「マイカーにレベル5の自動運転機能」は的外れ、社会問題の早期解決にはならない 制限地域内から公道へ自動運転実用化の現状まとめ

空港制限区域内では、さまざまな自動運転車両の実証実験が行われている。また、空港だけでなく、大型駐車場や公道での自動運転バスの実用化は2011年から既にはじまっていて、既に未来の話ではない。駅とキャンパスを結ぶスクールバスにも実用化が進められようとしている。

加藤製作所、新明工業、中部国際空港、日野自動車は、滑走路や誘導路を含む空港制限区域内における現場作業の安全性確保や生産性向上、労働力不足などの課題解決に向け、実証実験を2023年5月10日から開始した。

実証実験の具体例としては、ドライバーが周辺監視を行い、特定条件下での自動運転機能を使用する「レベル2相当」に対応した小型トラックをベースに、自動運転と路面清掃の技術連携により高機能化させた路面清掃車(真空吸込式)での清掃を中部国際空港で実施する。

自動運転と路面清掃車の車両外観。GNSS(Global Navigation Satellite System)、GPSなどの全地球衛星測位システム、LiDAR等を搭載して自社位置推定をおこなう

他にも、空港では乗客を運ぶ自動運転バスや荷物を搬送する自動搬送カーゴなどの自動運転化が検討され。実証実験が進められている。これらは公道を走るマイカーに自動運転機能を負荷しようという計画よりずっとシンプルで実現性が高い。


空港制限区域における路面清掃車の自動運転は日本初

滑走路や誘導路を含む空港制限区域における路面清掃車として自動運転車のは日本で初めてとなる。夜間や単調作業下での安全運行や、重複清掃や清掃漏れの削減による清掃品質や効率向上の確認、準中型免許で運転可能な小型トラックをベースとした路面清掃車の有用性についてデータを取得することを主な目的としている。高齢化問題や業務の自動化に対してはこのアプローチは正しい。


空港制限区域では自動運転バスや自動搬送車の実証実験は既に進む

実際にJALやANAなど大手航空会社、NTTなどの通信会社は自動運転開発企業と連携して、独自に空港の制限区域内で、乗客の移動や顧客の荷物搬送に自動運転技術の導入に向けて研究を重ねている。制限区域内での自動運転は、公道と比較して不慮の事態の発生が極端に少なく、路上駐車など自動運転に撮って障害となるものの規制も徹底しやすいため、安全性の確保が容易だ。

空港での自動運転バスの実証実験が進む。自動運転には遠隔監視が重要となってくる。【国内空港初】成田空港で5Gを活用した自動運転バスの実証実験 NTT東/KDDI/ティアフォーらがレベル4導入に向け

■成田国際空港でローカル5G等を活用した自動運転バスの実証実験を実施

■中部国際空港での自動運転バス実用化に向けた自動走行実証動画

実際に、人手不足やスタッフの高齢化問題は空港の運営にも大きな課題としてのしかかっている。

関連記事「羽田空港でANAやSBドライブらが大型自動運転EVバスの実証実験 年内に自動運転バス試験運用へ」。ここでも自動運転の遠隔監視はおこなわれている。


決まったルートを走るシャトルバスは自動運転が比較的容易

同様に、行動であってもシャトルバスのように決まったコースを走行し、路駐を規制できる用途であれば、技術面で言えば、実用化は秒読み段階に入っているといえるだろう。AIは、走るコースや限られた街並みで、朝・夜・雨・雪などの特定条件化の環境をAIが経験すれば相応の安全性を確保することができる。ゆりかもめなどの自動運転列車が実用化されていることを考えても、BRTなどバス専用レーンも規制が徹底できる区間ならば実用レベルの技術の成熟は比較的容易だ(もちろん実現には、交通法規の課題が別にある)。

大型施設の駐車場を自動運転で巡回しているバスは、公道に出て、羽田空港までのシャトル運航へと駒を進めた。関連記事「HICityの自動運転バスがついに公道へ!「NAVYA ARMA」がHICityと羽田空港間の公道走行 一般の利用者が乗車可能

茨城県境町では既に2020年11月から公道を自動運転バスが走っている。高齢化に対応するために必要だと5億円の予算を計上して実現した。当初は1路線だったが、地域の利用者の要望によって路線を拡大、今では高速バスのBRTの駅と接続されるようになって利便性は大きく向上した 関連記事「境町の公道を走る自動運転バスの走行経路を4倍に延長、約20kmに拡大 夏には「LINE」で自動運転バスが呼べるようにも

ロボタクシーも走行地域の範囲を制限したり、路上駐車や歩行者や自転車の規制がある程度可能であれば、現実レベルの安全性の確保は可能だ。


「自家用車にレベル5の自動運転機能」は的外れ、社会問題の解決にはならない

一方で、どこにでも行ける自家用車(マイカー)に、レベル5の自動運転機能を付加するのは相当なリスクが伴う(マイカーの自動運転には遠隔監視がない)。また、AIの運転教習や学習には、様々な環境下での膨大な運転経験が必要なため(トヨタは3兆マイルと分析している)。また、自動運転の実現に対する理想論を言えば、公道での高い安全性を確保するためには、自動車同士の通信(V2V:ビークルtoビークル)や、自動車と信号機の連携、自動車と街頭のカメラ等の連携、自動車とのMECとの連携、これら「V2X:ビークルtoX」が重要と考えられている。

数台先を走る自動車と通信したり、街のインフラと通信することで安全を高めるコネクテッドが自動運転の安全性を高める

これを実現するには街ごとV2X構想を取り入れたスマートシティを作って実証実験を重ねることが近道だ。そのため現時点では早期の実現を期待するだけ無謀というものだ。また、マイカーが自動運転に変わったとしても、社会問題の解決には大きく貢献しない。たしかに、事故は減るかもしれないという利点は重要だが、それよりもロボタクシーやオンデマンド型の自動運転バスを無料やローコストで運用し、マイカーを減らしていく方が理想的だ(一部の自動車メーカーはこの未来に気づいていて、大幅なビジョンの変更を模索している)。


マイカーのレベル5自動運転機能は現実的ではない

メーカーによっても自動運転車の実現までのアプローチは異なる。現実的に見れば、公道では決まったルートでの低速運転バス、駐車場内を巡回する自動運転バス、駅から学園キャンパスまでのシャトルバスが実用化されていることをみれば、これらが正しいアプローチが明確だと言えるだろう。

マイカーのADAS運転支援システムは事故防止には重要な技術ではあるが、こと「レベル5」となると、どんな場所を走るか想定できないマイカー(自家用車)での安全確保を考えれば、しばらくはとうてい現実的ではないといえるだろう。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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