
既に報じているとおり、NVIDIAは9月24日と25日に「NVIDIA AI Day Tokyo」を開催し、900名以上の参加者が集まった。セミナー中心の招待制イベントで、参加者たちは「エージェント型AI」「フィジカルAI」「量子コンピューティング」「AIファクトリー」など26のセッションを通じて「ソブリンAI」(自国や自社のインフラでAIシステムを運用する体制など)について学んだ。
これらセッションのアーカイブ動画が公開された。「NVIDIA AI Day Tokyo セッションのアーカイブ動画サイトのリンク」
ソフトバンク、GMOインターネット、KDDIがAIファクトリー情報を公開
NVIDIAのクラウドパートナーである「ソフトバンク」「GMOインターネット」「KDDI」は、AIモデルやサービス開発を支える自社AIファクトリーの最新情報を公開した。
ソフトバンクは、法人統括AIプラットフォーム開発本部の鈴木邦佳氏が登壇し、今後のAI社会に不可欠な「次世代社会インフラ」を実装していくソフトバンクの長期ビジョンに対して、1万基超のGPUで構成されるAI計算基盤に関する取り組みと、具体的な活用事例として日本語に特化した国産大規模言語モデル「Sarashina」について紹介した。
鈴木氏は「AI 社会に求められる計算能力は 2030年には 2020年の 320倍に達すると推測されます。このような AI 活用の広がりに透明性と安全性を確保するためには、高性能な国産 LLM、そして LLM を持続的に開発できる国産の大規模計算インフラという国産技術基盤を築くことが鍵となります」と述べた。
政府はAIを国家戦略の中核に据える
日本政府はAIを国家戦略の中核に据えており、2030年度までに少なくとも10兆円(約650億ドル)を投じ、半導体産業とAI産業を強化する計画を昨年発表している。
NEC AIテクノロジーサービス事業部門の石川和也氏は「ノウハウ継承や複雑な社内ドキュメントの活用などに貢献している NEC の cotomi は、日本が直面するスキルギャップや労働人口減少の課題に直接応えています。このような産業向けに特化した AI が、日本のデジタル トランスフォーメーションを加速させます」と語った。
日本の「GENIACプロジェクト」(経産省)は、企業への計算資源の提供、協業の促進などを通じて、国内の生成AI能力の強化を目指している。これには、日本語や国内産業向けの大規模言語モデル(LLM)を含む、基盤モデルの開発の支援も含まれている。
AI産業のトレンドは、NVIDIA開発者プログラムに参画する開発者28万1,000名、NVIDIA Inceptionに参画する400社以上のスタートアップ企業、NVIDIAテクノロジーを搭載したAIファクトリーを開発する主要なクラウドパートナー6社、NVIDIA Deep Learning Institute受講者2万9,000名といった日本国内の主要なプレイヤーによってけん引されている、とした。
フィジカルAIのセッションも大人気
「フィジカルAI」に関連するセッションにも人気が集まった。フィジカルAIとは、カメラ、ロボット、自動運転車などの自律型システムが、現実世界で認識、理解、リーズニング、そして行動あるいは複雑なアクションの調整を可能にする技術。
AI Day TokyoのフィジカルAIに関する一連のセッションでは、デジタルツイン構築のためのNVIDIA Omniverse、ヒューマノイドロボット開発向けのNVIDIA Isaac GR00T、およびNVIDIA Cosmos世界基盤モデルといった技術についての解説が行われた。
大手総合建設業企業の清水建設は、建設現場の作業状況や潜在リスクをモニタリングするため、動画検索、要約(VSS)向けのNVIDIA AI Blueprintをいかに活用しているかを紹介した。
NVIDIAの担当者による「Cosmos世界基盤モデル」や、ヒューマノイド基盤プロジェクト「Isaac GR00T」を紹介するセッションも満員となっていた。このセッションのアーカイブも公開されている。
スタートアップ各社が成果を発表
日本を拠点とするNVIDIAのパートナー各社は「AI Day Tokyo」のセッションで、AIによる日本の産業革命をけん引する新たな取り組みを公開した。
NVIDIA Inceptionに参画するスタートアップ各社は、NVIDIA NeMoソフトウェアスイートを活用して開発した革新的なサービスを発表した。ストックマークは、ゼロから構築した1000億パラメーターの日本語大規模言語モデルをNVIDIA NIMマイクロサービスとしてリリースし、推論速度が2.5倍に向上したことを発表した。また、FastLabelは、自動運転および先進運転支援システム開発向けのソリューション、FastLabel Data Curationの提供を開始した。
博報堂DYグループの企業である博報堂テクノロジーズは、広告を自律的に生成するAIエージェントを開発するために、NVIDIA AI BlueprintおよびNVIDIA NeMo Agent Toolkitを活用することを発表した。
また、NVIDIAのセッションでは、新たにリリースされたNemotron-Personas-Japanが紹介された。これは日本の実社会における人口統計、地理的分布、文化的特性に沿ったペルソナを含む初のオープン合成データセットである。本データセットは、機微な個人データに依存することなく日本社会を反映したAIシステム構築のための、プライバシー保護と規制対応を両立した基盤を提供する。
「エージェント AI システム」を構築するための実践的なアプローチを紹介
「(同時通訳付)Unlocking the Power of Agentic AI: Effective Methods for Building Intelligent Digital Agents」セッションでは、NVIDIAのエンジニアリングシニアディレクター、バートリー・リチャードソン氏は「高度な手法やアクセラレーテッドコンピューティングを活用することで、日本の開発者や企業は、AIエージェントによる企業データの最大限の活用、組織の効率化、そして継続的なイノベーションの実現が可能になる」と述べた。
日本は、エンジニアリングやメカトロニクス分野での強みを活かし、計画、リーズニング、そして協働が可能な高度なデジタルエージェントが、フィジカルAIとともに複雑な作業を遂行する「デジタルワーカー」となって活躍する新たな時代を牽引しようとしている。
1.NVIDIAが語るフィジカルAIで加速するヒューマノイド開発の最前線 ドメインランダム化とシム2リアル 「NVIDIA AI Day Tokyo」レポート(1)
2.ヒューマノイド開発を支援する「NVIDIA Cosmos世界基盤モデル」とは・・ 世界モデルと世界基盤モデルの違いを解説 「NVIDIA AI Day Tokyo」レポート(2)
3.生成AIで進化したNVIDIAヒューマノイド開発基盤「Isaac GR00T」を詳しく解説 「NVIDIA AI Day Tokyo」レポート(3)
NVIDIAのオンラインセミナー 見逃し配信を公開中
を2025年7月29日(火)に、ロボスタ初のオンラインセミナー「NVIDIAがヒューマノイド開発を身近にする、フィジカルAIとロボット開発プラットフォームの全貌を聞く」を開催しました。プレミアム会員になると、見逃し配信(動画)を視聴することができます。詳細はこちら
世界一のAI企業、NVIDIAはヒューマノイド向けAIやロボットの開発基盤「NVIDIA Isaac GR00T」の提供を2025年から開始しました。
NVIDIAが提供するフィジカルAI開発のためのプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」や、ロボティクス向けの「NVIDIA Isaac Sim」などによって、ヒューマノイドロボット開発の効率が格段に向上したと言われています。世界的に知られるロボット開発企業も既に使い始めています。
セミナーでは、それらの事例を踏まえながら、ヒューマノイドや業務用ロボットをどのような方法で開発を始めればばいいのか、従来の開発プロセスとどのように違うのか、今後、どう変わっていくのかなどを、NVIDIA担当者によるプレゼンテーションとロボスタ編集長・神崎洋治による深堀りで全貌を解明していきます。
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NVIDIAが語るフィジカルAIで加速するヒューマノイド開発の最前線「NVIDIA AI Day Tokyo」レポート ドメインランダム化とシム2リアル
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。