NVIDIA支援のスパコン、欧州最速を省エネで実現 AI、量子コンピュータ、デジタルツイン用途を牽引

ドイツ・ユーリッヒ研究センターに設置されたスーパーコンピューター「JUPITER」が、2025年6月のTOP500ランキングにて実効性能793.4ペタフロップス(Rmax)を記録し、ヨーロッパで最高性能のシステムとして評価された。
JUPITERの構成
JUPITERは、CPUとGPUを統合したNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを約24,000基搭載する大規模な構成で、高度な科学技術計算(Scientific Computing / HPC)やAIワークロードを実行する。これらの演算ノードは、NVIDIA Quantum-2 InfiniBandネットワークにより相互接続されており、大規模なAIモデルや科学シミュレーションを分散処理するための基盤となっている。
物理的な構成には、Superchipを高密度で収容可能なモジュール型の液冷ラックマウント、Eviden(旧Atos)製のBullSequana XH3000筐体を採用。
単位面積当たりの計算能力を高めている。
TOP500で公開されたスペックは以下の通りだ。
理論最大性能(Rpeak):930.0 PFlop/s
消費電力:13,088 kW
コア数:4,801,344
これらの性能により、JUPITERは欧州最高の計算能力を持つと評価されており、懸念される電力消費に関しても電力効率(約60.6 GFLOPS/W)が高水準であるとされている。
JUPITERは今後 1 秒当たり 100 京 (10 の 18 乗) の FP64 演算の実行するエクサスケールスーパーコンピューターとなる見込みで、気候モデリング、量子研究、構造生物学、計算工学、天体物理学といった多様な分野において、AIモデルのトレーニング、推論、科学的シミュレーションの規模と速度を飛躍的に高め、ヨーロッパにおけるイノベーションと研究開発の推進力となることを期待されている。
なお、TOP500ランキングとは、世界中のスーパーコンピューターを対象に、連立一次方程式を解くための倍精度浮動小数点演算(FP64)の実行性能を評価するHPL(High Performance Linpack)ベンチマークに基づいてランキングを決定するもので、年2回更新される。
Grace Hopper Superchip:
NVIDIA製のCPUとGPU統合チップ。高速なメモリ帯域とNVLinkインターコネクトを備え、AI処理やHPCに最適化されている。
Quantum-2 InfiniBand :
演算ノード間を直接接続し、低遅延な通信によって分散処理性能を向上させる高速ネットワーク。
関係者コメントと期待される活用分野
NVIDIAのCEO、Jensen Huang氏は次のようにコメントしている。
Jensen Huang氏
AI は科学的発見と産業革新を加速させます。ユーリッヒと Eviden とのパートナーシップにより、NVIDIA はヨーロッパで最も先進的な AI スーパーコンピューターを構築し、主要な研究者、産業界、そして機関が人類の知識を拡大して、ブレークスルーを加速し、国家の発展を促進できるよう支援します
また、JUPITERを所有するEuroHPC共同事業体のエグゼクティブ・ディレクター Anders Jensen氏は次のようにコメントしている。
Anders Jensen 氏
JUPITER の卓越したパフォーマンスにより、ヨーロッパは科学、技術、そして主権の未来に向けて大きな飛躍を遂げました。JUPITER のコンピューティング パワーは科学的発見の触媒となり、気候モデリング、エネルギーシステム、バイオメディカル イノベーションなど、多様な分野におけるヨーロッパ大陸全体の基礎研究を推進するでしょう
JUPITERはドイツおよびヨーロッパの研究者向けにアクセス申請の門戸を開いており、その存在により様々な分野の研究、開発を加速することが予想される。
想定用途
気候・気象モデリング:
地球環境を仮想的に再現する「Earth-2」オープンプラットフォームを活用し、気候変動への理解や可視化に寄与する。
Earth-2
量子コンピューティング研究:
CUDA-QプラットフォームやcuQuantumソフトウェア開発キットを用いた量子アルゴリズムやハードウェアの開発。
CCUDA-Q™プラットフォーム
cuQuantumソフトウェア開発キット
コンピューター支援エンジニアリング:
デジタルツインテクノロジーやAI駆動シミュレーションを用いた製品の設計、製造フローの革新。
NVIDIA PhysicsNeMo フレームワーク
NVIDIA CUDA-X ライブラリ
NVIDIA Omniverse プラットフォーム
創薬:
医薬品研究むけAIモデル作成の高速化
BioNeMo プラットフォーム
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