市役所案内を遠隔操作のアバターロボットで 分散アンテナとローカル5Gで実現した未来の市役所とは

ANAホールディングス発のスタートアップ、avatarin株式会社が2024年9月から12月にかけて実施した遠隔区民サービスの実証実験結果を公開した。
この実証はavatarin(株)、NECネッツエスアイ株式会社、株式会社キャンパスクリエイト、国立大学法人電気通信大学(藤井研究室)、東芝インフラシステムズ株式会社がチームを組み、東京都の実施する次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)に採択されたもの。
実証実験フィールドは大田区役所本庁舎で、窓口サービス向上と業務のDXに向けた遠隔での行政サービス案内、多言語対応などの有効性を検証した。





実証実験内容と結果

この実証実験は

1)遠隔での行政サービスの案内、受付、接客の有効性、
2)ローカル5G環境下でのnewmeの接続の有効性、
3)行政サービスの案内、受付、接客におけるnewmeの受容性

の3点の検証が焦点となっている。

そのために敷設されたネットワークは下図のような形だ。


広い空間やフロアを隔てていた空間であっても光ケーブルで接続された複数のアンテナをつかって通信エリアを拡張できるDAS(Distributed Antenna System:分散アンテナシステム)を使うことで施設内の死角や電波漏洩をなくし、一般ユーザーの使う帯域と干渉しにくいローカル5Gによって高い通信品質を確保する、というコンパクトな構成だ。
実空間を動き回るアバターロボット、newmeがどの場所にいても低遅延で高品質な通信ができることは遠隔で接客をするうえで大きなメリットになる。
なお、この通信品質を定量的に示すと、ローカル5G環境でのnewmeでの通信遅延はおよそ30-40msec。ほぼエンコード、デコードによるものだ。

100msecオーバーの遅延が普通にありえる一般的なビデオ通話システムに比べて、それぞれのプレイヤーがどれだけ最適化をしているのかがわかる。
このような高い通信品質の有用性が実験でどのように確認されたのか実証結果を見ていこう。

使用するイメージと館内レイアウト。

1Fの吹き抜けは広く、高出力な電波を使うと建物外の通信環境に影響を与えかねない場面でも複数のアンテナで死角をなくすことができるDASは有効だ。
また、フロアを隔てている4Fでも、DASによって同じセル内での通信として取り扱われるため構成面でシンプルになる。


1)遠隔での行政サービスの案内、受付、接客の有効性

48日間で実施した案内は延べ2601件。1日あたりおよそ50件の対応を実施。開庁時間を考えるとその件数の多寡が気になるかもしれないが、1Fでの案内のために必要な人員を遠隔から複数箇所に配置できることを考えると、メリットは大きい。
また、その件数の中にあった多言語対応が必要であった110件などは、小さくても取りこぼしができない件数だ。
この対応に必要な人員は少ないながらも他庁舎などでも必要とされることをその遠隔化の有用性は非常に大きいだろう。
こういった面が評価されたのか、実証に関心を持った区役所職員の7割が担当職務において活用可能性があるとコメントしている。



ローカル5G環境下でのnewmeの接続の有効性

ローカル5G及びDAS環境下でのnewmeの稼働において、案内成功率は93.3%と良好な結果を得ることができた。
案内失敗の理由を見ても通信によるものはほとんどなく、他の通信方法に比べて回線を占有できるローカル5G、DASの安定した通信の特徴が活きた形だ。

【ローカル5G接続に関して】
運用期間:48日間(5時間/日)

案内成功率:93.3%(2428件)
┗言語別 日本語対応:2329件、外国語対応:99件

案内失敗率:6.7%(173件)

┗言語別 日本語対応:162件、外国語対応:11件

┗理由別 オペレーターによるもの(知識不足など):158件
アバターロボットによるもの(音声、映像乱れによるコミュニケーション不成立など):15件

オペレーターの慣熟により業務知識や運用経験を獲得することでこの数字はより高くできるだろう。


行政サービスの案内、受付、接客におけるnewmeの受容性

newmeを通じて案内を受けた来庁者に対し満足度を聞くアンケートを実施、満足度、信頼性がともに7点満点中5.8点、次回利用希望が5.7点と高い数値となった。
また、日本語以外での対応に関しては満足度6.1、信頼性5.8次回利用希望が6.2と日本語よりも高い数値となっている。

このようなサービスが「ビデオ会議システム」などを普段から使っていない層などを多く含む区役所ユーザーから評価されたのは大きな成果だ。
インバウンド需要のみならず、多様化する社会において必要なサービスである証左だと言えるだろう。

マイナンバーカードの利用などにより行政サービスのオンライン化が進む中、来庁する人々の多くは、様々な形での困難を抱えている可能性が高い。
そういった人々のUXを上げるのにあたって、低遅延、高品質な通信サービス、ロボティクスを利用し、コンパクトで幅広なサービスの有用性を確認できたのは大きな手応えだっただろう。

40日間以上におよぶ連続稼働により大きなノウハウが蓄積できたavatarinだけでなく、公共空間用移動ロボットむけに提供する通信インフラのノウハウなどを獲得した各事業者の今後の動きに注目していきたい。

◆各社の役割の詳細
・avatarin(株)
超低遅延で大容量の映像や音声、制御データ等をインターネット経由で高速伝送することを可能にする、独自のアバター技術の研究開発す。本実証においてはアバターロボット「newme」を活用した、「遠隔区民サービス」を提供。
また、実証プロジェクト管理者としてサービス設計・オペレーション・効果検証等を行う。

・NECネッツエスアイ
これまで様々な自治体や企業と5Gの活用を推進してきた知見やノウハウを活かし、本実証のサポートを行う。また、本実証を「HYPERNOVA」※を用いた一つのユースケースとして捉え、自治体向けにデジタル技術を活用した業務効率化・地域活性化などの提案を行うことで、地域課題の解決とサステナブルな社会の実現への貢献を狙う。

・キャンパスクリエイト
電気通信大学TLOかつ広域TLOとして、24年以上にわたり産学官連携・オープンイノベーション支援を行なう。また、令和5年度にTokyo NEXT 5G Boosters Projectの開発プロモーターに採択され、avatarin(株)をはじめとした都内スタートアップ企業の次世代通信技術を活用した製品・サービスの開発及び事業実施に向けた取組を支援。本実証では、実証事業の技術・資金・広報面でサポートする。

・電気通信大学
ローカル5Gを含めた様々な電波環境・通信状態の計測を行い、データ収集・集約、クラウドセンシングなども活用しながら電波伝搬モデルを構築することで、電波環境マップの作成や周波数資源の有効活用に繋げる研究に取り組む。本実証においては、庁舎内における電波環境・通信状態に関して多面的な計測を行い、キャリア通信網とローカル5Gの対比を検証。

・東芝インフラシステムズ
ローカル5Gを活用し、社会課題を解決するユースケースやビジネスモデルの創出に取り組む。社会インフラへの新たな価値の提供を狙う。本実証ではDASを活用することでローカル5Gの課題である障害物による電波不感や、敷地外への電波漏洩等を解消し、安定かつ柔軟なローカル5G環境を構築。

・大田区【フィールド提供】
大田区は、内閣府から「自治体SDGsモデル事業」と「SDGs未来都市」に選定され、区内企業の稼ぐ力の強化や区民のQOL向上につながるイノベーションを「羽田イノベーションシティ」を起点に推進している。本実証では、行政サービスのイノベーションを目指して、フィールドの提供、実証サポート(区役所での実証調整)を実施。

・東京大学【技術協力】
5G技術の社会実装に向けて、小型、コスト低廉化、低消費電力、柔軟性、迅速展開性等を実現するローカル5Gシステムの研究開発を行っている。本実証においてはavatarin(株)との共同研究に基づきローカル5G基地局の提供を行い、実証により収集したデータを活用し次世代サイバーインフラの研究開発に繋げる。

・産総研【共同研究】
人とデジタル技術が協働するサービスシステムの包括的デザインについての研究などを行なう。本実証においては、avatarinとの共同研究として、公共サービスにおけるアバターロボットを用いた遠隔接客業務の効果・課題、利用者・オペレータ等への影響を調査し、必要な職場環境・業務プロセス等の改善に向けた研究を行う。

※ :HYPER NOVA
小型筐体にローカル5G環境を構築するために必要な全ての機能を備え、電源を入れるだけで通信が利用可能となるローカル5G小型統合基地局。NECネッツエスアイと東京大学と共同研究により省電力かつ小型化を実現し、どこでも容易に持ち運びが可能。

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ロボスタ編集部

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