ソフトバンク 空飛ぶ基地局「HAPS」の安定した大容量通信実験に成功 3つの課題解決に成果、成層圏通信に前進

ソフトバンク株式会社は、空飛ぶ基地局と呼ばれている成層圏通信プラットフォーム「HAPS」(High Altitude Platform Station:ハップス)の開発に積極的だ。2026年中のサービス開始を予定している。
同社は2025年9月18日、HAPS向けの「6セルに対応した大容量のペイロード(通信機器)」を新たに開発、上空からの5G通信の実証実験に成功したことを発表、報道関係者向けに説明会を開催した。
今回の実証実験は軽飛行機を使って八丈島で実施されたものだが、成層圏通信プラットフォームでも技術的に同様の成果が期待できることから、HAPSの安定した5G通信の実現に前進したことになる。
成層圏を飛ぶ基地局「HAPS」
HAPSは成層圏を飛ぶグライダーが、ゲートウェイ(基地局と接続した地上局)との通信を経由し、スマホなどの携帯端末と通信を実現する技術。
HAPSとゲートウェイを繋ぐ大容量無線通信部を「フィーダリンク」、HAPSがスマホなどの携帯端末と通信する部分を「サービスリンク」と呼ぶ。
今回の技術は成層圏を飛ぶグライダーではなく、高度3,000mに滞空する軽飛行機に「フィーダリンク」と「サービスリンク」の装置を結合した大容量のペイロードを搭載し、2025年6月に東京都の八丈島で実験した。
なお、今回の実証実験では、HAPSがこれまで抱えていた3つの課題に対して、新技術の有効性を確認した。3つの課題とは「通信エリアの固定(フットプリント固定技術)」「エリア全体の通信容量増大(エリア最適化技術)」「HAPSと地上の通信システムとの電波干渉の抑止(周波数共用技術)」。
フットプリント固定技術とは
基地局と軽飛行機、携帯端末間のエンド・ツー・エンドの5G通信を、6セル対応の「フットプリント固定技術」の実証に成功した。
通常、スマホと基地局が通信する際、スマホ側の移動に合わせて、通信範囲内の基地局に自動的に切り換えるハンドオーバーが行われる。HAPSの場合は基地局側となるHAPSの機体が移動・旋回・姿勢変化するため、地上の通信エリア(フットプリント)がその機体の動きによってずれて変動してしまう。
そのため、頻繁にハンドオーバーが行われたり、通信が不安定になりがちだ。それを解決するのが「フットプリント固定技術」で、地上の通信エリア(セルの境界等)がその機体の動きによってずれて変動しないように、「地上で固定されたセル構造・通信エリア」を維持するしくみ。
シリンダーアンテナ構造
ソフトバンクはHAPSに搭載する「シリンダーアンテナ」として、側面に複数のアンテナ素子を配置。これにより360°を複数のセルに分割できる構造にした。そして今回の実験では6セル対応の最新のものを使用した。
ビーム制御
ビームフォーミング制御技術を使い、各アンテナ素子からの電波の位相・振幅を制御し、電波の指向性を変えることで、セルの向きを適正に補正。機体が旋回したり姿勢が変わっても、地上へのビームの方向を調整してセルのフットプリントを最適な位置に固定する技術を今回の実験でも導入した。
この技術は通信エリア内の端から端まで通信品質を安定したものにする効果もある。
HAPSと地上の通信システムとの電波干渉の抑止
HAPSの通信エリア内の地上に通信基地局がある場合、そこと電波干渉を起こして通信が不安定になる可能性がある。これを避けるために「ヌルフォーミング技術」を導入した。通常、狙った端末に向けて電波を強調して通信する「ビームフォーミング」が既にお馴染みだが、「ヌルフォーミング」はその逆。地上基地局があるエリア周辺だけ電波を抑えることで、HAPSと地上基地局の通信を共用する。
実証実験の概要
実証実験は、HAPSを想定した軽飛行機に、新しく開発した6セル対応のペイロードを搭載し、ゲートウェイと機体間の「フィーダリンク(26GHz帯)」および、機体と携帯端末間の「サービスリンク(1.7GHz帯)」を中継させることで、地上のゲートウェイに接続した基地局と携帯端末間のエンド・ツー・エンドの5G通信の実証を行なった。
さらに、高度3,000mから地上に向けて形成した6セルのエリアに対するフットプリント固定の実証実験を行なった。
システム構成
今回の実証実験のシステム構成は次の通り。
軽飛行機は八丈島の上空を旋回しながら高度3,000mに滞空し、基地局と携帯端末間の上り/下りの信号を無線中継する。
フィーダリンク装置は、ビームトラッキング、受信レベル補償、ドップラーシフト補正などの機能を搭載、26GHz帯の電波を利用して6セルの信号を無線中継した。
サービスリンク装置は、セルごとにデジタルビームフォーミング制御によるフットプリント固定を行い、1.7GHz帯の電波を利用して、機体下部のサービスリンクアンテナ(シリンダーアンテナ)から、方位角60°ごとの全6セルで構成される円形の通信エリアを地上に形成した。
実証実験の結果
これらのシステム構成により、広域のフットプリント固定性能および、遠方における基地局と携帯端末間のスループットを評価した。通信エリア内の受信レベルを測定したところ、軽飛行機の旋回位置を中心とした方位角360°の円周上において、最も受信レベルの高いセルが60°ごとに切り替わっていることを確認した。
これは、機体の旋回によって位置や姿勢が変化しても、各セルのエリアは地上に固定されていることを意味する。
また、携帯端末を使用してスループットの測定を行ったところ、軽飛行機の旋回の中心から15kmの地点で下り平均「約33Mbps」を達成。
通信エリアの端においてもサービスリンク/フィーダリンクを介したエンド・ツー・エンドの5G通信が可能であることを確認した。
なお、機体の旋回中心から15kmの地点における高度3,000mの機体の仰角は約11°であり、これはエリア半径100kmの地点における高度20kmのHAPSの仰角と同等なため、HAPSのカバーエリアの端に相当する周辺環境でも通信を維持できる見通しが得られた、とした。
ソフトバンク、飛行船みたいな空飛ぶ基地局「HAPS」のプレ商用サービスを2026年に開始 被災地に通信サービスを提供
ドコモ 空飛ぶ基地局「HAPS」とスマホでLTE通信に成功 上空高度20kmの成層圏では世界初の快挙
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神崎 洋治
神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。