メドトロニックが最新の手術支援ロボットシステム「Hugo」を公開 X線設備付き研修トラックやMR技術など5つの最新医療ICT体験会

医療機器メーカーとしてグルーバルに展開するメドトロニックの日本法人、日本メドトロニックは1月16日(月)に報道関係者向けにメディア体験会を開催した。

体験会では、2022年12月に発表した手術支援ロボットシステム「Hugo」を報道陣ひとりずつが操作体験した。また、移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」トラック、MR(複合現実)技術「HoloMe」トレーニングシステム、CTから臓器や血管などの3D画像を生成する症例支援プラットフォーム「d-Case MASTER」、脊椎手術支援ロボットを展示。報道関係者に向けて詳細な紹介が行われ、一部の機器については同様に操作体験も実施した。

アジアでは初となるX線を搭載した移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」が報道関係者に公開された

「Mobile Training Lab」の内部。X線を装備した実臨床に近いシミュレーション施設。研修医や受講生も被爆対策を行った上で、ペースメーカーや脊椎手術などをシミュレーション研修を行う

日本では昨年12月に発表されたばかりの外科手術支援ロボット「Hugo手術支援ロボットシステム」。これが2セット用意され、実際に操作を体験することができた

「Hugo」の操作を体験する報道関係者。3Dグラスを装着して立体視環境で行う

操作者の指示通りに動く「Hugo手術支援ロボットシステム」

CT画像から、グリグリと回して視られる立体画像を生成する症例支援プラットフォーム「d-Case MASTER」。搭載している3D化アプリケーションのViewtifyは株式会社サイアメントが、使用している3DCGの空間再現ディスプレイはソニー株式会社が開発したもの。

「d-Case MASTER」。ホログラム風の立体画面に表示される技術は驚きだ

Microsoft ホロレンズを使ったMR(複合現実)技術トレーニングシステム「HoloMe」。過去の関連記事「MR技術で熟練看護師の目線の動きを再現 看護師の「器械出し」習得を支援する「HoloMe」 メドトロニックと日立ソリューションズが開発」も参照。

説明体験会には、手術支援ロボットシステム「Hugo」、移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」、MR(複合現実)技術「HoloMe」、症例支援プラットフォーム「d-Case MASTER」、脊椎手術支援ロボットが用意されていた






150ヵ国以上、9万5千人以上の従業員からなるグローバル企業

メディア体験会の冒頭、メドトロニック社のExective Vice Presidentのロブ テン ホート氏から開会の挨拶のビデオメッセージが上映されたあと、VPのリズ カルナブーチ氏からメドトロニック社の「これまで」について報道陣への説明が行われた。メドトロニック社は、世界150ヵ国以上、9万5千人以上の従業員からなるグローバル企業だ。

Vice President(VP) Enterprise Accounts & Servece, Japan and ANZ、VP Diabetes , APAC & Greater China リズ カルナブーチ氏

1949年、小さなガレージから始まったメドトロニック社は、1957年世界初の電池式体外型ペースメーカーを開発し注目を集めた。ペースメーカーなど医療機器の開発に従事し、現在では年間7200万人以上の患者の健康回復に貢献していることが紹介された。


日本メドトロニックが重視する3つの取り組み

続いて、頭蓋や脊椎技術のVP、前田桂氏が登壇し、日本メドトロニックの「今とこれから」を紹介した。

VP Cranial & Spinal Technologies, Japan 前田桂氏

日本メドトロニックは3つの取り組みとして「医療現場を支える物流」「デジタルヘルス」「イノベーションにおける国内連携」を掲げた。いきなり物流の話で面食らったが、実際の医療現場ではひとつの手術あたり膨大な器具や薬剤を出荷しているという。更に使用しなかった器具や薬剤は返却され、その膨大な量の出入荷を確実に行うためにRFIDなどの最新技術を導入して生産性の向上とリードタイムの削減につとめているとした。

一回の外科手術に必要な機材・医薬品の例(右写真)。一日の出荷点数は数10万点にのぼる

RFIDトンネルなどICTの最新技術を導入して効率化し、ミスやエラーを防ぐ

最新テクノロジーを活用した技術の例として、「カプセル内視鏡の撮像の解析をAIがサポート」したり、「ARやシミュレーションを使ったトレーニング」「遠隔モニタリングプラットフォームの可視化」「脳深部刺激療法の患者の脳波の一種を計測し、電気刺激治療を記録」する患者データから新しい治療方法の研究・開発などの取り組みが紹介された。

右下の図は、胸元に埋め込んだデバイスから患者の整体データを記録、これをAIに学習させ、治療のアルゴリズムをどんどん改善していくテクノロジーを示している

一方でこれらの研究を更に進めるにはまだ課題があるという。日本国内ではデバイスが収集した患者のデータを誰がどのように管理するか、解釈がまちまちでルール化されていないため、活用と発展の足かせになっているのが実状、とした。
また、トレーニングや最新技術の開発にも注力していて、MR技術を用いた手術室看護士向けトレーニングツールや「力触覚」の整形外科ドリルやシミュレータの開発にも取り組んでいるという。

MR技術を用いた手術室看護士向けトレーニングツールを日立グループと共同開発(左)。LISTECと慶應義塾大学、モーションリブと力触覚技術の医療への応用研究も(AMEDに採択)。力触覚技術は医療分野への応用の期待が高い




外科手術支援ロボット「Hugo」

外科手術支援ロボット「Hugo」(ヒューゴ手術支援ロボットシステム)について解説が行われた。外科手術支援ロボットはロボスタ読者にも興味津々の読者が多いと思うが、「Hugo」は昨年12月に発売が発表されたばかりの鏡視下手術を支援するロボットだ。

Senior Marketing Director, Sergical Robotics , Japan 中川玲子氏

同様の目的で開発された先行するロボットに「タビンチ」や「Hinotori」が知られている。それらのロボットが1つのボディに複数のアームを搭載しているのに対して、「Hugo」は1基のロボットのボディに1本のアームを搭載し、手術室には複数台のロボットを設置して施術を実施する点で形態が異なる。なお、「Hugo」は泌尿器科と婦人科で医療機器承認を得ている。

1基のボディに1本のアーム、「オープンコンソール」などで構成された「ヒューゴ手術支援ロボットシステム」


中川氏によれば、保険診療の関係もあって、「ロボット支援下手術」の割合は低く、2020年以降の調査では「開腹手術」が60%程度、「鏡視下手術」(ロボット以外)が30~25%、゜ロボット支援下手術」はわずか3%だと紹介した。



「Hugo」の特徴は、まず前述のように手術室内の可動性を高めるアーム1本単位での位置調整が可能なデザイン。それぞれが独立したアームのため、症例や患者に応じて柔軟な配置が可能となる。


また術者が見ている操作画面を複数人で同時に確認できる「オープンコンソール」を採用することにより、手術室スタッフとのコミュニケーションも容易になる。


著者も実際に「Hugo」の操作を体験したが、初めての操作でもとても簡単にロボットアームを動かして、思ったようにコントロールすることができ、操作性の障壁はとても低いと感じた。


移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」

説明会の最後に、トレーニングを担当する何川氏が登壇し、移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」の紹介があった。

Trining/Education Director, Training & Education, Japan 何川修一氏

「Mobile Training Lab」は、ペースメーカーの植え込みや脊椎の手術、不整脈の治療などのトレーニングを行うことができる移動型の施設だ。形状は大型トラックで、中には手術室を模した研修室になっていて、通信設備を備え、映像を見たり会話をしたりしながら実際の手術のシミュレーション体験ができる。

移動式トレーニング施設「Mobile Training Lab」の外観全容。既に約20回の現地研修を実施したという。(画像:報道関係者向けに提供)

最大の特徴は、アジアでは初となるX線を搭載したLabトラックということ。X線で身体の内部を視て確認しながら、ペースメーカーの植え込みなどのシミュレーションをおこなうことができる。

「Mobile Training Lab」内部はX線を装備した実臨床に近いシミュレーション施設となっている

なお、実際には冒頭で説明したように多くの医療機器の体験や説明が報道関係者向けに用意されていたので、機会があれば詳しく、動画付きで紹介したいと思う。お楽しみに。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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