの操作者(右)

ローカル5Gを活用することで従来のWi-Fiを用いて分身ロボットを操作していた際に発生していた、無線通信の接続が途中で切断される事象や、映像品質の劣化による遠隔操作のし辛さは解消され、分身ロボットの操作性向上効果が確認できた。また、数十ms以上の遅延量増加が発生する大容量のダミートラフィックをローカル5Gへ付加した条件においても、NTTが開発した通信品質制御技術を分身ロボットに関わる通信(映像、音声、ロボット制御信号)に適用することで、付加されたダミートラフィックの影響を受けることのない低遅延性能を維持できることを確認した。

NTTクラルティ株式会社の協力のもと、実際に分身ロボットを操作した操作者にもインタビューを行い、ローカル5Gと通信品質制御技術を組み合わせた遠隔ロボット操作では、従来のネットワーク環境で感じていた操作に関わるストレスが低減でき、ロボット操作やユーザーとの接客もネットワーク遅延を感じることなくスムーズに行えた、といった意見が得られた。


今後の展開

今回の成果は実証実験を行った分身ロボットへの適用に留まらず、製造工場や建設現場等で活躍する遠隔操作産業ロボットなど、ネットワークの低遅延性能が求められる遠隔操作ユースケースへの展開が期待できる。

今後もOriHime-Dをはじめとする分身ロボットの適用領域をさらに拡大させ、本成果で活用した通信制御技術を各種デバイスに搭載してローカル5Gと組み合わせて工場、建設現場、農場へ適用していく等、ローカル5G等の通信技術とロボティクス技術を融合させながら、新たな働き方の具現化と誰もが社会参画できる未来を実現していく。

なお、同技術については2023年1月24日~1月26日に開催予定の「NTT東日本グループ Solution Forum 2023」にて紹介される。

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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