【速報】NEC量子コンピュータ技術で設備の稼働率15%向上・生産計画立案作業の90%削減を達成 4事業所に生産計画立案システムに本格導入

日本電気株式会社(NEC)と、NECが販売するICT機器の製造を担うNECプラットフォームズ株式会社は、「量子コンピューティング技術」を活用した生産計画立案システムを構築し、本年3月より福島、白石、大月、掛川の4事業所の電子部品をプリント基板に実装する表面実装工程(SMT工程)において本格導入することを発表した。量子技術の実用化が、また一歩前進した。

電子部品の基板表面実装ラインに量子アニーリングを導入し、納期と効率を両立する絶大な効果を確認した

これにより、生産設備の稼働率が15%向上し、毎日1時間から2時間かけて実施する生産計画立案の工数(作業時間)が90%削減され、生産性向上・業務効率化に貢献できる。
NECは発表に合わせて、報道関係者向けに説明会をオンラインで開催した。また、NECは量子コンピューティング技術活用事例のライブセミナーを1月27日に開催。今回の事例も紹介する予定(記事末尾で紹介)。





物流現場の「段取り」の効率化が急務

NECプラットフォームズでは、一つのSMTライン(Surface mount technology:電子部品の基板表面実装/下図参照)で1日に約30品種もの製品を生産しているため、品種の変更の際には数百種ある部品や製造条件の設定を変更する「段取り」を行う必要がある。


「段取り」はラインを停止して行うため、日々異なるオーダーに対し高い生産性を維持するには、効率的な順番で生産することで「段取り」にかかる時間を短縮し、設備稼働率を向上する必要性に迫られていた。



しかし、複数のSMTラインでの生産順の検討は、ライン同士の「段取り」時間の重なりの最小化など様々な点を考慮する必要があり、その組み合わせは膨大となるため、生産計画立案に時間がかかることに加え、対応可能な人材が限られるといった課題を抱えていた。


そこで両社は、量子コンピューティング技術により大規模な「組み合わせ問題」の超高速処理を実現する「NEC Vector Annealingサービス」を活用した実証実験を2019年より実施。実証実験の結果、熟練の作業者と同等以上の生産計画を数秒で立案できることが確認できたため、このたびSMTラインを持つ4事業所の製造現場へ本格導入を決めた。


これにより、生産設備の稼働率が15%向上し、毎日1時間から2時間かけて実施する生産計画立案の工数(作業時間)が90%削減、生産性向上・業務効率化に貢献できると確信した。


量子アニーリングによる生産計画の最適化への挑戦

具体的な手順について、同社次のように語っている。

まず最初に、熟練者の考え方や計画立案のプロセスの明文化を行った。それを明確化した上で、 NECの技術者と一緒に「その中でどうすれば両氏はニーリングが効率的に計算できるか」「生産現場の条件として譲れないものはどこか」という点をすり合わせながら、複雑な問題を現実的に解けるような形でステップに分けてモデルに落とし込んでいき、今回のモデルを実現した。

量子コンピューティングによる生産計画の最適化結果の例「匠の技のデジタル化」https://jpn.nec.com/press/202003/20200317_01.html

例えば、「納期と効率を両立」するような制約条件については、上図に示したように2つのステップで実現した。まず、数百種類のオーダーから、なるべく共通的な品種でかつ締切日を満たす1日分のオーダーを組み合わせの中から選択する。次のステップでその 1 日分のオーダーに対して段取り時間が最小となる順番を決めていく。この形でモデル化することによって、これまで熟練者が 1~2時間かけていた作業が、アニーリングでは数秒で、かつ熟練者よりも無駄の少ない計画立案を実行できるうようになった。


複数ラインの対応にも挑戦

ただ、NECプラットフォームでは、実務では複数のラインで生産を行っていて、複数ライン間での段取り作業者の重複や、設備・工具などのリソースも考慮する必要があった。例えば下図のように2つのラインで、1と2の段取りが同時に発生してしまった場合、片方の段取り作業を後回しにするか、もしくは2ライン分の段取り作業ができるように2倍のスタッフ人数を配置するか、対応する必要が出てくる。


高価な設備・工具が必要な作業の場合、数が揃えられないケースもあり、複数ラインで共有するのは困難な状況になる。
本来であれば、熟練者もここまで考慮した生産計画を立案したいところだが、品種が増えれば、スタッフではそこまでは考慮しきれない実情であった。今回、実用化に向けては、これら熟練者でも難しいとされる複数ラインの最適化に関してもアニーリングを導入してモデルで実現できるように挑戦し、さらなる生産性向上を実現した。


大規模システムとして展開し、2024年度にパッケージ化

なお、このシステムを導入し生産性向上を実現することにより、業務効率化に加え多様化するニーズに素早く対応できるようになることが見込まれている。
このシステムをサービスとして展開する予定としては、今回のNECプラットフォームズへのシステム導入経験より顧客の課題の明確化、モデル化、検証など、適用するプロセス全般におけるノウハウの蓄積できたとして、同様の規模(大規模)の顧客向けの提案を期間・費用などを抑えた提案として、数千万~数億円の見込みで行なっていく予定としている。そして、更にその後は大規模の顧客だけでなく、中堅企業が導入しやすいパッケージでの検討を進め、2024年度の展開を目指す考えだ。


保守部品の配送効率 最適化にも

同NECグループのNECフィールディングも、保守部品配送効率最適化に着手していることを2022年9月に発表している。これにもアニーリング技術を駆使した「NEC Vector Annealingサービス」を2月より稼働した、としている。

製造業では、部品の組合せが膨大であり、部品逼迫問題もあって、計画の柔軟な変更に対応できる工程設計、生産計画における計画の自働化が課題となっている。最適化問題の解決に効果が高いアニーリングはソリューションとして期待されている。



「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」

量子コンピューティング技術には、本格的な量子コンピュータを使用した汎用的な「量子ゲート方式」と、従来のコンピュータで量子技術を実装し、組合せ最適化問題に特化した「量子アニーリング方式」に大別できる。
「量子ゲート方式」は開発・研究・試作が急ピッチで行われているが、実証実験を含めて実践を進める段階にはもう少し時間が必要だ。一方で「イジングモデル」を物理法則などを利用して解く「量子アニーリング方式」は、さまざまなユースケースで実証実験が行われ、実用化の声が聞かれる様になってきた。

量子コンピューティング技術の分類。NECは主に「量子ゲート方式」の「量子(超伝導) 」「アニーリング方式」の「量子(超伝導)」と「疑似量子」分野で研究開発を推進している

アニーリング方式は、条件が多く組合せが膨大なシフトの作成に最適な効果を発揮することが実証されていて、スキルや仕事のマッチング、納期を満たし、時間/コストが最小となる配送計画、重量/大きさが異なる荷物を効率的に積込むなど、組合せが膨大でこれまでのコンピュータでは現実的な時間で解くことが難しかった「組合せ最適化問題」での活用がまずは期待されている。

組合せが膨大でこれまでのコンピュータでは現実的な時間で解くことが難しかった「組合せ最適化問題」での活用が期待されているアニーリング方式

今後当面は、従来のコンピュータシステムと機械学習を中心としたAIに加えて、計算量が多すぎて従来のシステムが苦手としている「組合せ数が膨大な問題」は量子アニーリングが担当するという、併用と共存が進むと考えられている。

量子アニーリングと、AIの使い分け。併用・共存が当面の最適解


NECが量子コンピューティング技術のライブセミナーを開催

NECは本事例を含む量子コンピューティング技術活用事例を下記ライブセミナーでご紹介予定。
「AI・量子コンピューティング技術の活用で業務の最適化を加速~生産現場、物流現場の実用事例のご紹介~」
ライブ配信:2023年1月27日(金)15:00~16:00
オンデマンド:2023年1月28日(土)~2月28日(火)
お申込みページ:
https://jpn.nec.com/online-event/230127_quantum/index.html

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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