NVIDIA ヒューマノイド・マニピュレータ・自動搬送ロボット向けに「Isaacのメジャーアップデート」を発表 安川電機が「GTC 2024」でデモ展示

NVIDIAが基調講演でヒューマノイド開発プラットフォーム「GR00T」(ジーアールゼロゼロティー)を発表したことは既にお伝えしたが、今回、ロボティクス開発の新技術に関する発表は3つあった(GR00Tについては前出の記事「NVIDIAがヒューマノイド開発プラットフォーム提供を発表 ディズニーの二足歩行ロボットが登壇 Jetson Orinから次世代Thorへ」を参照)。


ロボティクス分野で発表された3つのトピック

技術的にはヒューマノイド開発向けの「GR00T」、マニピュレータ等向けの「Isaac Manipulator」、自動搬送ロボットなどビジョン・カメラ開発向け「Isaac Perceptor」だ。この3つの技術はそれぞれがトピックであると同時に、連携して3つの技術を活用するとヒューマノイド開発を更に加速できるトピックでもある、という見方ができる。

NVIDIA Isaacでロボット開発をする開発者は130万、うちROSを活用している技術者は10万人、6000企業がNVIDIA Orinで開発している


デジタルツイン「Omniverse」との連携

ロボットに搭載されるAIは、障害物を避けたり緊急時に停止するなどの安全な走行、最適なルート、複数台のロボットの群管理など、「NVIDIA Omniverse」で生成されたデジタルツイン(仮想環境)の中でリアルタイムにテストを重ねられる。特に工場、倉庫、サプライチェーン全般などで、現実世界でロボットをトレーニングするのは非常にコストがかかり、リスキーなため、デジタルツイン環境でAIが動作を事前に学習することは有効だ。
このワークフローは、開発者が複雑なAIを訓練したり、評価するために使用し、デジタルツイン内で安全性や性能を確保した上で、現実世界の現場にリリースされる。
今回の「GTC」で公開された下記の動画では、「NVIDIA Metropolis」(ビジョン)、「Omniverse」(デジタルツイン)、「CuOpt」、ロボット知覚シミュレータ「Isaac」を活用して、ロジスティックの現場でロボットの自動化を実現するためのコンセプトが紹介されている。

■ Fusing Real-Time AI With Digital Twins


別の視点からの3つのトピック

3つのトピックに話を戻すと、3つのトピックを、ヒューマノイド開発向けの「GR00T」、Isaacプラットフォームのメジャーアップデート「Isaac Lab」と「OSMO」、前述のマニピュレータ向け「Isaac Manipulator」とAMR向け「Isaac Perceptor」、と分類することもできるだろう。以下、後者の3トピックに分けて更に解説しよう。


ヒューマノイドロボット開発向けのプラットフォーム「GR00T」

一つ目は人型のヒューマノイドロボットを開発するためのスタック「GR00T」(プラットフォームモデル)と、それを構成するソフトウェア、複雑で重たい負荷の作業をこなす新しいSoC「Jetson Thor」の発表だ。リリース時期は2025年前半。


これがリリースされれば、ヒューマノイド開発の敷居が下がり、多くの開発者や研究者が開発する機会が得られる可能性が上がると期待できる。

新しいSoC「Jetson Thor」(左下)を使用したプラットフォーム「GR00T」向けに、ファウンデーションモデルを生成し、それをデジタルツイン「Omniverce」のIsaacシミュレーション環境「Isaac Lab」(次項)でトレーニングを重ねてファウンデーションモデルの精度を向上させる。それをエッジデバイスの「Jetson Thor」ロボットにデプロイ、その結果をフィードバックして高性能なモデルに仕上げていく


「Isaac Lab」と「OSMO」

ふたつめは「Isaac Lab」。前回の記事でも「Isaac」プラットフォームのメジャーアップデートと伝えたが、そのひとつが「Isaac lab」で「Omniverse」ベースで、ロボットの動きのシミュレーションで強化学習を行うことができる。また、オーケストレーション サービスの「OSMO」も発表されている。
高精度なAIモデルの開発に、最近は強化学習が用いられることが多いが、トレーニングには膨大な実データや仮想(合成)データが必要となる。「Isaac Lab」は、この課題を解消するため、特にロボット学習のための数千の並列シミュレーションを実行するために「Isaac Sim」上に構築され、高速のGPUで迅速に処理できる軽量パフォーマンスを最適化したアプリケーションとなっている。

また、多くのコンピューティングで分散してロボット開発を行うために「分散した環境全体」でデータを生成したり、トレーニングしたり、ソフトウェアやハードウェアのワークフローを調整して最適化する機能が「OSMO」のようだ。

ロボット学習の「Isaac Lab」とハイブリッド・クラウド・ワークフローのオーケストレーションを可能にする「OSMO」は、「プロジェクトGR00T」とロボットの基礎モデルの開発に役立つ


「Isaac Manipulator」と「Isaac Perceptor」

3つ目は「Isaac Manipulator」と「Isaac Perceptor」だ。ロボット工学の事前トレーニング済みモデル、ライブラリ、リファレンス、ハードウェアのコレクションで構成されている。

NVIDIAの新技術に、基調講演では安川電機やUR(ユニバーサルロボット)などが賛同していることが紹介された


Isaac Manipulator


「Isaac Manipulator」は、マニュピレータ向けの基礎モデルとGPUによって高速化されたライブラリで構成され、ロボット・アームに対して器用に動くAI機能を追加する。開発者は多くの新しいタスクを自動化できる、としている。


初期のエコシステム パートナーには、Franka Robotics、PickNik Robotics、READY Robotics、Solomon、Universal Robots、そして安川電機の名前が挙がっている。
安川電機はAIロボットに注力することを公言しており、数日前もプレスリリースを通じてNVIDIAと連携し、GTCにロボットを展示することを発表しており、実際にGTCの展示会場では同社の青いロボットが動作していた。

Isaacプラットフォームを活用した安川電機のデモ

■安川電機のデモ

安川電機の小川正博社長は「NVIDIAのAIツールと機能を、安川電機のオートメーション・ソリューションに導入することで、業界全体でロボットを導入できる限界を押し広げます。これはさまざまな業界に大きな影響を与えるでしょう」と述べている。

NVIDIA は、既存のロボット操作システムを強化するための「ファウンデーションモデル(基礎モデル)」を導入した。これは、製造業のスマート工場において、さまざまな環境を認識し、適応し、ピックアンドプレイスの作業処理や、再プログラムするロボット開発などに役立つとしている。
● FoundationPose
6D姿勢推定とこれまで見えなかったオブジェクトの追跡のための先駆的な基礎モデル。
● cuMotion
NVIDIA GPUの並列処理を利用して、多くの軌道の最適化を同時に実行し、最適なソリューションを提供。
● FoundationGrasp
未知の3Dオブジェクトの把持を予測するトランスフォーマー・ベースのモデル。
● SyntheticaDETR
新しいオブジェクトの迅速な検出、レンダリング、トレーニングを可能にする屋内環境用のオブジェクト検出モデル。


Isaac Perceptor

「Isaac Perceptor」は、マルチカメラの3Dサラウンドビジョン機能を提供するもの。主に工場や倉庫、敷地内での自動搬送ロボットなどに有効な機能だ。


パートナーは、ArcBest、BYD、KION Group などの企業の名前が挙がっており、新しい高度なビジュアルAI機能のマテリアル ハンドリング業務で新世代の自律性を実現することを目指すとしている。新しい「Isaac プラットフォーム」機能は次の四半期に利用可能になる予定としている。

■NVIDIA Isaac Perceptor 3D Surround Vision

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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