汎用人型重機を開発する人機一体、下半身制御のコア技術「ハイブリッド・オートバランス制御(HABC)」を公開

株式会社人機一体は、2024年8月1日(木)に「株式会社人機一体 成果発表会 2024」を開催し、人型重機の下半身制御のコア技術となる「ハイブリッド・オートバランス制御(HABC)」を実装したロボット『零一式カレイド ver.1.1』のバランス制御のデモをおこなった。

今後、独自の人型重機ハードウェア開発に着手し、2039年末までに「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」という目標を掲げ、その達成を目指して人型重機やロボットが日常的に活用される社会の実現に向けて研究開発を進めると発表した。


人型重機の開発変遷とロードマップ


上半身の開発

かねてより人型重機の上半身部分にあたるロボットの研究開発を進めており、2014年に日本テレビ「ロボット日本一決定戦!リアルロボットバトル」での企画向けに開発した『MMSEBattroid ver.0』を皮切りに、2020年からは西日本旅客鉄道株式会社(JR 西日本)および日本信号株式会社と鉄道設備メンテナンスにおける高所重作業の解消に向けたPoC試作機『零式人機』シリーズの共同研究開発に取り組んできた。

人機一体の人型上半身ロボットの開発の歴史

そして、実用化のベースとなるPoC試作機『零式人機 ver.2.0』で使用している人機一体の特許技術等のライセンスに基づき、メーカである日本信号により『多機能鉄道重機』が製品化され、2024年07月にはJR西日本の和歌山線で初めて実作業に使用された。今後様々な営業線において、高所での鉄道メンテナンス作業に使用される予定だ。

JR 西日本の和歌山線での作業(提供:JR 西日本)


下半身の開発

上半身部分にあたるロボットの実用化に重きを置いて研究開発を進めてきた一方で、下半身についても独自開発ロボットを用いた制御システム等の研究開発を進めてきた。

2023年11月からは川崎重工業株式会社が開発したヒューマノイドロボット『Kaleido』(カレイド)に人機一体独自の制御技術を実装するための研究開発を進め、2024年8月1日(木)に下半身制御技術である「ハイブリッド・オートバランス制御(HABC)」を実装した『零一式カレイド ver.1.1』として披露。バランス制御デモンストレーションを公開した。なお、この実装は、広島大学機械力学研究室(菊植亮教授)との共同研究によるもの。

ハイブリッド・オートバランス制御の概要図


ハイブリッド・オートバランス制御(HABC) とは

歩行計画のような上位の制御をコンピュータではなく人間の操作に、バランス維持のような下位の制御をコンピュータに任せ、これらを力制御ベースで統合(重ね合わせ)することで、臨機応変な人間の判断能力と、コンピュータの正確・精密な制御能力を両立することができる。

■人による操作とオートバランスのハイブリット制御 – 株式会社人機一体 成果発表会 2024 にて

このリリース時点では、低速度の歩行操作のみの初歩的な歩行制御技術の実装となっている。しかし、事前に路面状況を把握することができない未知環境下であっても人間はバランスを気にすることなく、瓦礫の上など不安定な足場であっても安定的に非定型作業を遂行することができる。より高度な歩行制御技術を重畳することでこれが実現する。さらにモビリティにとどまらない人間の下肢のスキルを、ロボットの脚部に反映することが可能となる。

バランス制御デモの様子


今後の開発ロードマップ

人型重機の社会実装に向けた最初のステップとして、上半身と下半身ともに人機一体の力制御技術をベースとした人の操作による動作が可能なことについて原理検証が完了した。
ソフトウェアの面では、主にハイブリッド・オートバランス制御の改良を進め、単純に歩かせるだけでなく、真の意味で人間の作業を代替できるような多様な下半身のスキルを発揮するための制御技術について研究開発を進めるとしている。

ハードウェアの面では、LOVOT、零式人機等のデザイナー 根津孝太氏 、マクロスシリーズ等のアニメーション監督・デザイナー 河森正治氏と共同開発プロジェクトとして人機一体独自のハードウェア開発を進めていく。
2024年度から2026年度にかけて各コンセプトデザインをベースとした第一号試作機の開発を目指す。
「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」の実現に向けて、人型重機をシンボルとしてソフトウェア・ハードウェアの両面で今後の研究開発を強化、加速していくとしている。

 

人型重機をシンボルとする意味

インフラメンテナンスの現場をはじめ、依然として人が生身で対応せざるを得ない重作業や危険作業(フィジカルな苦役)が数多く存在している。同社は、これらの作業を先端ロボット工学技術で機械化するための研究開発を進めていて、作業内容によっては、人型以外のロボットの方がより実用的である場合もあり、実際に様々な形状のロボットを研究開発している。また、人型重機においても、必ずしも二足歩行型が最適とは限らず、下半身を軌陸高所作業車や車輪、クローラとする方が適している場合もある。



一方で「人型重機には多くのフィジカルな苦役を代替する大きな可能性が秘められている」という。特に二足歩行型の人型重機については、下半身を単なる移動手段ではなく、上半身と同様に人と同等のスキルを発揮するための機構として捉えることで、より広範な人間の作業を代替できるとしている。

同社は、人型以外のロボット開発を進めながらも、人型重機をシンボルとして掲げて研究開発を進めることで、広く社会の注目を集め、フィジカルな苦役を抱える企業に対して、その課題を解決し得る技術が存在することを発信していく。そして、人型重機を通じて、社会におけるフィジカルな苦役のニーズを集約し、「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」という目標を実現する考えだ。

■なぜ我々はヒューマノイドをつくるのか – 株式会社人機一体 成果発表会 2024 にて

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ロボスタ編集部

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