
「首都圏国立大学合同ハッカソン」の最終発表会が、2025年9月20日にソフトバンク本社で開催された。「首都圏国立大学合同」という異例の形で行われた本ハッカソンには4チームが出場。いずれも首都圏の国立大学の学生で構成され、各チームに企業メンターが加わるスタイルとなった。
内容はビジネスコンテストとハッカソンを融合させた形式で、AIの有効活用や新規性が重視された。
参加した学生は1年生から修士2年生までの計24名。内訳はお茶の水女子大学2名、電気通信大学5名、東京海洋大学5名、東京外国語大学4名、東京農工大学5名、一橋大学3名。各チームは学生4名と企業メンター2名の6名体制で臨んだ。
メンター企業は花王、CRI・ミドルウェア、東京スター銀行、ハートビーツの4社。各チームは企業名を冠してエントリーし、エントリー費用は企業が負担した。
優勝は「しみぬきシンキング」(花王チーム)
優勝には、花王がメンターを務めた「しみぬきシンキング」が輝いた。発表したサービスは「UVミエルノ」だ。日焼け止めの効果持続を見える化(数値化)し、商品選択や使用時に「感覚に頼らざるを得ない」という課題に着目した。
ビジネス面では花王の事業戦略を踏まえた。猛暑の影響もあり、日焼け止め市場は年々拡大。2025年には669億円と過去最高の売上が見込まれている。中でも花王はシェア27%でトップを占めており、投資による収益拡大が期待できる市場だ。一方で競合他社も多く、シェア争いは熾烈になっている。この状況を踏まえ、花王製品を用いた精密なデータ「見える化」とAIクラウドサービスの連携を提案した。
また、同社の中期成長ドライバー領域や「グローバルシャープトップ戦略」(技術で社会課題を解決する取り組み)とも合致。消費者が自ら製品価値を実感し、エビデンスベースでのマーケティングを推進することで競合との差別化を図れる点も強調した。
アプリ「UVミエルノ」の仕組み
「UVミエルノ」はスマートフォン向けアプリ。利用者は最初に自分が使用している日焼け止め製品を選択し、測定を開始するとSPF値(日焼け止めの防御力)が表示される。SPF値は汗や水濡れ、時間経過で低下し、一定値を下回るとプッシュ通知で塗り直しを促す。
測定終了時には、浴びた紫外線量と防御できた紫外線量(理論値)を算出。さらにAIによるフィードバックも提供する。これにより、従来は感覚的だった日焼け止め使用や製品選択の不安を軽減し、効果の「見える化」で課題解決を図る。
ただし、スマートフォンには紫外線センサーが搭載されていないため、推定値を活用。屋内外での紫外線量の差を考慮し、GPSなどで環境を判定した上で、機械学習を用いて解析している。フィードバック情報はRAGに蓄積し、継続的に活用される。
「UVミエルノ」ビジネスモデル
「UVミエルノ」は無償提供を予定。開発費は約1,600万円、年間運用費は約2,240万円を見込む。ユーザーが精度の高さを期待して花王製品を選択することでブランド力を強化し、収益化につなげるモデルとして、何年後に収益化できるかも試算した。
今まで感覚でしか判断できなかったことを、AIやデータによって見える化するツービスはとても正統的なアプローチだと感じた。また、プレゼンのレベルも高く、構成も体系だっていて、とても解りやすかった。
「しみぬきシンキング」チームのプレゼンの最終の「私たちはこのアプリで紫外線リスクを見つめ、消費者一人ひとりが適切な紫外線対策を取れる社会を築きたい」という言葉も印象的だった。
「推し活」支援や「人事・原価管理」支援も
4チームの結果は下記の通り。
1位:しみぬきシンキング(花王)
2位:わくわくスター(東京スター銀行)
3位:BOSS(ハートビーツ)
4位:ノーヴィーリス(CRI・ミドルウェア)
2位は「わくわくスター(東京スター銀行)」
2位は「わくわくスター(東京スター銀行)」が獲得した。
「わくわくスター(東京スター銀行)」は、一部の10代・20代を中心に人議が高まっている「推し活」に着目。
推し活を支援するアプリの機能に加え、銀行らしく家計簿や収支機能を持たせた。更に、お金の運用に感ル「健全さ」をAIによるスコアリングで評価する機能も盛り込んだ。
3位はBOSS(ハートビーツ)
3位は「BOSS(ハートビーツ)」が獲得。
社員やプロジェクトメンバーの人事評価や原価管理などを支援するツール「シルシア」を発表。
パソコンなどから自動でのログを収集し、AIが要約を作成することで、評価や原価管理担当者の負担を軽減するサービスとなっている。
4位はノーヴィーリス(CRI・ミドルウェア)
4位はノーヴィーリス(CRI・ミドルウェア)。
ボイスコミックの自動生成プラットフォーム「コミミックスタジオ」を提案した。
企画の段階で出版の大手、SBクリエイティブにヒアリングし、耳で楽しむコミックはコストや人員面の制約によって思うように制作できていないという課題に対して自動化するシステムの構築をプレゼンした。
産官学の連携の事業開発へ
8月18日の開会式に始まり、中間発表を経て約1ヶ月のプログラムは幕を下ろした。
審査員としては、以下のメンバーが参加した。
審査員による総評では、ソフトバンクの統括部長・打越裕幸氏が次のようにコメントした。
「私たち自身も社内では『生成AIを積極的に活用せよ』と促される状況にあります。学生の皆さんは“ネイティブAI世代”であり、さまざまなAIツールを自在に使いこなしていることがプレゼンからも伝わってきました。非常に高いポテンシャルを実感させられる良い機会になりました。
参加した皆さんにとっても、このハッカソンを通じてプロセスとアウトプットの両面で大きな学びや気づきが得られていれば、私としても嬉しく思います。
ソフトバンクとしては、これまでもハッカソンを開催してきましたが、企業と学生が共に参加する形式は今回が初めてです。学生と真摯に向き合ってくださった企業の皆さまにも感謝申し上げます。企業にとっても、目的の達成につながる成果が一つでも得られたのであれば幸いです」
ソフトバンクは今回のハッカソンを重要な事業開発の一環と位置づけ、大学と企業を結びつけながら、新たな市場創出に向けて産官学連携を推進していく考えだ。
このハッカソンは、企業にとっては国立大学の学生と交流する貴重な機会となり、学生にとっては「ビジネスとして社会に関わるとはどういうことか」を高い熱量で体験できる、非常に意義のある場となったのではないかと、筆者も強く感じた。
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。